旗揚げ公演「それは、煙となって。」を終えて(加藤直)
12/7(土)・12/8(日)の二日間。
香川県高松市のライブハウス、高松MONSTERにて旗揚げ公演「それは、煙となって。」を上演しました。
劇団にとって記念すべき最初の公演。
全3公演のうち1公演目と2公演目は満席、3公演目もほぼ満席と、皆さまのおかげで素晴らしいスタートダッシュとなりました。
あらためまして、ご来場いただいたすべての皆さまにお礼を申し上げます。
公演時期が12月ということで、クリスマスを舞台にした作品でした。
実は、12年前に当時私が所属していた別の劇団にて一度上演したことがあった作品なのですが、当時と比べて大幅なリメイクを遂げての上演となりました。
というかほぼ別物と言ってもいいレベルです。
主人公である春香という女性が交通事故で亡くなるところから本編は始まります。
物語にいち早く没入していただきたいという思いから、観客席の隅の方で線香を焚いて香りを漂わせておりました。
神という存在に管理される死後の魂達のやりとりをコミカルに描き、残された遺族側をシリアスに描くことで物語のコントラストを楽しんでいただきたいという願いを込めました。
私自身、「死後の世界があるかどうかは置いといて、あったらいいな〜」という考えの人間なので、本来悲観されがちな「死」というものに対して救いのようなものを見出したいという思いがあったのかもしれません。
主人公である春香の娘、冬子役のキャスティングは非常に頭を悩ませました。
女子高生の役なのですが、私の知り合いの中でこの役のイメージに合う方がなかなか思い浮かばなかったんです。
そこで、以前お世話になったことのある香川県の老舗劇団「銀河鉄道」の公演にて拝見していた濱田千春さんにダメ元で出演依頼をしたところ、快く引き受けていただきました。
冬子という少女は、大人の前で手間のかからない聞き分けのいい子供であろうとします。
それは、春香の弟である真一が辿ってきた人生に似たものでした。
残された似た者同士の叔父と姪。
親族だけど関係値が薄い、何とも言えない距離感のある二人でした。
いろいろあって過去にタイムリープしてしまった春香とトナカイ。
突拍子もない話ではありますが、全体的にしっとりとしている作品の雰囲気、それを壊せる存在としてこの山田という装置を使いたかったんです。
何を隠そう森友樹がこの役を演じるのは二回目なので安心して任せることが出来ました。
作品のスパイスとして取り入れた殺陣。
当初、山田の命を狙う男達には名前がなかったのですが、株式劇団マエカブの池上諒さん、そして嶋田悠生さんお二人の雰囲気がとても良かったため、急遽台本に加筆して新たなシーンを足しました。
その結果、渕上と矢嶋という個性的な登場人物が誕生しました。
渕上は「名を捨てて実を取る」というリアリストであり、理想を追い求める山田の対比として描きました。
かつて同じ場所にいた二人の、大切にしているものや選択の違いによる人生が表現できたのかなと思います。
そして矢嶋は、この作品においては珍しい、自由で己に正直な人物となりました。
余談ですが。
殺陣のシーンで、袖のわずかな隙間から舞台を見ながら効果音を入れていたのですが、ほとんど何も見えない状況だったので恐ろしいほど緊張しました。
あとで映像を見返した時に意外とうまく音が合っていたので安堵。
公演後の感想にて、トナカイについての考察がちらほら私の耳に入ってきました。
実はトナカイにも当初なかった設定や背景があとから追加されています。
稽古中、劇団メンバーのやべりなが持つどこか影のある雰囲気を見て決めました。
ラストで上映したエンドロールを見て察した方もいらっしゃるかもしれませんが、彼女は大切な人を追って自らの命を絶った魂です。
その後、彼女が死後の世界で想い人と再会できたかどうか、その答えが山田に対する警告だったのかもしれません。
劇団SANBA-BAの結めぐみさんには、叔母の恵子と江戸時代の女中の二役を演じていただきました。
それぞれ善悪が反転したような極端な役でしたが、楽しみつつ演じていただきました。
中には、悪事を働いた女中が輪廻転生して過去の過ちを清算するかのように善良な恵子として生きているのではないかという考察も耳にし、観て下さった皆さまが自由な発想で楽しんでくださっていたことを嬉しく思います。
別々に描いてきたそれぞれのグループが、物語の終盤で交わります。
稽古中盤まで、母としての振る舞いに苦戦していた春香役の福井ともみでしたが、自身の中で何かきっかけを掴んでからはとても安心して任せることができました。
福家正洋さん演じる神様は、一見常にふざけていて不真面目でありちゃらちゃらしているように見えたかと思います。
しかし、本当はすべてを見透かす存在です。
ただ、本人はその全能っぷりを表に出すのが好きではないのでしょう。
普段の振る舞いと、時折見せる真面目モードとのギャップが魅力的な登場人物です。
公演を観て下さった方はお気付きかと思いますが、「それは、煙となって。」というタイトルには二つの意味が込められています。
火葬場で煙となって天に昇った春香。
そして唯一の逃避手段としてタバコの煙に縋った真一。
姉として弟を救いたい一心でストレートな言葉を投げかけるも、彼の癒着した仮面は揺るがない。
人生を諦めた弟を目の前にした春香、そこへタイムアップを告げる神様。
それぞれの糸が絡まったまま、姉弟は別れを迎える。
「たばこ、ほどほどにしとけよ」
去り際。
せめて姉らしい一言をという想いで咄嗟に出たのは、取るに足らない言葉だった。
しかし、その一言こそが彼の出し続けていたSOSへの救いとなったのである。
そんなことには気付かないまま、彼女は天に昇っていく。
どこか切ない雰囲気を吹き飛ばすべく、エンドロールに全てを託して終演。
山田が江戸時代でエアガンをぶっ放しているのは御愛嬌ということで。(渕上も矢嶋も帰れてよかったね)
人の人生は続く、どこまでも続く。
そうであったらわくわくしますね。
あらためまして、
ご来場いただいた皆さま
関係者の皆さま
この公演に関わって下さったすべての皆さまへ。
この場を借りてお礼を申し上げます。
チクタクノイズはようやく走り始めました。
これからの劇団の応援をなにとぞよろしくお願いいたします。
(加藤 直)