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連作詩「発情四季」


「はるがきた」

呼吸が浅くなり
何度も何度も溜息をつく
胸が苦しく
膣が潤っている

どうしよう
わたし

誰でもいい
わけじゃないのに

誰でもよく
なってくる

あなたのこと
嫌いだけど

今すぐに電話が来たら
行ってしまうかも

ああ、
頭の後ろが
熱い



「はるのおわり」

ざーっと音を立てて
洗い流す

全部
全部

何も残らない



自分でもわからない

とりあえず帰ります

ぬるい夜風

タクシーを止め、

乗り込んで目を閉じる

自己嫌悪の嵐

とりあえず次に会ったときには
「明るい挨拶」

心がけよう

しみじみ思う

はるのおわり



「初夏」

わたし
そうでもないよって
思うけど

「メシでも」
って
何度も誘われるのは
ちょっといい気持ち

明るい挨拶して
あとは知らないフリしてたのに
あの男
しつこかった

「メシ」のあとには
つくことがついてくるんだけど

そんなの何回だって
同じコトでしょ

どこかひとつでも
めちゃめちゃ嫌だったら
すぐに断れるのに

そうでもないから
なんか断れない

あのね、
お願いだから

あまり踏みこまないでね



「なつ・白夜」


困ったな
すごく困った
気持ちいいところ
ずっと押されてるみたい
ビリビリビリビリ
警報が鳴ってる
ドーパミン大放出
わたしもあなたも
快楽に弱いのは一緒
すごい
気が合うね

わたしたちの
小さな部屋は
白夜が続いてる

殺して殺して
だいじょうぶ
おねがい
わたしひとりくらい殺しても
死刑にならない
から

3人殺すとヤバイよ

ゲームゲームゲーム
ゲームだって
同じコト言わせないで
だいじょうぶリセットして
わかってる
わかってるから
いいかげんにして
いいかげんにして
もういいかげんにしてよ

おねがいおねがい
もうわたしを放り投げて
今夜
思いきり遠くへ
白夜の向こう側へ
わたしを放り投げてよ



「初秋・分岐点」


ここで。
ほんとうのこと、を。

二つの道しかありません。

えいえんのあき
はるのくるふゆ

どちらを選びますか。

どちらを選びますか?


「えいえんのあき」


二人で地下室に入り
暮らそうか

そうね


なんていらない

あいしてる
あいしてる

まるで二人は
日差しを惜しむように
ひたすら

気がついて
しまったから

もうすぐ
今が終り

えいえんのあきが
やってくること

永遠の秋
実りの秋
収穫の秋

あき

暑くない
寒くない

なんの問題も
ない
けれど
それは
ただの
せいかつ

せいかつ

わたしは
えいえんの
あきのなか
ゆりかごを揺らす

揺らし続ける

眠ってしまった子が
起きないように

けして
けして

起きないように

あなたも
わたしも
二度と

目を覚ますことの
ないように



「はるのくるふゆ」


ベッドの中にビバークする
寒さに震え縮こまりながら
一点だけを見つめ泣く

寒いと
痛いんだね

どれだけ泣いても枯れない涙
いったん収まりはするものの
すぐにあふれてくる
泣きすぎて
頭はぼんやりと霞み
ひとつのこと以外は
何も考えられやしない

あなたのこと
あなたのこと

何度も何度も
足元の氷が砕け
暗く冷たい水の中
落ちて行く
     
わかってたのに
わかってた
のに
どうしてこんなに
苦しいのだろう

でもほんとうは
信じたくなかったの
あなたに
アイスピックで
背中から
突き通される
までは

まだ刺さったまま

時間の感覚は無く
朝から泣いたり泣きやんだり
していると
夕方になる
そして
電気もつけないまま
夜になる

寒い
寒い

もう二度と
この手に触れることのできない
あなたの
からだ
まだ感触が
残っている
     
こんなに悲しい
こんなに悲しいのに

いつか溶けて
しまうというの?

またはるがくると
いうの?

それがむしろ
悲しい

はるのくる
ふゆ






初出 現代詩フォーラム 20040613






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