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寿司スカートを脱ぐ日

少し古い話になるけれど、一昨年あたりにちょっとだけ流行った「可愛くてごめん」という曲がある。
わたしはあの曲が割と好き。iTunesにも入れてある。

好きなものを堂々と好きと言う女子のしたたかさ。
自分の着たいもの、やりたいことに、周囲に忖度せず貪欲な女子がわたしは好きだし、中年女になった自分もそうありたい。
「自分の味方は自分でありたい」というマインドは全人類が共通して身につけるべきものだとも思う。
誰のためにもならない遠慮なら、誰の幸福も生まないのでするべきじゃない。

駄菓子菓子。
最近、服がなんだか変な気がする。
今さら?!とか言わないで聞いてほしい。「変な服」の話ではなく、「服が変」だという話をしたいと思っている。
しっくりこないことが増えた。
これが30代に訪れる「これまでの服が急に似合わなくなる」現象か、と感慨深い。

若作りをしていたいわけじゃない。
そりゃ、「38歳? もっと上かと思いました!」って言われるのは嫌だけど、10代20代の女子と同じ服を着ようとしているわけでもない。
なんというか、大人の女の余裕が欲しいのだ。
これはもう人から見てどうとかではなく、完全に自分自身の問題である。
シンプルに言うと、見た目からして賢く美しい、いい女になりてぇ、という欲望の話だ。

脱・派手柄か。

とうとう寿司スカートから脱却する時がやってきたのか。
寿司スカートを脱いだらわたしは何を着たらいいのだろう。
10代の頃からロリィタ、ゴシック、パンク、着物、古着、派手柄、寿司柄と好きなことばかりしてきたので、世間の38歳のいい女が何を着ているのか分からない。
寿司スカートを着用している女が少数派だということは理解している。

週末、美容室に行ってきた。
わたしは美容室では持参した本をひたすらに読んでいるのだけど、その時ばかりは世間のいい女が知りたくて、連れてきていた三島由紀夫を放置プレイ、出された雑誌をめくった。
Oggi。シンプルベーシック。
CLASSY。清楚系。
美人百花。フェミニン。
全然しっくりこない。着たいものがない。購買意欲がかき立てられない。

つまり、好きじゃないんだと思う。
これらの雑誌に出てくるような服が。
「ゴシック&ロリータバイブル」や「KERA!」を読んでいた女は、20年後何を読んだらいいのだろう。
「文藝」や「趣味の文具箱」を愛読している女は、どんなファッション誌を読むべきなのだろう。
誰か教えて欲しい。


いや、そもそも、そもそもよ?

……寿司スカートの女はいい女じゃないって、誰が決めた?

すべて、自分の思い込みではないか。
寿司スカートを脱がずとも、いい女にはなれるはずなのだ。
よくない女なのは、寿司スカートのせいではない。
自分の思考がよくない女を作っている。

ちなみにわたしの定義するいい女というのは、

・自分の足で自分の人生を歩いていて
・自分自身の頭でしっかりと考えて
・自分の考えや思いをしっかり主張でき
・それでいて気遣いもまあまあできて
・自分の好きな服やメイクを自分のために楽しんでいる

そんな女だ。男ウケより自分ウケ至上主義の女だ。
わたしの定義の中では、寿司スカートには一切触れられていない。

ごめん、寿司スカート。わたしはあなたをまだ脱ぎ捨てたりしない。
38歳なりの、変だと思わない着方を模索していくよ。
ロリィタを卒業したあの日のように、自分にはもう必要ないと思うその時まで添い遂げてもらう。


余談だが、美容室で毎月のカラー、カットに加え、2ヶ月に1回ハイライトを入れている。
もう1年半以上続けているので、全頭ブリーチまではいかないまでも、それなりに全体が明るくなってきていた。
ここ数ヶ月は春らしく、ピンクやラベンダー系統の色を入れていたのだが、こうした赤要素のある色は、褪色するとハッシュドビーフのような髪色になる。
このハッシュドビーフ色の頭が非常に嫌だったので、赤みを消して欲しいこと、夏なので寒色を入れたいことを予約の時点で伝えていた。
赤みを消すには緑を入れると良いとのことで、相談の結果今回はターコイズで染めることにした。

「赤みが気になるということなので、ちょっと長めに置きますね」

担当の男性美容師がそんなことを言った気がする。
わたしは頭をラップで巻かれた間抜けな姿で雑誌をめくりながら、上の空で返事をした。

シャンプー、カット、ドライを経て、鏡の中の自分と対峙してびっくり。
がっつりターコイズカラーではないか。
わたしのイメージとしては、光に当たるとほんのりターコイズを感じる、くらいの色味で良かったのだ。
ハイライトブリーチをしているので、ところどころ暗くはあるものの(この現象がすでにおかしい)、普通に派手髪である。
前髪なんかは完全にラムちゃん色だ。
めぐみティコ、職業は公立学校教員、だっちゃ。

「ワァ、スゴイキレイナイロー」

何か言わなくては、と思い、そんな感想を伝えると、男性美容師はドヤ顔で頷いた。

「でしょ? 長めに置いたから赤みも綺麗に消えてくれて、いい感じです」

近々、参観日と学級懇談会がある。
少しでも早く全頭ターコイズ感を消したい。
何故かは分からないけれど、ラムちゃん色の頭で保護者の前に出るのは、いい女以前の問題な気がする。
万札出して染めたばかりの髪の毛を、早く褪色しろと願いを込めて、わたしは毎日2回シャンプーしている。

人生でいちばんくだらないお金の使い方をしたなぁ