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フルーティン一号


クラスでは人狼ゲームが流行っていた。
みんなで役職を決め、話し合い、人狼を吊っていくのだ。
ただ、休み時間になるので、話し合いはごくわずかに限られる。
その時間でどれだけの情報を共有し、理解できるかによってゲームの勝者が変わる。
それと同じだった。


俺はじーっとバナナを見た。
もう熟しているか?していないか?
している!と覚悟を決めてかぶりつく。
しっとりとした味わいに思わずう〜んと唸った。
おいしい!
「またやってるのか、カンショウ」
兄の呆れた声が聞こえてきて、
「ふがふが」と返す。
ちなみに、だっておいしいんだもん!と言った。
カンショウというあだ名はバナナの別名だ。
俺があまりにもバナナ好きだのでついた。
でも、実際のところ、兄もマスカットが好きすぎて
紅アレキと呼ばれている。
さらに兄をもじって紅兄貴だ。
それだと、マスカット要素が残らないと兄は喚いているが、そこは気にしないこととする。
そして、兄が好きなのはあくまでもマスカットだ。
種がないのは葡萄ではないんだとか。
種があってこその葡萄とか、その話をすると一日かかる。
俺は兄をチラリと盗み見た。
実を言うと、俺と兄は血が繋がっていない。
どちらかというと色黒な俺と色白な兄。
似ているところは数少ない。
俺は兄の家に養子に出されたのだ。
それで、真佐山 詩から柿音 詩になったのだった。
「葉紋!詩!ご飯だよ〜!」
はーい!と二人で声を揃えて台所へとかけていく。
これがいつものルーティーンだった。
もちろん、その前にバナナを食べた俺が腹を壊したことは言うまでもない。


「すいません、真佐山さんちですか?」
「いいえ。うちは真佐山ではありません。柿音です。そこの表札にもあるでしょう?」
「え〜おかしいなぁ、確かにこの住所なんだけどなぁ。
ホントに真佐山さんじゃないんですか?」
「違います。お人違いでしょう」
俺は真佐山という言葉に反応して兄と一緒に二階からその光景を見下ろしていた。
郵便配達員はじゃあ、住所変わったのかな、などとぶつぶつ呟いている。
「あ!」
「げっ、見つかった。おい、カンショウ隠れろ」
「りょ!紅兄貴」
郵便配達員と目が合ってしまい、俺たちは慌てて引っ込む。
「ねえねえ。君、真佐山くんだよね?お母さんに顔そっくりだもん」
えっ?と俺はもう一度窓から顔を覗かせた。
「こら!詩、そんなとこで何してんの!郵便さん、あの子はうちの養子です。今は真佐山じゃないですから、お帰りください」
「そんなこと言われてもなぁ。仕事の責務を全うしないといけないし?
とりあえず、手紙だけ置いときますわ」
郵便配達員の人はそういうとサッとバイクに乗って行ってしまった。
『お母さんに顔そっくりだもん』というどこか親しげな言葉がいつまでも耳に残っていた。
「はあ。詩、これ。一応あんた宛だったから」
「ありがとう、おかあさん」
おかあさんのエプロンの裾が消えたのを見送って俺たちは早速封を開ける。
「こ、これって、どう思う、カンショウ」
「ただの迷惑手紙としか思えねぇぜ」
手紙は黒字で白い文字で一言。
『会イタイ』
「これだけ見たら、ただの迷惑手紙だよな」
と、ふと窓に目を向けた紅兄貴があ、と声を漏らした。
「これ、いつの間に来たんだ?」
そこには真っ白の紙飛行機があった。
はて?と首を傾げて、それも分解してみる。
『次は部屋に上がらせてね』
今度はひらがなで書かれていた。
「この口調さ、さっきの配達員ぽくね?」
「確かに……」
突拍子もない考えだけど、それはしっくりくるように思えた。
そして、その手紙たちのようにこれで終わりはしなかったんだ。

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