花児
花児 夜譚随録
ある侯が花児という犬をかわいがっていた。
無頼の従に襲われ、弄ばれそうになった。花児はよく主人を守ったが、石を投げつけられ動かなくなった。幸い騒ぎが大きくなり、駆け付けた人によって候は救われ難儀を逃れた。
花児はいきており、よろめいていたが、それでも必死に候を守ろうとしているのだった。
だが、当たり所が悪かったのか、ものを食べることもなくなり数日後に亡くなった。
その夜のこと、候は悲しんだせいか、花児の夢を見た。花児は、まだ自分は恩を返しておらず、いつか必ず恩返しをすると約束して去っていった。
それからしばらくして、候に執着があったのか、同じ無頼の従にあってしまった。
今度は花児の助けもなく、犯されそうになった。
もはやこれまでと思ったとき、毛の抜け落ちた見覚えのない犬が突然現れ、無頼たちに噛みついて侯を助けた。
犬は、そのまま姿を消してしまった。
その夜のこと、夢で再び花児が現れた。
「恩返しは済みました」
花児は霊となり、ほかの犬を操って、候を助けたのだった。
「神様は私の忠義をほめてくださり、これから人間に生まれ変わります。ご主人様、お別れです」
花児は悲しげな声を上げて、候に頭を下げると、どこかに消えていった。
それから候は人になった花児の福運を願い、供養を怠ることがなかったという。