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電車の形の喫茶店

その喫茶店は
電車の形をしていて
街外れにぽつんとあって

わたしと彼のお気に入りだった

彼といるとき
わたしは何も知らない
女の子でいられた
彼は
はじめての人だったから

わたしはまだ開発途上
女になりきっては
いなかった

夜暗くなった街を
車で走るのが好きだった
少し走れば
すぐに山に入る
そんな土地で

バイパスは光りに満ちて
二時間4800円で
休憩ができるホテルが
まるでシンデレラ城みたいに
輝いて

夕方から休憩を
終えた二人は
デートの締めに
街外れの
喫茶店に寄る

何を話していたのかなんて
覚えていない
たぶん何も話して
いなかったのだろう

こげ茶いろの
朴訥な木のテーブルと
深い赤のランプシェード
少し変な名前のついた
料理が並ぶ
メニュー表
少し懐かしい
ポップソング

夢を見るように
遠い
どこにでもある
恋愛の記憶

辺りは静かで
店内に流れる
ポップソングに混じって
虫の声が
聞こえた
夏の終り

そんな喫茶店は
電車の形をしていて
街外れに
ぽつんと
あった




初出 現代詩フォーラム 20040430

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