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「魂がフルえる本」 その9《太古からの呼び声 — 『火山列島の思想』 益田勝実》

「火山列島の思想」は11の小篇をまとめた本ですが、題名となった一篇をご紹介します。 著者の益田さんは、昭和の時代にもっとも活躍した国文学者のひとりです。

内容をおもいっきり要約すると、

「日本らしさ」というのは、その風土によってもたらされた。
そして、そこには日本各地にある「火山」の存在がとても大きく関わっている。

ということになると思います。

 この火山列島の生活そのものが持たざるをえない風土性の問題として、その基盤の形成をかんがえるべきではなかろうか。— p68

 <一回性>とは何か、ということである。飢饉や戦争も一回的ではない。神火の憤怒は繰り返され、火山灰地は人間の幸・不幸を生誕に先立って規定し続けてきた。— p72

「火山列島の思想」より

 火山というのは、いちど噴火すると、その影響は長く広範囲に広がります。
マグマの流出、火山灰の降灰、地殻変動によって、自然環境はそれまでとは大きく変わってしまいます。 そして噴火そのものは、一時的であっても、相当の期間、日本中にその影響を及ぼし続けるのです。
 そのような風土に生活し続けることが、ひとつの枠組になり、古代日本人の精神は形成されてきた、というのです。

 話は変わりますが、私は長いこと和太鼓の演奏をしていますが、以前から、和太鼓の〝和〟にはどんな意味があるのか、考えてきました。
 実は、和太鼓演奏の歴史はとても浅いんです。
 太鼓という楽器は古くからあります。
 神楽やお囃子を構成する楽器の要素としては、太鼓も含まれますが、
太鼓の演奏そのものを見せるようになったのは、つい最近のことです。

 ですので、現在、舞台で観られるような和太鼓の演奏方法や表現の中に、伝統的、歴史的な、〝和〟=「日本らしさ」というものは、もともと存在しません。

 わたしは、〝和〟=「日本らしさ」に依れるのは、「和太鼓」という楽器そのものにしかない、と思っています。
 古い時代から今に至る時の流れの中で、太鼓を演奏する人は次々に変わっていくが、「太鼓」という楽器は時代を超え、「日本らしさ」が刷り込まれ続け、やがて固有性を持ち「〝和〟太鼓」と呼ばれるようになった。
 「和太鼓」という楽器そのもののあり方に焦点を当てることで、そこに隠された「古代から繋がる日本の本質のようなもの」=「日本らしさ」が滲み出てくるのではないか・・・

 ボンヤリと感じながら、まとまりきらなかった考えが、ここでひとつの答えを得たように思います。

 「日本らしさ」なるものは、風土によって育まれる。
そう考えると、いろいろな部分で自分なりの納得がいきました。

・・・重要なことは、この海底噴火の神がオオナモチと呼ばれたことだろう。 大きな穴を持つ神、それは噴火口を擁する火山そのものの姿の神格化以外ではない。
(中略)
 これが私たちの祖先のいうオオナモチの神なのだ。オオナモチは出雲の国の、あの大国主とも呼ばれるだけでなく、文字どおりの大穴持の神として、この火山列島の各処に、時を異にして出現するであろう神々の共有名なのである。 そして、火山の国に固有の神といってよかろう。— p63

「火山列島の思想」より

 私たちがよく知っている出雲のダイコクサマ=大国主(オオクニヌシ)の神は、オオナモチの神でもあって、オオナモチとは、大きな穴=噴火口を持つ火山を神格化した、日本固有の神ということです。

民俗学者の藤沢衛彦が、「地震の国、日本は、また、火山の国である。火山の現象は、過去の地質時代にあった地殻の大変動が、今日にまで残している余韻とでもいうべきものであろう。太古では、火山はもっとかつやく(原文ママ)していたと、火山学者たちは論証している。とすれば、わたくしたちは、火山というものに、もっと関心をもつべきかもしれない。火山の爆発、その噴火・噴煙、そうしたものが、ただ人々の心に威圧を与えたとばかりみるのはあやまりであろう。むしろ、そこから、活動力、生命の源泉、といったものを感じとったかもしれないからである。」(『図説日本民俗学全集』神話・伝説篇)という一つの見透しを立てているのは、傾聴すべきではなかろうか。— p73

「火山列島の思想」より

神の出生も、その名の由来も忘れることができる。人間社会の生産力の発展、自然との対抗力が、それを可能にした。しかし、その忘却の過程において、人々は、生みつけられた土地の神の制圧下にその精神形成のコースを規制されてきた。火山神は忘れても、日本の火山活動が活潑であった時代に、マグマの教えた思想、マグマの教えた生き方は、驚くほど鞏固にこの列島に残っていったらしいのである。— p80

「火山列島の思想」より

 唸りました。
 火山の噴火という、圧倒的な自然の力は、そこに生きる人々の深層に深く刻み込まれ、現代のような比較的安定した世界においても、消えてしまうことなく、「日本らしさ」の基盤となっている。

 わたしは「爆発する」という、〝エネルギーの圧倒的な発露〟に強い魅力を感じるのですが、まさにこれこそが、古代的な日本人の感性の甦りなのかもしれません。

『火山列島の思想』益田勝実 著
ちくま学芸文庫

益田勝実 ますだ かつみ
1923~2010年。山口県生まれ。東京大学文学部国文学科卒業。法政大学文学部教授を長く務め、89年定年退職。国文学と民俗学の両方法を駆使して、日本人の精神的古層を明らかにした。また、実証と想像力のせめぎあう緊張した文章は、今なお多くの読者を魅了している。2006年『益田勝実の仕事』で毎日出版文化賞受賞。著書に『説話文学と絵巻』『秘儀の島―日本の神話的想像力』『記紀歌謡』『古事記』などがある。

筑摩文庫Webサイトより


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