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サンデル先生の「正義」の授業EPS5-1〜雇われ兵士〜

12EPS(各EPS前・後半)の全24回を週2回のペースでアップします。

第9回:EPS 5-1(前半)

Hired Guns(雇われ兵士)

正義-EPS5-1

Hired Guns (雇われ兵士)

前回までのおさらい。

ジョン・ロックの主張では民主的に選ばれた政府には徴税をする権利がある、と言う事だった。私有財産は自然権の一つではあるものの、社会で暮らす限り個人は政府の自然権への介入を同意により許している事となる。

その同意は徴税に際して「あ、持ってっていいっすよ」と個人個人が徴税それぞれにする同意でなく、自然状態(state of nature)を脱して文明社会に参加する事を同意として、そこで社会政治的義務がスタートする。そして一度その義務を負えば、多数派の決定に従う、と言う事になる。

徴税だけでなく、例えば徴兵制(自然権のうち、命の権利に相当する)も同じ事。

ジョン・ロックは政府は徴兵もできる、と言っている。

条件は国家の決定が「恣意的でない」(not arbitrary)と言うところが最重要。

“将官でなく軍曹でさえも、兵士に玉砕覚悟の令を与える事ができる。しかし彼らが絶対にできないのは、兵士から勝手に1ペニーでも奪う事。”とロック。

軍曹としての公的な命令は自然権の侵害にはならない。恣意的な(勝手な)搾取は自然権の侵害。

これらを全部可能にしているのが「同意」である。

もう一度ざっくり言うと

私たちには不可譲不可侵の自然権というものがもともと備わっていて、それは命、自由、私有財産

国家、政府、法施行機関のない自然状態では人々は自由に、平等に生きているが、自然法(自然権を犯してはならん)の施行権(取締り罰する権利)を全員が持っているため、Aさんの鉛筆を盗んだBさんをCさんがその罰として殺す事も可能。いくら自由と言ったって、ある程度規律が必要、となる。そこで「社会」が生まれる。

社会で暮らしその恩恵に預かる事で、自然権への国家の介入を許す、という同意をした事となる。

その同意を持ってして政府は個人の自然権をいじれるが、自然権は強力なので好き勝手していいと言うわけでは無く、その介入は恣意的でなく法的にルールに則って行われなければならない。

もうちょっと「同意」について見ていく。

徴兵制のケース。

イラク戦争に送る兵士が足りていない。米国が取るべき解決法は次のうちどれか。

1。給与を値上げし福利厚生をより充実させる。

2。徴兵制。

3。傭兵。

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1番の給与値上げが良いと思う人。

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大多数。


2番、徴兵制が良いと思う人。

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十数人。


3番、傭兵が良いと思う人。

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数十人。


南北戦争時、北軍は徴兵制を適用したが、自由市場を仕組みを取り入れ、召集令を受けても行きたくなければ誰かに金を払って代行を雇う事ができた。多くの人がそれをやった。新聞に「求人!」と広告を出した。

カーネギー家のアンドリュー・カーネギーは彼が吸う高級葉巻一年分ほどの金額で徴兵を免れた。

このシステムが正当だと思う人。

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五人くらい、、、と数えるサンデル先生。


不正当だと思う人。

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どっさり。


このシステムに反対の人の意見を聞く。

(生徒#1、リズ)
「命に値段をつけるようなもの。それはとても難しい事だ、と、この講義でも結論が出たと思います。」

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この意見に反論は?

(生徒#2、ジェイソン)
「嫌ならその求人に応募しなければいい。強制されている訳ではない。」

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自由市場なので、応募する人が納得する金額を探せばいい。言ってみるなら自分で自分の命の価値を決めている。だからオッケー、と言う意見。

(生徒#3、サム)
「低所得者にとっては強制と同じ事でしょう。カーネギーにとっては何でもない$300でも貧乏人にとっては大きな額なのだから。」

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(生徒#4、ラウル)
「強制だ、と言うサムの意見に賛成です。」

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自由市場とは言っているが、本当に自由ではない、と言う意見。

(生徒#5、エミリー)
「この南北戦争の徴兵制度は今の志願兵制度と変わりませんよね。現在だって、社会経済的下層の人々が手厚い福利厚生に惹かれて志願する訳ですから。そして愛国心などを煽って、入隊が良き事だと思わせる。これらも同じような強制です。」

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ラウル、どう思いますか?

(ラウル)
「南北戦争の時よりかは現在の方が強制性は弱いような気がします。現在は徴兵制下ではない訳ですから志願兵達の自分の意思は南北戦争で金のために嫌々戦争に行く人より尊重されている。」

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(サンデル先生)
しかし、現在にも大きな社会経済格差があり、志願兵内の経済下層出身者の比率はが対人口比よりよっぽど高いのですが?

自分か、兄弟が軍に属していた事のある人。

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家族の自分の代には軍に属していた人が誰もいない人。

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(サンデル先生)
「エミリー、あなたの言いたかったのはこう言う事ですね。」

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(エミリー)
「はい。」

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(*ハーバードは私立名門校ですので富裕層の生徒が大多数です。そう言う層からは志願兵はほぼ出ない、と言う事実を先生は見せました。やはり現在でも状況からしょうがなく志願している場合が多い=強制性が現在でもある、と言える、という事の証明。)

(サンデル先生)
「不平等な社会の中での自由市場は本当の意味で自由ではない。強制性がある、と。その為に南北戦争時の代役雇用可能の徴兵制度に反対した人は多数いました。エミリーは、それでは現在の志願兵制度も同じじゃないか、と言います。これに対して、現在のシステムは違う、と言える人?」


(生徒#6)
「南北戦争では政府が払っている訳で無く、召集され代行を頼む富裕層が払います。現在の志願制では雇い主は政府な訳ですから、違います。」

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志願制には給与の必要性の他に、「愛国」などの責任感もある、と。


(エミリー)
「志願制の方が逆に、完全に給与目的だと思います。徴兵制では、誰もが国民としての責任を突きつけられます。」

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愛国心、責任感を試されるのは志願制出なく徴兵制のほうだとの意見。

(サンデル先生)
「先の質問で、あなたは2番の徴兵制を選びますか?」
(エミリー)
「。。。はい。誰もが自分も戦争に参加する義務がある、と思えば国としての参戦の意思決定も変わってくると思います。」(自分は行かなくていい政治家やエセタカ派が戦争の是非を決めている現状を揶揄している)



(生徒#7、ジャッキー)
「志願兵制では、志願者は給与だけを目当てに入隊するのではないと思います。愛国心や、責任感などが最初にあるはず。南北戦争のシステムで集まった兵士は完全に金目当てですから、質も悪かったと言う事だったかと思います。」

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(生徒#8、フィリップ)
「愛国心が良い兵士を作る訳では無い。傭兵はプロですから、戦力として愛国心のある志願兵に劣ると言う事は無いと思います。」

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(ジャッキー)
「傭兵は技術はあるかも知れませんが、命を捧げるような事態になった時、守る母国がある兵士の方がいい仕事をするに決まっています。」


まとめ

先生がこの辺の事をリニアにまとめていく。

愛国心 vs  金の必要性

入隊の動機としてこの二つの割合を考える。現在の志願制は志願という言葉を使うが、実際は「給与制兵隊」と言う事。金のためで無く、愛国心や責任感をより高度で崇高な動機とするならば、給与制より徴兵制がよろしい、と言う事になりはしないか。

そして、自由市場のシステムを使って、人々の「選ぶ権利」を拡大していくならばその最たるものは傭兵になりはしないか。

(愛国心万歳。参加するしないの個人の選択の自由なし。)
 ↓↑
 ↓↑ー徴兵制
 ↓↑
 ↓↑ー代行雇用可能の徴兵制(南北戦争システム)
 ↓↑
 ↓↑ー給与制軍隊(志願制)
 ↓↑
 ↓↑ー傭兵
 ↓↑
(金の為のみ。選択の自由ありまくり。)


市場取引においての同意について考える。

兵役の割り当てに市場取引を使うことへの批判は二つあった。

1。強制性 ーー 不平等な社会の中では強制性が生じ自由取引とは言えない。だとして、どんな社会の不平等が労働取引市場の自由を軽減するのか。

2。兵役職業としての特殊性 ーー 兵役は市民としての義務や愛国心などが関係する特殊なもので他の職業と同様に市場取引で決めてはならない。市民としての義務はどんなものがあるのか。兵役は実際そこに含まれるのか。その義務はどうして生まれるのか。同意か。それとも、同意無しに生まれるのか。

続く

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