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アメリカ印象派との邂逅 #印象派 モネからアメリカへ-ウスター美術館所蔵-

ちょっと隙間時間ができて、何か都内で観たいと思って調べたら、アメリカ印象派展がやっておりまして、そういえばアメリカの印象派ってまったくイメージ無いなと興味半分に行ってみることにしました。

印象派に限らず、アメリカの美術ってポップ・アート、アンディ・ウォーホルみたいなイメージしかなくて、いわゆる「美術」のイメージがあんまりないです。
学校で習ったかな?と高校の教科書、大学の美術史のテキストも取り出してめくってみたのですが、やはりどちらもヨーロッパの作品が中心的に取り上げられ、アメリカが登場するのは現代アートのカテゴリーに進むタイミングです。
私自身、アメリカ美術はジョン・マリンやエドワード・ホッパーがせいぜいで、これまであまり出会うことがなかったアメリカ印象派。いろいろ発見があって面白かったです。

金曜日の午後。会期も残り2日、
少しあたたかくなった上野は人出も多くて、思った以上の混雑。

Chapter1 伝統への挑戦

序盤はいわゆる印象派絵画。

シャルル・フランソワ・ドービニー《ヨンヌ川の橋(夕暮れ)》 1875年

影が印象的できれいでした。
「水の画家」ドービニー、今までこれが好き、という作品にあまり出会わなかったのですが、今回観たこれはとても好きでした。

ジュリアン・デュプレ《干し草作り》 1886年

躍動感のある構図が好き。

Chapter2 パリと印象派の画家たち

クロード・モネ《税関史の小屋・荒れた海》 1882年

遠目に気になって近づいてみたらモネでした。
筆致はモネっぽいけど使ってる色はモネっぽくない、ちょっと外れ値の感じがする作品だけど、それでも人を引き付ける力があるのがやっぱりすごいなと思いました。


カミーユ・ピサロ《ディエップの船渠デュケーヌとペリニー、曇り》 1902年

何がというわけでもないけど気に入った絵。
曇っているのに明るさを感じる色合いと、水の色が好き。

ベルト・モリゾ《テラスにて》 1874年

人間がこっちを向いているのにここまで端に寄っているの、あんまり見ない構図。


ピエール=オーギュスト・ルノワール《アラブの女》 1882年

ルノワールのやわらかい筆致はそのままだけれど、あまり使わない青、黒人の女性に簡素な服、全部いわゆるルノワール的な要素から外れていてあまり見ない気がします。

クロード・モネ《睡蓮》1908年
《睡蓮》購入時の書簡の展示

睡蓮はオランジュリーや西洋美術館をはじめ、いくつか見てきたけれど、過去観た中で一二を争うくらいに好きな睡蓮でした。あまり濃い色や強い筆致がなくて、いわゆるモネのイメージの上澄みみたいな、東洋の紗のような、軽くて透けそうな明るさとやわらかさ。
今でこそ世界各地の美術館で目玉として展示されている睡蓮ですが、世界で初めて購入したのはウスター美術館だったそうです。
会場には《睡蓮》と合わせて購入に至るまでの手紙と電報を駆使したやりとりの記録が展示されていて、そのリアルさに短編映画を観たような気持ちになりました。

Chapter3 国際的な広がり

ジョン・シンガー・サージェント《水を運ぶヴェネツィアの人》1880-82年
ジョン・シンガー・サージェント《コルフ島のオレンジの木々》

この人の絵が結構好きでした。
一番下の色まで明るい感じ。

山下新太郎《供物》1915年

やわらかい人物の塗りが、この頃の洋画の雰囲気が色濃く出ていて好き。

Chapter4 アメリカの印象派

ジョゼフ・H・グリーンウッド《リンゴ園》1903年

当たり前だけど景色がアメリカだな〜と思いました。
平たいところに木がこうやってぽつぽつある構図とか、なんとなくヨーロッパ的ではない気がします。ヨーロッパはもっと後ろに森とかがあるようなイメージ。

チャイルド・ハッサム《コロンバス大通り、雨の日》1885年

この、チャイルド・ハッサムは、サマースクールや芸術家コロニー(芸術家村)を通じて、印象派をアメリカ各地に広めた立役者の1人だということで、本展でも何点か展示されていました。
中でも気に入ったのはこちらの作品。
「動いている人」をテーマに、浮き上がるような馬車。好きな構図と色、古い映画みたいでした。

チャイルド・ハッサム《朝食室、冬の朝、ニューヨーク》1911年

これも良かったです。
背景に摩天楼が描きこんであるのが新鮮で面白い。
印象派と自分の生きている現在が地続きであるんだな、と実感させられる気がしました。

中盤からのアメリカ印象派はまたヨーロッパの印象派とは少し違う空気感で面白かったです。
グランドキャニオンの印象派的表現に象徴的な、アメリカのナショナリズムと写実絵画。国ができたばかりの中の芸術、ちょっと考えさせられる感じもしました。

睡蓮のランドリーネットとクッキー缶


睡蓮のランドリーネット、無駄遣いかなとも思ったのですが、これが自宅の洗濯機で回っている様子を想像したらたまらなくなってつい買ってきてしまいました。
他、グッズも今回はかなり良かったです。あまり美術展でグッズは買わないことにしている私ですが(行くたびに買っていたら破産するので)、クッキー缶も買ってしまいました。

美術館にはそれぞれカラーがあるけど、ウスター美術館の趣味が自分と合うのかもしれません。
所蔵作品がとても好きでした。

印象派は今までたくさん見ているしな、と正直ちょっと食傷気味でもあったのですが、本展に出ている印象派の作品たちはどれも好きなものが多くて楽しめました。
美術館展というものが結構好きで、そこの美術館ごとに個性があって、人の家のインテリアみたいな、トータルコーディネートがされた感じも楽しめるところが面白いなと思っています。
知っている気でいた作家の意外な一面や新しいイメージの作品、新しい好きな作品に出会う確率は、「〇〇らしさ」を軸に展示されることの多い「〇〇展」よりも、美術館展のほうが高いように思います。


あと、今回面白かったのは「主催者からのメッセージ」。
必ず目は通しますが、結婚式の祝辞と同じで、企画展の趣旨、開催に関しての各関係者への御礼といった型通りを述べていることが多くあんまり記憶に残らないのだけれど、今回のマティアス・ワシェック館長のメッセージは印象的でした。
以下、引用です。

「本展に出品するアメリカ絵画の多くは、私たちのいるニューイングランドの美しい自然を描いた風画であり、またいくつかはウスターにちなむ作品です。つまり、これらの作品はウスター美術館から皆様への使者であり、遠く離れた私たちの風景を眺めていただく窓でもあるのです。」

美術は窓。
時間も場所も超えて、ウスターという、この展覧会の前には自分の意識に一度も上ったことのない土地と私を美術がつないでくれる不思議。
美術を観ることで世界も広がるような楽しさに、旅行が好きな私は小旅行のような気持ちで嬉しかったです。

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