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「魂がフルえる本」 その7《 流れの中にこそ — 『イティハーサ』 水樹和佳子》

水樹和佳子さんが、最初の掲載から13年をかけて完結させた大作SF漫画。
『イティハーサ』とは、サンスクリット語で「歴史」を意味するそうです。

舞台は、神世の時代の日本。
「目に見えぬ神々」を信奉する村の少年、鷹野たかや
同じ村で真言告まことのりをあやつり、鷹野たかやが兄のように慕う青比古あおひこ
赤子の時、川に捨てられていたのを鷹野たかやに拾われ、兄弟のように育った少女、透祜とおこ
この3人を中心に物語は進みます。

透祜と鷹野(イティハーサより)

ある日突然、鷹野たかや青比古あおひこ透祜とおこの住む村が、「威神いしん」に襲われ壊滅します。「威神いしん」とは、外國とつくにからやってきた「目に見える神々」です。

村が襲われたとき、村を離れていた三人は助かります。
そこに、「威神いしん」と同じく、「目に見える神々」である「亞神あしん」と、その信徒たちと出会い、行動を共にすることに。

「目に見えぬ神々」に導かれていた頃は平和に暮らしていたのに、「目に見える神々」は、いつの頃からか沈黙し、消えてしまい、その理由を明確に知る人間も誰一人いません。

そこに、入れ替わるように登場した「目に見える神々」の「亞神あしん」と「威神いしん」は、それぞれに人間の信徒をしたがえ、世の中に対立と混乱の輪が拡がっていきます。

「目に見えぬ神々」に仕えてきた青比古あおひこは、「目に見える神々」というものが理解できず、「亞神あしん」の信徒、かつらに問います。

イティハーサより

善の「亞神あしん」に対する、悪の「威神いしん」という、「目に見える神々」の分りやすい在りようと、また逆に、ボンヤリとはっきりしない存在の「目に見えぬ神々」のはざまで、人間たちは、これからどのように生きるべきなのか、心を大きく揺さぶられます。

そうした中、鷹野たかやたちは、「亞神あしん」が創った、人々が一切の苦しみから解き放たれて幸せになれるという〝桃源郷〟を目指して旅を続けます。
そして、やっとのことで〝桃源郷〟に到着した鷹野たかやたちは、ある行動を起こします。

亞神あしん」と「威神いしん
目に見える神々と目に見えぬ神々
神と人
善と悪
生と死
肉体と魂
男と女
親と子
人と獣
共同体と個人・・・

物語は、多くの〝対〟が複雑に絡み、編み込まれ、フルえずにはいられない、ラストへと向かっていきます。

「イティハーサ」は、前後の物語を抜いて語ることが難しく、「ここのシーンがいい!!」などと、軽々しくネタバレしてしまうと、せっかくの作品が台無しになるので、今回は、ほとんど物語導入のあらすじ紹介だけになってしまいました。

読み返してみると、この作品に深く共鳴する自分がありました。
私は、「留まることのない、流れの中にこそ力は宿る」というように、ものごとを捉える傾向があるのですが、このような考え方は、思わず知らず、この作品から影響を受けた部分があるのかもしれません。

最後に、「イティハーサ」を貫くテーマとなる、冒頭の一文を引用します。

その答えを求め続けると、気のふれる問いがある
自分は何故ここにいるのか
何処いずこより来たりて
何処いずこへと向かうのか・・・
実に人はこの問いを忘れるために人を愛し
この問いを逃れるために神を求める

イティハーサ 冒頭文より

ぜひ、全巻を読んで、皆さんもフルえてください。

イティハーサ 早川書房 全7巻

水樹和佳子(みずきわかこ)
東京都生まれ。1975年、〈りぼん〉にてデビュー。後に〈ぶ~け〉に移行。長い少女漫画家歴に反して、読者の半数近くが男性という変わり種。1979年に発表した「樹魔」でSFファンに注目され、「伝説」で1981年度星雲賞コミック部門を受賞する。漫画家歴のおよそ半分、13年をかけて描きあげられた、SF超古代ファンタジー『イティハーサ』は、読者の圧倒的な支持を受け、手塚治虫文化賞の候補になるほか、2000年度星雲賞コミック部門を受賞した。                                                                     早川書房より


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