鬼女
鬼女 清原右大将(浄瑠璃)
「我こそは山河を廻る鬼女にてあり。されば、この子を人倫に交らせ、輪廻の業を免れさせんと願えども、秋津島がうちに、主と頼まんものなく。されど、御身は未だ未生なれど、頼もしくこの怪童を奉る」
頼光が頷くと、老女は童に向かい
「親と思い仕えよ」
童はわからぬようで、老女にすがろうとするが
「我が寿命二百余歳に極まり、ちくらが沖に沈む」
鬼女と化し、虚空に消えた。
源頼光が、いわれない非難を受け、都を去り、諸国を旅していた時代があった。いまだ武将としてはこれといった功をたててはおらず寂しいものであった。
その旅の中で足柄山に差し掛かった時に、不意に大岩が割れ、中からひとりの老女、その手にひかれ童が現れた。
「私は山に住む鬼女でございます。この子は、竜との間に生まれた子で、ございます。願わくば、人として生きる道をこの子をと思い、仕えるべき武将を探していましたが、おりません。しかし、あなた様は、いずれ名を為す方。この子の主となってくださらないでしょうか」
頼光はその様子に頷き、童を郎党として加えるのを承諾した。
老女は童に話すが、その喜びは伝わっておらず困惑するばかりであった。 「このお方を、親と思い仕えるのですよ」
老女がいっても、童は頑として首を縦にふらなかった。
「もう、私の命は200を超え、ちくらが沖(唐と日本の汐境)に沈むこととなっている。この子のこと。お願いします」
老女の姿はたちまち鬼に転じ、空を駆け消えていった。
童は、頼光に仕え、大江山で酒呑童子をはじめ、あまた鬼神を滅ぼした坂田金時となった。
童は、頼光に仕え、大江山で酒呑童子をはじめ、あまた鬼神を滅ぼした坂田金時となった。