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逢えなかった”なおしま”

  2024年の4月末に淡路島を訪れた時、「道の駅 東浦ターミナルパーク」で海上にグレーの船影を見かけました。家人の買い物に付き合っていたので港の方には行くことができず、確認できないまま次の目的地「淡路島 国営明石海峡公園」へと移動しました。

 ネモフィラなどを見ていた時に、なんと先ほどの船が沖合を航行しているではありませんか。船艦種が判らなかったので、望遠機能で撮影した画像を後日Xに投稿しましたが、レスポンスがありませんでした。(投稿文には5月1日とありますが、これは最初に投稿した日付です。)

 8月になって阪神基地隊のXの投稿で、ようやく掃海艇の”なおしま”であることが判明しました。(ロゴマークは薔薇をあしらったロンギヌスの槍です!)そこで”なおしま”と掃海艇について調べてみました。

MSC-681すがしま

 なおしまは、海上自衛隊の中型掃海艇(Mine Sweeper Coastal, MSC)である すがしま型掃海艇の1隻で、2001年(平成13年)3月16日に竣工し、呉地方隊阪神基地隊第42掃海隊に所属しています。すがしま型掃海艇は、基準排水量510t、全長54m、最大幅9.4mで、12隻が建造され、MSC-684なおしまの他に、MSC-685とよしま、MSC-686うくしま、MSC-687いずしま、MSC-688あいしま、MSC-689あおしま、MSC690みやじま、MSC-691ししじま、MSC-692くろしまがあり、ネームシップであるMSC-681すがしまと MSC-682のとじま、MSC-683つのしまはすでに除籍されています。

MSC-601ひらしま
MSC-604えのしま

 海上自衛隊の掃海艇には、さらに、すがしま型掃海艇より大型で新しい、ひらしま型(基準排水量570t、全長57m、最大幅9.8m:MSC-601ひらしま、MSC-602やくしま、MSC-603たかしま)、えのしま型(基準排水量570t、全長60m、最大幅10.1m:MSC-604えのしま、MSC-605ちちじま、MSC-606はつしま)があり、いずれも島の名前を艇名としています。これら3型の掃海艇の主な任務は中深度の機雷を除去することです。

係維機雷

 機雷とは、水中に設置され、艦船が接近または接触したとき、自動または遠隔操作により爆発する兵器で、もともとは機械水雷の略です。機雷は、アメリカ独立戦争(1775-1781年)ころから使用され始めましたが、最初は「未来少年コナン」に出てくるガル爺さんのごとく、火薬を詰めた樽を使っていました。機雷が外洋で多く用いられたのは日露戦争が最初で、日本海軍では戦艦初瀬と敷島が機雷によって沈没してしまいました。機雷の多くは係維機雷と呼ばれ、海底の重りから伸びたワイヤーで繋がれて水中に浮いています。このため航行中の船からは見えず、船が接触して爆発してしまいます。

対艦式掃海

  機雷の脅威が増していくと各国海軍はその対策、つまり機雷を除去する「掃海」方法を考え始め、これを専門に行う船として掃海艇が誕生しました。
 例えば、掃海艇が2隻一組となって、航路上で浮標(うき)を付けた掃海索(ロープ)を曳き、機雷を掃海索に引っ掛けて、航路から離れた場所に移動させて、航路の安全を図るのです。

単艦式掃海

 第二次世界大戦では、多くの艦船にパラベーンと呼ばれる防雷具が装備されていました。パラベーンを2基両舷から艦尾方向にワイヤーを付けて流し、係維機雷のワイヤーを引っ掛けて、パラベーンに設置されているカッターで切断することで、機雷を浮上させます。すると船から見つけることができるので、銃撃するなどしてこれを安全に爆破します。

 現在の掃海艇も、係維機雷に対してはパラベーンと似たシステムで掃海を行っていますが、機雷はステルス化や高性能化が進んでいるため、無人水上艇(USV)、可変深度機雷探知機、自走式水中捜索用無人潜水艇(UUV)といったハイテク化装置の開発・装備が進んでいます。すがしま型にもPAP-104というフランスのECA社が開発した機雷掃討用の遠隔操作無人潜水機(ROV)が搭載されています。
 掃海艇は、機雷の除去だけでなく、災害時の救援活動や国際協力など平時にも活躍しています。知床沖における観光船事故の際も、いずしまがPAP-104を使用して捜索活動を実施しました。

 掃海艇に興味を持ったので、なおしまを実際に見に行きたかったのですが、阪神基地隊のイベントなどでの見学は、仕事と重なってしまい果たせないでいました。

 そんな時、痛ましいニュースが飛び込んできました。うくしまが炎上・沈没してしまい、隊員がお一人犠牲になってしまったというのです。
 このニュースの記事で指摘がありましたが、すがしま型と次に建造されたひらしま型は木製の掃海艇で艦齢は15年ほどです。一番新しいえのしま型がGFRP(ガラス繊維強化プラスチック)で艦齢が30年となりました。このように木製の掃海艇は艦齢を超えて活躍していたわけで、順次退役しているのです。
 掃海艇の新たな建造計画もなく、いずれは新型護衛艦に掃海任務を引き継ぐことになるそうです。

 そして先日、阪神基地隊のXで”なおしま”引退が報じられました。
 長年、日本の安全を守ってくださった海の男たちに、そして、縁があったようでなかった”なおしま”に感謝の気持ちを込めてこの記事を書きました。
 

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「出典:海上自衛隊ホームページ

参考文献
軍艦メカ図鑑 日本の駆逐艦 森 恒英著 グランプリ出版 1995
海上自衛隊 自衛艦隊 パーフェクトガイド イカロス出版 2016
世界の軍艦ルーツ 石橋孝夫著 潮書房光人新社 2025


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