「Journal:Last 10 matches (ラスト・テン・マッチ)」vs Hiroshima
「Last 10 matches」について
少し前、記者の方に「マッチレポートはしないのですか?」と聞かれました。
普段、大概の試合をメインスタンドではなくピッチレベルから、カメラマンビブスを着用して撮影させてもらっています。記者でありながらスタンドの記者席からの取材経験は片手で数えるほど…いい機会なので、まずここで、記者を名乗る私が試合会場で何をしているのか、整理しておきます。
取材者としてのスタンスは「撮影&取材」。
試合当日の記者としての区分は「フォト&ペン兼任記者」で、所属は千葉県柏市の「東葛毎日新聞社」。主に我が街のJリーグクラブである柏レイソルに関するコラムを書かせてもらっております。
でも、試合を撮影後、カメラマンビブスを脱ぎ、レコーダーアプリを起動して、「ミックスゾーン」(取材エリア)の柵の前を右往左往しながら、試合を終えた選手たちの声を集める「ペン記者」としての取材をします。
柏レイソルと、レイソル出身選手を中心に、各会場へお邪魔して取材させていただいています。2023年現在でキャリアは15年くらいになりますが、たしかにマッチレポートのディテールはそのコラム内にて少し用いるかどうかくらい。
私は記事の誘導部分、いわゆる「リード」が何より苦手ですが、今回私が取り組もうとしているジャーナル企画のスタンスの表現として長々と文章を連ねています。
記事構成において信条とするのは以下です。
・掲載する写真は自分の撮影した写真のみを使用。
・選手のコメントを用いる場合は、自分で質問をして、会話をして、それに応えてくれたコメントのみを使います。
また、以下を付け加えておきます。
・このジャーナル企画内での人格は模索中です。
・自分のタイミングで掲載いたしますので速報性はありません。
・記事内で何かを断言するときは最大限注意を払うつもりです。今も選手たちに対して何かを断言しても、だいたい外れているので…。
・「マッチレポート」クオリティは出せないかもしれません。
・どんな形であれ、結果的に少しでも選手やクラブをポジティブに「レコメンド」することができたら、書いた甲斐があったと感じられる気がします。
そしていちばんお伝えしたいのは以下です。
確実に苦しい戦いとなっている柏レイソルの今シーズンですが、個人的にはすごく取材者冥利に尽きるシーズンだと思って日立台に通っております。
そのフィーリングをここに残しておきたいと思いました。厳しい目線などを期待されて読まれると、その期待と違ったものになるかと思います。
ますます「マッチレポート」のようなところから離れていくような説明となっていますが、「レイソルどうなの?」と誰かに聞かれた際の回答として、聞いた相手が「ちょっと長いな…」と思われるくらいのボリュームでお送りする予定です。
一人の記者がプロである選手たちにできることなんて実はあまりないので、自分なりにこの稿を覗いてくださったみなさまに「また見てやろう」と思ってもらえるものを残せたらと思うばかりです。
文字数は多めになりますが、「敷居」は低く、「筆圧」も落とし、文章の「読みやすさ」や「入りやすさ」に繋がることを心がけたいと思います。
そして、このジャーナル企画のタイトルはストレートに「Journal: Last 10 matches(ラスト・テン・マッチ)」といたしました。
先日の取材日に柏レイソルFW細谷真大選手へのインタビュー中に私が「あと11試合…」と残り試合を間違えたとき、細谷選手が瞬時にかつ冷静に、「…いや、あと10です」と訂正してくれたことも印象的だったからです。
この稿は26節・広島戦を終えたタイミングで用意をしていますから、実際は残り9節でのスタートとなります。今回は「コラム」テイストで!
では、そろそろスタートしましょうか。
「Last 10 matches vs Hiroshima」:細谷真大選手編
FW細谷真大選手はこの7月中旬〜8月中旬に行われた大阪&京都&神戸の「夏の関西アウェイシリーズ」3試合の全てでゴールを決めていました。「たしかに相性いいですよね」とまるで他人事のように微笑んでいた細谷選手。
個で奪ったゴールもコレクティヴに奪ったゴールもあり、どの「ホソヤマオゴオル」も素晴らしかったのですが、このところの細谷選手からはゴールこそ奪っているものの、勝利に繋がる「複数ゴール」というチャンスを逃している点については腑に落ちない、そんな様子を感じていました。
タイミングは8月26日広島戦を前にした取材日。雨が降ったり止んだり落ち着かない日立台の取材エリアで細谷選手と話をさせてもらいました。
唐突に「(ゴールチャンス)きてますね」と話し掛けると、細谷選手は「…うん、きてる」と小さく頷きました。そして、そのまま、「この『きている』状況を生み出している要因は?」とマイクを向けました。
「この数試合、自分もチームも試合を通して『よくやれている』感覚で戦えていて、特に前半は思い通りの試合をできている。その中で自分もゴールを決められている。ゴール前の『ポケット(※)』を取った際にすべきことをチームで理解しているし、自分も良い動き出しをできているのでゴール前の良いチャンスを作れていると思いますね」
(※ポケット:ペナルティエリア内側のゴール両脇のスペースの意だと言われている)
細谷選手の特長的にも、レイソルが取り組んでいる戦い方的にも、守備タスクへの忠誠心はいわば必須のメンタリティ。なんとなくゴール前を彷徨いていればゴールを奪えるわけではないのは百も承知。
でも、もっといえば、細谷選手には他のFWにはないチャンスの作り方があります。
いわゆる「攻守の切り替え」での逞しいボール奪取。「即時奪回」と呼ばれる感覚はリーグでの屈指のレベルにあることはレイソルサポーターなら当たり前の知識です。また、守備のオーガナイズの「一手目」としてもハイレベル。相手の不用意なバックパスや横パスは細谷選手にとっての「ご馳走」です。
ただ、とにかく、攻守両面で求められること、やるべきことがたくさんある。FWである以上、ゴールという結果も求められ、さらに私のような記者からは「しかし、2点目が…」などと求められる。だが、細谷選手は応えてくれる。
「もちろん、自分が試合を決められる場面もありました。『決めていれば、勝ったな…』ってチャンスが。そのあたりにもっとストイックにならなければいけないですし、こだわっていかなくてはいけない。FWの自分としても、チームとしても『2点目』や『追加点』という課題が残されていますし、しっかりと向き合っています。そのあたりが今の自分たちにとって、『勝利』を掴むための大きな壁としてありますけど、乗り越えていかないと」
そう思いを新たに臨んだ広島戦は残念ながらスコアレスドロー。
広島DF陣との激しいバトルを繰り返しながら、数回のゴールチャンスをこじ開けた細谷選手でしたが、ノーゴール。「ボールを収める駆け引きはできたが最後に相手の足が出てくるような展開だった」と細谷選手は広島の守備強度を表現していましたが、広島陣内に構え続けるその存在感は広島のクオリティに少なからず影響を及ぼしていましたし、引き続き、この夏の「きている」感覚を随所に見せてくれました。
「前半も後半も広島という強い相手に対して、『やれている感触』がありました。それはチーム全体に感じていることだと思う。しっかりとゴール前まで行けていますし、あとは決め切るところを決めていれば、順位も確実に上へと昇っていけると思う。チームの修正や狙いに関してはすごく良い形で回っているので、『仕留める仕事』をしなくてはいけなかった。自分のクオリティをもっと高めていかないとという気持ち。ただ、チームとしては自信を持って試合へ臨むことはできていますし、今日もそうでした。あとはゴールへ向かうところでのクオリティなんだと思います」
如何なる結果に対しても自分に矢印を向け、乗り越えて、力と変えてきた細谷選手。2023J1リーグも残り9試合。ここまで積み上げたホソヤマオゴオルは9つ。22歳目前の細谷選手にとっても重要なマイルストーンとなるべきシーズンのフィナーレがどのようなシナリオとなるのか…ぶちかまして欲しいですね。
「Last 10 matches vs Hiroshima」:山田康太選手編
「自分のことをよく知ってもらえるように」
山田康太選手は今春のレイソル加入からずっとこの思いを口にしています。「昨季までより高いレベルでの成長を」という指針を胸にレイソルイエローのユニフォームに袖を通してから、自分がどんな選手であるのか、何ができる選手なのかをレイソルのチームメイトに理解してもらう作業に時間を割いてきました。その途中には求められるゲームプランの中でもがき苦しんだ時期もありました。プレータイムや出場記録を見れば、一時期は難しい時間を過ごしていたことは明らか。そのあたりの詳細については「取材後記シリーズ」で確認していただけたらと思います。
山田康太選手が置かれた状況が好転し始めたのは7月の中断明けでした。この頃から細谷選手とマテウス・サヴィオ選手とのアタッキングトリオを編成。貪欲で執拗な前線からの守備に長けた3人が相手ボールに喰らい付き、その守備を合図に連動したMFと中盤で相手ボールを奪いにかかる姿勢は特に印象的です。「自分に対する相手の出方を確かめながら、ポジショニングを取れていて、井原さんもその判断を尊重してくれている」とのコンセンサスの下、攻守で重要なピースとして輝きを放っています。
8月に入るとボールを奪う守備だけではなく、ショートカウンターからの見事なスルーパスからゴールをアシストするなど、「山田康太はこういうことが得意です」という結果を刻みました。
「C大阪戦と神戸戦でゴールに関わることができて、ゴール前でのプレーにフォーカスしてもらえていますけど、自分の中で常にイメージしているプレーではあるんです。だから、『やっとできた』という気持ちですね。練習ではできていても、チームメイトしか見ていないですし(笑)、やっぱり自分たちは試合で初めて評価されるので、『自分はこういう選手だよ』ってことや『チームを変えても、J1でもできるよ』ってことを理解してもらえているかなって、少しだけホッとしています。これはずっと言ってきたことでもあるし、1試合だけじゃなく、続けて結果を出せていて、チームも自分もパフォーマンスが良くなって。うん、続けていきたいですね」
山形時代には直接的なアシストよりも、ゴールに繋がる一手や二手前の起点となる、「キー・パス」で貢献してきたと話す山田康太選手。神戸戦のゴールシーンが理想に近い働きなのだろうと推測しながら、「直近のアシスト、どちらかお気に入り?」かと聞きました。
「うーん。やっぱり、『数字を残すべき人』が数字を残す方がいいと思うんで、マオだったり、サヴィオにいい気持ちでプレーしてもらえたらそれでいいのかなって思うのはありますけどね。きっと、チームも良い方向へ向かうだろうし、自分はどちらかというとそういう考え方ですけど…でも、たまには自分も活躍したいですね(笑)。だから、神戸戦でのプレーの方が…いや、どっちも気に入ってます!」
ペナルティエリア、その角からスルスルっと抜け出してMF戸嶋祥郎の足元へ優しくラストパスを置いていったC大阪戦、ボール奪取からのミドルカウンターの主役となって、細谷選手のゴールを呼び込む「キー・パス」を決めた神戸戦。個人的には久しく見ていないゴールの形でしたし、山田康太選手にとっては「自分のことを知ってもらう」には最高のパフォーマンスだったと思います。
「チーム内でも『もっと自分へボールを付けていい』と要求しているし、少しずつその回数も増えつつあって、自分がこの2試合で結果に絡んでいることで自信になるというか。相手のプレッシャーを剥がして次へということができれば、もっといいチームになるんじゃないかって思うんです。自分がプレーを成功させて、チームの自信になっていけばって」
そんな思いを胸に臨んだ広島戦にスタメン出場した山田康太選手は約70分のプレーでした。スコアレスドローということで個人記録は付きませんでしたが、ボール奪取への意欲とゴール・アシストの意欲を乗せたプレーは広島を苦しめていたと思います。
「広島は自分たちの攻撃を跳ね返す力もありますし、帰陣も素早かったので良い形で攻めることができずにいましたが、ボールを奪った後やセカンドボールを奪えた後に、縦に1本ボールを入れることができた時に『良い雰囲気』を出せていたと思うので、自分やサヴィオへ縦パスをどんどん付けて欲しいと思いますし、自分たちはそのボールを運んで、ドリブルやスルーパスが出せるようになってきたので、パスの質やランニングの質を上げていけば、もっと良いシーンが作れるはずだと思います。守備から始まる戦い方ですし、攻撃面でパワーを出し切れないあたりをなんとかして、そんなシーンを増やしたいです」
広島戦直後のコメントからも、山田康太選手が求めている働きのシルエットがはっきりとしてきましたね。
「Last 10 matches vs Hiroshima」:山田雄士選手編
8月21日、柏レイソルは栃木SCでプレーしていたMF山田雄士選手の復帰を発表。残り10試合というタイミングで決定された突然のレンタルバックには驚かされました。
私としては、そのつい1週間前、栃木・カンセキスタジアムで栃木vs徳島を取材して、栃木での勇姿を確認してきたばかりだったので余計に驚かされました。
そして、広島戦を前にした公式取材日、山田雄士選手は今回のレンタルバックについての気持ちと今後の抱負を話してくれました。
「自分なりにすごく悩んで決断をしました。栃木では試合に続けて出場していましたし、結果も残せていたところでしたし。レイソルからは『ケガをせずに試合に出て良いシーズンを過ごして、結果も出している』ところを評価してもらえていました。自分の目の前にあることに集中して、毎日取り組んでいきたいです。残りの試合に全て出場したいですし、『最低3ゴール』以上に関われるようにやっていきます。『ボールを動かして、ボールを散らして』という部分は栃木でも通用していた。レイソルでもその部分で貢献できたらと思います。自信を持って試合に臨んで結果に繋げていきたいです」
復帰初戦、出場機会はやってきました。山田雄士選手は60分ころにMF戸嶋と交代で投入。右サイドに入りました。残り30分という交代のタイミング的にもある程度事前にプランニングされた采配だったのではないかと思いました。
そこで試合後、私は率直な疑問を数問、山田雄士選手にぶつけてみました。
まずは「今季の大半をJ2で戦ってきて、今日はJ1でのプレー。何か違いは感じたか?」という感覚的な部分について聞かせてもらいました。
「それぞれがやれることが大きくあるので、うまく周りを頼りながら安心してできると感じていました」
続けて、「サイドで起点となりチャンスに絡むシーンも作った。今夜のパフォーマンスについては?」という私の問いに対して、少し声色を上げた山田雄士選手はこう話してくれました。
「アシストやゴールは常に狙っている。今日はそれが出せなかったので、満足はしていないですけど、もっと、周りと連係していけば近いうちに点に絡めると思う」
この広島戦の30分強のプレーの中でも見せていた「サイドでの存在感」、「ボールを運ぶ・角度を変える際の馬力や駆動力」、そして、「本来のキープ力やパスのスキル」は山田雄士選手自身も栃木で再確認してきたストロングの部分でもあります。この夜は前に運ぶシーンやチャンスに絡むシーンがありました。
そのスペックを活かすに重要なポジションについても聞かせてもらいました。「栃木では左サイドでプレーしていたが、今日は右サイドだった。ポジションは選んではいられないという気持ち?」と。「そうですね」と少し苦笑い。
「たしかに栃木ではずっと左MFでプレーしてきましたから、景色や視野なども変わらずにプレーをできたはず…でも、そんなことは言ってられないので、与えられたポジションで、与えられた仕事以上のことをやらなければと思っています」
最後に「日立台に帰ってきた喜びなどあれば?」と聞きますと、間髪入れずに私にこう返してくれました。
「喜びは…ないです。結果しかみていないので。今日も勝てなかったし、まずは勝たないといけないので、そこに目を向けてやっていければ」
今回のこの対話だけをここに載せてみただけでも、十分に感じさせられるものがありますね。
なんでしょう。少し変なたとえとなりますが、おそらく栃木でのキャリアを通じて山田雄士選手が得てきたものの中でこの日出せたこととは、自分の考え方をしっかり公の場でも伝えることができるようになったことなのかもしれません。言い換えれば、やはりそれは「自信」というやつでしょうか。
たかが、まだ30分。されど、まだ30分かもしれません。まずはどうなるか見てみましょう。
さて、本日の投稿は以上です。
今回は長い前段がありましたので、すごくボリュームが出てしまいましたし、きっとこういうテイストが好きなんだと思います。
次回からはこんな長々やらないように気をつけますし、ちょっとチャレンジをしてみようと思っています。
取材に付き合ってくれる選手のみなさま、読者のみなさま、お付き合いありがとうございました。
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