TikTokを語る上で、欠かすことのできないテーマの一つに「トレンド」があります。毎日のように、ハッシュタグや音楽、モノ、コト、エフェクトなどの新しい流行が誕生し、なかにはTikTokを超えて、世間に定着するものも。 そんなTikTokトレンドは単なる流行に留まらず、クリエイターやアーティストのブレイク、商品やお店の集客に繋がるなど、「TikTok売れ」といった現象も生まれ、さまざまなストーリーが存在することをご存知でしょうか。 今回を初回とし、今後連載でお届けする「トレンドでは、終われない。」では、TikTokで話題になったトレンドのルーツや、そこから生まれたストーリーに迫ります。
第一回となる今回は、ファッションのコーデ紹介から派生したトレンド、「#うちゅくしい」について紐解きます。
TikTokの「#コーデ紹介」投稿とは
TikTokでは、ファッション系コンテンツが盛りだくさん。
「#ファッション」を付けて投稿されたTikTok動画の総再生回数は90億回を超えており(2023年5月22日時点)、幅広いジャンルのクリエイターが気軽にその日のコーディネートを動画に撮ったり、おすすめのファッションアイテムや着回し術の解説動画などを投稿しています。
2023年の上半期に最も投稿数が伸びたハッシュタグの一つには、「#コーデ紹介」があります。
文字通り、ファッションのコーディネートを紹介する投稿に使用されるハッシュタグですが、1ヶ月あたりの投稿数が2022年12月と2023年1月を比較すると、なんと約2.3倍にまで増加。
この投稿数の急増には、2023年12月中旬ごろに、「#コーデ紹介」から派生した新しいTikTokトレンド「#うちゅくしい」が誕生したことが関係しています。
「#コーデ紹介」から「#うちゅくしい」が誕生したきっかけ
「#うちゅくしい」の元ネタを辿ると、ファッション系クリエイターの「Sleepy Boy」のコーデ紹介動画に行き着きます。
高性能マイクを持ち、「今日の気温は〇〇度、この(アイテム名)をメインに、着替えていきます!」といった、独特のセリフとシチュエーション設定から始まる投稿スタイルに注目が集まりました。
そんなSleepy Boyの投稿を自分流にアレンジした別の2組のクリエイターによって、「#うちゅくしい」が生まれました。
最初の火付け役は、同じくファッション系クリエイターの「🔱SHIGE 🔱」。TikTokで動画投稿を開始したのは2022年3月からで、当時は決まった型は作らず、色々なパターンでファッション動画を投稿していました。
🔱SHIGE 🔱は「もっと面白要素のあるファッションコンテンツを発信したい」と考えていたそうで、参考になりそうなネタを探していたところ、Sleepy Boyの投稿を見つけたようです。
自分のイメージするコンテンツを再現できそうだと思った彼は、Sleepy Boyの投稿スタイルを真似して動画を作り始めました。
Sleepy Boyの動画には「かわちい」など独特なワードが登場していました。そこで🔱SHIGE 🔱は差別化をはかるために、オリジナルのワードを考案。「美しい」を「うちゅくしい」に変えて動画で発言するようにしました。
そうして作られた動画は、2022年12月10日に初めて投稿され、再生回数は約400万回を記録する大ヒットとなりました。それ以降、同じような投稿を2日に1本くらいのペースで上げ続け、現在関連動画は70本以上も投稿されています。
そんな🔱SHIGE 🔱の投稿をアレンジしたのがファミリー系クリエイター「ゆずみつ🐝」でした。
父親と母親、7歳のゆずちゃんと4歳のみつ君、1歳のてる君の5人一家で、家族の仲睦まじい様子が癒やされると大人気。現在、TikTokで69万人以上ものフォロワーを抱えています。
🔱SHIGE 🔱の動画を見て、子どもがやったら可愛いだろうと思った両親が、みつ君と一緒に投稿。みつ君は、🔱SHIGE 🔱の「うちゅくしい」というワードがうまく言えず、「うちゅくちぃ」となってしまいましたが、子どもらしく舌ったらずな口調で話す様子も可愛いと反響を呼び、今では再生回数約1,800万回を達成する大ヒットとなりました。
2組のクリエイターがそれぞれ連鎖するように投稿したことで、他のユーザーも真似して投稿し始め、「#コーデ紹介」のハッシュタグ投稿数は、現在29,556本、「#うちゅくしい」は5,810本にまでになる、上半期で最も話題になったトレンドの1つとなりました。(2023年5月22日時点)
2023年6月7日に、「#うちゅくしい」が「TikTok上半期トレンド大賞2023」のチャレンジ部門のノミネートに選出されたことが発表されました。「TikTok上半期トレンド大賞2023」の詳細はこちらをご覧ください。
トレンド化させた2組のクリエイターへインタビュー
「🔱SHIGE 🔱」と「ゆずみつ🐝」の2組に、当時の心境や自身の投稿がきっかけでTikTokトレンドが生まれたことでどんな変化があったのかについてインタビューしました。
その影響は、元ネタのSleepy Boyにも
元ネタとなったSleepy Boyは、投稿がトレンドになったことに関してどのように感じているのか、自身にも何か変化があったのか、お話を伺いました。
その後トレンドのジャンルや投稿者層にも変化が
変化があったのは、ハッシュタグ投稿数だけではありません。2月ごろからは投稿ジャンルにも変化が現れました。
当初は、日常使いできるコーデ紹介がメインでしたが、次第に、ペットの洋服、スポーツ着、仕事着をテーマにした投稿も見られるようになり、さらには、ご飯、メイク、お部屋作り、開封動画など、ファッションの垣根を超えた投稿も増えていきました。
身近なものをマイクの代わりにし、「うちゅくしい」や「かわちい」のキーワードを使って好きなものを紹介するというフォーマットは、どんなジャンルの方でも真似しやすく、自分流にアレンジしやすいことが1つの要因でしょう。
次第に有名人もこのTikTokトレンドを投稿するようになりました。
アイドルからはライブや収録に着ていく衣装に着替える動画、スポーツ選手からはユニフォームに着替える様子の動画が投稿されています。
さらに、企業からの投稿も多数見られました。特に飲食店やアパレルショップからの投稿が多く、実際に販売しているメニューを作る様子や、販売しているアイテムを使ったコーデ紹介など、商品のPRに繋げた投稿がされています。
今後生まれるトレンドにも注目
このように、「#うちゅくしい」は、幅広い年齢層の方々が、さまざまなジャンルで投稿できる遊び方で、大きなトレンドに成長しました。
TikTokのトレンドはたった1本の動画から生まれることは少なく、誰かの投稿にインスパイア(感銘)を受けたユーザーの皆さんが次々とアレンジを加えることで生まれることが多々あります。
この現象は「ミーム」と呼ばれ、型となる遊び方が生まれると、ユーザーの皆さんが真似しだし、そこから、別ジャンルで投稿する人や、複数人で投稿する人、オチだけ変えて投稿する人など、アレンジを重ねて楽しみながら広がっていきます。
次は誰によって、どんなトレンドが作り出されるのか、今後登場していくトレンドにもご注目ください。