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サンデル先生の「正義」の授業EPS4-2〜同意〜
12EPS(各EPS前・後半)の全24回を週2回のペースでアップします。
第8回:EPS 4-2(後半)
Consenting Adults (同意)
後半 25:45~
前回からのジョン・ロック。
政府や国がやって来る前の自然状態(state of nature)から私たちには自然権(命、自由、財産)がある。その財産には土地も含む。
彼の主張の大きな2点のうちの一つは私有財産。
もう一つは同意。
同意はどのような働きをするのか。このシリーズの最初の方から同意の話が出ていた。例えば遭難船で誰かを殺して食べる事。「もし彼らがくじに同意していれば倫理的に許せる。」と言った人も多かった。
ロックは同意に関する偉大な哲学者。政府と言うものが、同意の上に成り立つ事を説いた。しかし、逆説的な要素を含んだ論理でもある。
同意の上に成り立った正当な政府の権力の範疇は?
(自然権を侵す事はできるのか?)
自然状態(state of nature)とは要するに、政府のある所から出た状態。その状態とは誰もが自然法を施行(取締り)できる状態でもある。自然法を侵したものは罰せられるべき。その罰の内容や誰がそれを行使するかは自由。
誰かが自分を殺しにきたら、殺して良い。ものを奪う事も財産権と言う自然権の侵害なので、殺して良い。奪われた人(当事者)だけでなく、第三者が殺しても良い。誰もが警察で誰もが裁判官である状態。ロックは自然権を侵すものの罪と罰はかなり厳しく言及している。
"そんな奴は獣と変わらなく、放って置けばこっちがやられるーー(のだから、殺して良い)"
自然状態で誰もが平等で、誰にも自然権があって、、、と牧歌的な話だったのがだんだんギスギスして来る。
なので、人は自然状態を捨てて、同意の上の政府に法施行を譲る。多数決で決めた事に従う、と同意をするのだ。
さて、ここからがトリッキー。
社会に入っても人々に備わっているはずの自然権にどこまで同意の上の政府が介入できるのか。
リバタリアンの「徴税は泥棒だ」と言う意見。これにロックの主張は沿っているのか、それとも反しているのか。
(生徒#1、ベン)
「本では、徴税を決める多数派は徴税に賛成しない少数派を強制する事はできない、と言っています。」
(サンデル先生)「ロックは確かに一部ではそう言っています。」
“政府は人の財産を同意無しに取り上げる事はできない。”
“政府のある社会に入る大きな理由が財産の維持でもあるからだ。”
(サンデル先生)「しかし同時にこんな事も言っています。」
“コミュニティーの法が(彼・彼女のものであると)定めたモノへの権利がある”
“それを政府が恣意的に奪取する事はできない”
この「恣意的に(arbitrarily)」と言うところがミソ。
(サンデル先生)「政府は人の財産を取り去る事はできないが、どこまでが私有財産であるかを決めるのもまた政府だ、と言っています。さらにこうも言います」
“政府には多額の予算が必要なので、その恩恵を被る個人が少しずつ払って賄うべき。もちろん同意(多数派の同意)の上で。”
自然権は絶対的にそこにある不可譲不可侵の権利。しかし、同意(個人でなく、全体=多数派の同意)の上の政府は、どこまでが私有財産であるのかを決定する事ができる、と言う。
同意の力はスゴイのだ。
(生徒#2、ニコラ)
「すでに政府のある社会に生まれてきた人間が、その同意を捨て、自然状態に戻る事が可能なのでしょうか?私自身はそれに同意した覚えはないのですが。」
(生徒#3)
「別に実際に何かにサインして同意しなくても、政府の提供するサービスを主体的に受けていれば同意した事になるとロックは言っています。」
暗黙の同意(implied consent)の事。
(ニコラ)「暗黙の同意では弱いと思います。いくらサービスを使ったとしてもこの社会に参加する、と言った訳ではないので。暗黙の同意では社会への義務は生じないはず。」
(サンデル先生)「ニコラ、もし、捕まらないとすれば、税金払います?」
ざわつく場内。
(ニコラ)「払いませんね。社会への貢献という意味では、私が必要だと思う所に(主体的に)お金を入れたいので。ブラックボックスには払いたくないです。」
(生徒#3)
「それは他人の財産権を侵す事になりませんか。もらうばかりで払わなくて良い、と言うのはおかしい。自然状態になりたいのならなれば良いと思うけど、社会にいる事での恩恵は放棄するべき。」
税金払わず、政府の言うことを聞かなくて良い自然状態になりたいなら例えば公道を走る事すらできないはず、と言う意見。
政府の課す義務として、税金(自然権としての財産)を語ってきたがもっとシビアな義務。例えば徴兵制(自然権としての命)はどうだろう。
(生徒#4、エリック)
「自然権は不可譲不可侵のはずでした。不可譲、なので命を放棄する事は私たちにはできないはずです。自死は認められない、という事です。同意の上の政府の徴兵(自らの命を危険に晒す)はその不可譲のルールを破る事になると思うのですが。」
これにうまく説明できる人は?
(生徒#5、ゴーゴル)
「徴兵する個人を政府が恣意的に選出するのと、抽選などのルールで決めるのは違うと思います。前者は自然権の侵害。後者は同意の範疇。」
ビンゴー。先生嬉しそう。「ロックもそうやって反論するはずです」と。
例えば政府が「ビル・ゲイツ、イラク戦争のスポンサーとして徴税!」などとするのは恣意的であり、ロックの反対する所。しかし、誰か個人や団体を名指しするのでなく、一般ルールがあればそれは自然権の侵害にはならない、とロックは言う。
王や議会が勝手に「そこの君!」「あっちの君!」と命や財産の放棄を強要する事。それが自然権の侵害。
恣意的でない法支配(non-arbitrary rule of law)により、政府は自然権の分野に介入できる。
リバタリアン(「徴税は泥棒!」)にとってロックは仲間か、という点を見て来たが、結論としては、そうではなかった。リバタリアンとロックの主張は違うのだ。リバタリアンが賛同できないロックの主張は二つ。
1。自然権の不可譲性。←「自分の意思で手放す事ができないと言うのは自由の制限だ。」
2。政府の恣意的でない法支配は可。←「同意があろうがなかろうが政府の介入は極力制限されるべき。」
ロックはその主張の構築の際、イギリスの「王権からの圧政」に反対した。故に「恣意的な国家の介入」を自然権の侵害と設定する。
一方、前回生徒が言及したように、英国人のアメリカへの入植の事が彼の頭にあった。彼の論理のダークサイドとも言えるだろう。彼が自然状態(state of nature)と言ったのは想像上の何処かではなく、ずばりアメリカの事だったはず。自身もコロニーの監督者だった事を考えれば、土地に労働を混ぜれば同意無しに所有権が生まれる、と言ったあたりは、入植・奪取に正当性を持たせたかった、と言う事も大いにあり得る。
次回は同意についてもっと深く見ていく。