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♬ マギー司郎の思い出 ※ご存命です ♬
先日。電車に乗っていると前にいた若い男性二人の会話が聞こえてきて
「デートの最中、女の子と会話に詰まった時の空気ってイヤじゃね?」
言っていた。聞きながら、若いなぁと思いながらも、でも確かに私もそういう時のためにその場しのぎの話題を準備していた時期があったことを思い出した。私の場合、それがどれだけ意中の相手でどんなに美人であったとしても、話が盛り上がらなければそれはもうご縁がなかったですねと簡単にあきらめる性質なので、沈黙は全く気にしないがただもしそんな状況になれば、新たなチャレンジとして変わったことがしたかったので
「話に詰まった時、パッと手品ができたらカッコいいな」
思い、その時参考にしたのがマギー司郎さんだった。
がんじがらめになって火の海に飛び込んだりする「引田天功」を真似ることも考えたが大掛かりなので、「マギー司郎」なら何とかなるんじゃないか?そんな思いだった。
おしゃれなBAR。
環境問題や政治問題など【知性のかたまり】の私らしい話題がひと段落し、会話が止まったところで突如、女の子に向かって茨城なまり、マギー司郎さんを真似て静かに言う。
「あのね。これから手品をするんだけどね。
八街の農協でとっても評判がよかった手品なの」
・・・・・はぁ?(笑)
としか言いようのない顔で女の子が私を見る。
続けざま、用意してあったハンカチをポケットから取り出すと
「今ここに縦じまのハンカチがあるんだけど」
「うん」
「こうして手のひらでクシャクシャにして取り出すとあら不思議
・・・・・・・横じまになっちゃうの」
「ま、町野さん?(笑)・・・・・・い、いきなり、何を?大丈夫?」
「それと貴女。今、ハンドバッグの中にお米入ってる?」
「え??お米?ハンドバッグに?(笑)」
「これが八街の農協に勤めてる順子っておばちゃんに
とっても評判がよかったんだけど
コシヒカリをササニシキに変えてみせようか?」
「サ、ササニシキ?(笑)」
「ササニシキをコシヒカリに変えてもいいよ」
手品ができたらカッコイイなと思って本も買って勉強してみたが、紙に書いてある手品ほどわかりにくいものはない。
これはかつて経験したことなので敢えて強めに言わせてもらうが、
「簡単にできるマジック」と「簡単にできるあやとり」
という本は難解を極める。図じゃ無理だ。
ただ。
何か一つでもいい。
手品ができるようになったら楽しいな、という気持ちは本当で、繰り返しマギー司郎さんのビデオを見て勉強していたら、手品は全く上手にならなかった代わりに話術が身についた。
そんな、マギー司郎ファンの私が社会人になって一度だけ、マギー司郎さんご本人に池袋で遭遇したことがある。池袋には演芸場があるから、そこへ行く途中だったのかもしれない。
お会いした時もとても印象的な出会いで、マギー司郎さんは複数のハトに襲われていた。
私が彼に気が付き駆け寄って握手を求めたら、マギー司郎さんは両手でハトを追い払いながら私と握手をし、困った顔をして
「ボクね。
どこへ行ってもハトに襲われるのよ。困っちゃう」
どうやら手品師というのはハトに恨まれる人種らしく、あれだけ人通りの多い池袋の道を、一人だけハトに絡まれながら歩くマギー司郎さんの後ろ姿が今も目に浮かぶ。