RADWIMPS「愛にできることはまだあるかい」を聴いて涙が止まらなかった理由
不意をつかれる
数年前に皿洗いをしながら聴いていた曲がある。それは、アニメ映画「天気の子」の主題歌だった。
主人公が絶望の中で選択し、愛を守る姿が印象的な、青春と恋愛を描いた映画だと記憶している。
曲の後半部分に一瞬、曲調が変わる。
そのとき、私はこの歌詞を聴いて、不意に号泣してしまった。
実は、それまでにもこの曲を聴いたことはあった。しかし、そのときは最後まで歌詞に耳を傾けたことがなく、どこかで「ただの恋愛歌だ」だと思い込んでいたのだ。
なぜ、この歌詞にここまで心が共鳴してしまうのだろう。私は、その理由を知りたくて、何度もリピートして曲を聴き直した。
そして、聴けば聴くほど、この歌詞には「神への問い」が隠されているように思えてきた。
ちなみに、私は特定の宗教を持たない。それなのに、どうしてここまでこの歌詞に共鳴してしまうのか。それがずっと心に引っかかり続けている。
何年間も考え続けてきたこの思いを、今日はnoteの皆さんとシェアしたいと思う。
なぜならnoteに集う人たちは、きっと言葉の力を知っている人たちだと思うから。
すり抜けるものばかり与えたか
私は、この曲の全歌詞をネット上で探し、iPhoneのメモアプリに貼り付けた。そして改めて全歌詞を読み直すと、その言葉が本当に胸に深く響いてくるのを感じた。
この歌詞は、私たちに深い存在論的な問いを投げかけているように思える。
「なぜ夢を見させたか」「なぜ希望を持たせたか」という問いは、人間が生きる上で避けられない矛盾や不安を浮き彫りにする。そして、その矛盾の中で意味を探し続ける自分自身への問いを感じさせる。
確かに恋の歌ではある。しかし、それ以上に、これは人間の存在そのものへの問いであり、さらには神への問いとしても読めるような普遍性を持っていると感じた。
特に私の心を大きく揺さぶったのは、「すり抜けるものばかり与えたか」というフレーズだった。この言葉は、私が求めても手に入らないもの、消えゆくものへの無力感を思い起こさせる。
たとえば、学生時代に夢見ていた英語を使った仕事や、作家として何かを生み出すこと、心理学を深く学びその道を究めること――どれ一つも実現することができなかった。そして、愛犬が重い病を患い、最終的に安楽死を決断せざるを得なかった経験もある。
そして、乳がんで亡くなった友人のことが思い浮かぶ。彼女は、病と闘いながらも最後まで笑顔を絶やさず、周囲の人々に愛を与え続けていた。その姿は私にとって、「しがみつくように生きる」ということの意味そのものを教えてくれたように思う。
彼女の旅立ちを見送ったとき、私はどうしても問い続けずにはいられなかった。
「なぜ、こんなにも大切な人を失わなければならないのか?」その問いの答えは、今も見つけることができていない。
人生の中で、どれだけ追い求めても叶わなかった夢や愛、大切だったものたち。それらが私の頭の中に次々と湧き上がり、もう取り戻すことのできないものばかりが浮かんで、胸が締め付けられるように苦しくなった。
この歌詞がここまで私の心に響くのは、まさにその「しがみつく」姿勢が、私自身の生き方や人生観に深く突き刺さるからなのだろう。
これほどの美しい言葉に出会ったことがない
改めて全歌詞を読み直すと、この曲が持つ力は、単に愛を讃えるだけではないことに気づく。それは人生や人間の存在そのものに関わる問いを、まるで直球を投げつけるように、私たちの心に突き刺してくるところにあると思う。
この歌詞の特徴は、「愛」というテーマを通じて、人生の不条理や矛盾、そしてそれを超えていこうとする人間の意志や美しさを描いている点だ。そのため、一般的な恋愛ソングとは全く異なる異質な存在感を放っている。
たとえば、「何もない僕たち」「終わりある人生」「この手をすり抜けるものばかり」という言葉。それらは、人生の儚さや、私たちが無力だと感じる瞬間をこれ以上ないほど如実に表現している。この歌詞に触れるたび、それが私自身の心に深く共鳴しているのを感じるのだ。
それにしても、これまで多くの文章や表現に触れてきた中で、こんなにも美しい言葉に出会ったことがあっただろうか。
遅ればせながら、この曲の作詞・作曲を手掛けた野田洋次郎氏の才能に敬服せざるを得ない。彼の言葉の力、そしてその中に込められた深い洞察に、私は心の底から感謝と驚嘆の念を抱いている。
愛にできることはまだあるよ
歌詞の後半にかけて、どこかに「死」が見え隠れしている。それを明確に言葉で示してはいないのに、「死」が暗示される。
相思相愛の相手、家族、ペット――かけがえのない存在を愛すれば愛するほど、私たちはその存在を必死で守り、永遠にふれていたいと願う。
永遠ではないものを愛する。有限の中に無限を見出そうとする――そんな人間の姿が、この歌には詰まっているのだと私は思うのだ。
ふと思い起こせば、我が家の愛犬が亡くなる数日前にいつもの公園に連れて行った。彼女は足腰がおぼつかないながらも地面を踏み締め、私の顔を見ながら、ただ一緒に生きるだけで嬉しがる顔が、今でも忘れられない。その後あっという間に彼方へわたってしまったが。
愛犬の亡骸に向かって「もう一度生まれ変わっておいで」と呼びかける夫も、また有限の命への悔しさを感じたのだろう。
震えるほどの感動というのは、きっと理屈では割り切れない感情が心を揺さぶるからだろう。歌詞を聴くたびに、私の中の「生きるとは何か」「愛するとは何か」という問いがつねに刺激され、何か答えに近づくような感覚が生まれる。
が、まだはっきりとはわからない。
締めくくりに歌われる歌詞「愛にできることはまだあるよ」これだけが問いかける私たちへの答えなのかもしれない。
全歌詞)
何も持たずに 生まれ堕ちた僕
永遠の隙間で のたうち回ってる
諦めた者と 賢い者だけが
勝者の時代に どこで息を吸う
支配者も神も どこか他人顔
だけど本当は 分かっているはず
勇気や希望や 絆とかの魔法
使い道もなく オトナは眼を背ける
それでもあの日の 君が今もまだ
僕の全正義の ど真ん中にいる
世界が背中を 向けてもまだなお
立ち向かう君が 今もここにいる
愛にできることはまだあるかい
僕にできることはまだあるかい
君がくれた勇気だから 君のために使いたいんだ
君と分け合った愛だから 君とじゃなきゃ意味がないんだ
愛にできることはまだあるかい
僕にできることは まだあるかい
運命(サダメ)とはつまり サイコロの出た目?
はたまた神の いつもの気まぐれ
選び選ばれた 脱げられぬ鎧
もしくは遥かな 揺らぐことない意志
果たさぬ願いと 叶わぬ再会と
ほどけぬ誤解と 降り積もる憎悪と
許し合う声と 握りしめ合う手を
この星は今日も 抱えて生きてる
愛にできることはまだあるかい?
僕にできることはまだあるかい
君がくれた勇気だから 君のために使いたいんだ
君と育てた愛だから 君とじゃなきゃ意味がないんだ
愛にできることはまだあるかい
僕にできることは まだあるかい
何もない僕たちに なぜ夢を見させたか
終わりある人生に なぜ希望を持たせたか
なぜこの手をすり抜ける ものばかり与えたか
それでもなおしがみつく 僕らは醜いかい
それとも、きれいかい
答えてよ
愛の歌も 歌われ尽くした 数多の映画で 語られ尽くした
そんな荒野に 生まれ落ちた僕、君 それでも
愛にできることはまだあるよ
僕にできることはまだあるよ
英訳(チャットgptより)
ls There Still Something Love Can Do?
Born into this world with nothing in hand,
Writhing in the cracks of eternity.
In an era where only the resigned and the wise prevail,
Where can we find the air to breathe?
The rulers and even God seem distant,
But deep down, they must know the truth.
Courage, hope, and the magic of bonds—
Grown-ups turn away, leaving them unused.
And yet, even now, the memory of you
Stands at the center of all my justice.
Even if the world turns its back on us,
You, who continue to face it head-on, are still here.
Is there still something love can do?
Is there still something I can do?
Because the courage you gave me,
I want to use it for you.
Because the love we shared,
It only matters if it’s with you.
Is there still something love can do?
Is there still something I can do?
Is fate nothing more than a roll of the dice?
Or perhaps just another whim of God?
Armor we can’t remove, chosen or forced,
Or is it an unwavering, distant will?
Unfulfilled wishes and reunions never realized,
Tangled misunderstandings and accumulating hatred.
Voices of forgiveness and hands clasped together—
This planet carries it all as it keeps on living.
Is there still something love can do?
Is there still something I can do?
Because the courage you gave me,
I want to use it for you.
Because the love we nurtured together,
It only has meaning with you.
Is there still something love can do?
Is there still something I can do?
Why were we, who have nothing, made to dream?
Why were we given hope in a life that ends?
Why were we given only things that slip through our hands?
Even so, is it ugly that we still cling to them?
Or perhaps… is it beautiful?
Answer me.
Love songs have been sung to exhaustion.
Countless movies have told every story.
Yet in this wilderness, you and I were born.
Even so,
There is still something love can do.
There is still something I can do.