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第31号哨戒艇-『特設空母安松丸物語』より (Hasegawa 1/700 waterline kit)


1.はじめに

Pic.1-1 ハセガワウォーターラインシリーズNo.436 樅

 大日本絵画社の『月刊モデルグラフィックス』に連載されていた、宮崎駿のイラストエッセイ『宮崎駿の雑想ノート』の第9話『特設空母安松丸物語』には「安松丸」と共に出撃した「第31号哨戒艇」も描かれています。
 第31号哨戒艇とは、1920年(大正9年)12月に竣工した、二等駆逐艦の樅型駆逐艦9番艦「菊」の戦時中の名称です。樅型の多くの艦は開戦前に哨戒艇に類別変更され、菊も1940年に魚雷発射管、第二砲塔を撤去し、機銃、掃海具、爆雷投射機を設置し、第三十一号哨戒艇に改称されました。この物語は1942年(昭和17年)のミッドウェー海戦前後のお話なので、第31号哨戒艇となっている訳です。史実においては、第31号哨戒艇は高速輸送艦として南方で作戦に従事し、1944年の3月にパラオ沖にて米機の攻撃により沈没しました。
 この第31号哨戒艇の制作をハセガワウォーターラインシリーズNo.436『樅(もみ)』の改造で試みました。

Pic.1-2 船の長さ

 制作にあたり、色々と調べていたところ、春園燕雀さんのブログ「燕雀洞」に行き当たりました。このブログの中で、燕雀さんが樅型駆逐艦に関する詳細な検証をなされていて、いくつかの事実が判明していたのです。その一つは、樅のキットの全長が4mm程短いという問題です。
 実は、単に船の長さといっても、垂線間長、水線長、全長に加えて登録上の長さと4種類もあるので大変にややこしいのです。
 このため資料によっては記載が間違っているケースがあるというのが燕雀さんのご指摘です。
 ちなみに、手持ちの資料を確認してみると

  • モデルアート 1989年10月号臨時増刊 No.340 艦船模型テクニック講座Vol.6 日本海軍艦艇図面集のp.70には、二等駆逐艦 樅型 全長(L)85.34m 水線長W.L. 83.8mとあり、p.74には、哨戒艇31号型、32号型、46号型 全長(L)85.34m 水線長(W.L.) 83.8mと記載されています。

  • グランプリ出版 森 恒英 軍艦メカ図鑑 日本の駆逐艦 1995のp.295には、二等駆逐艦 「樅(モミ)型」全長 85.34メートルと記載されています。

  • 海人社 世界の艦船 2023年8月号増刊 第1000集(増刊第208集)日本軍艦史 2023のp.222には、樅型 Momi Class(萩 Hagi)全長85.3メートルと記載されています

 このように、一般に入手できる資料では、全長は85.34mとなっていて、ハセガワはこれをもとに1/700にキット化しているので致し方ないことなのですが、燕雀さんによると、85.34mは水線長のことで、全長は88.392mが正しい数値であり、キットは4mm程短いということです。
 また、樅型は21隻ありますが、狭義の樅型が8隻で、菊以下5隻と蔦以下8隻はそれぞれ基本計画番号が異なり、外観上いくつかの点で相違点が存在するということです。
 これらの指摘事項をもとに、哨戒艇改装後の姿を制作していきました。

2.甲板モールドの修正

Pic.2 甲板モールドの修正

 駆逐艦の甲板は鉄甲板に滑り止めを施した箇所とリノリウム張りの箇所があります。艦の延長をするため甲板上の構造物の位置も変わってくるので、甲板上のモールドを削り落としてしまいます。さらに探照燈台の基部(A)と第三砲塔の基部(B)も型取り後にカットしました。

3.艦体の延長

Pic.3 艦体の延長

 上段:「おゆまる」(A)を熱水で柔らかくし、艦体中央やや後方の型を取ります。
 中段:煙突取り付け部の後端で艦体パーツを切断します。切断部を加えて5㎜離し、艦体パーツの内側に直方体の詰め物(B)を入れておきます。
 下段:艦首側はそのまま、艦尾側は5㎜後ろにずらした位置でおゆまるの型に戻して、透明レジン(C)を注入しました。

4.艦体の修正

Pic.4 艦体の修正

 上段:日光に当ててレジンを硬化させて、おゆまるの型から外した状態です。後部が外れてしまったので(A)、パーツの裏側にプラ板の添え木を当ててしっかりと接着します。
 中段:はみ出たレジンをやすりで削り取ったあと(B)、切断部分をカバーするとともにタンブルホーム形状(艦体の吃水部分は甲板部分よりも太って下膨れになっている)にするために0.3㎜のプラ板を2枚張り合わせて、やすりで滑らかにしました(C)。
 下段:カットした探照燈台の基部(D)と後方にずらした第三砲塔の基部(E)をプラ材で復元したのち、サーフェーサーを噴いて修正部分の形状を確認して(修正が必要な個所はパテ等で修正後)、軍艦色で塗装しました。
 船首楼から上甲板に至るカーブ部分が1㎜程短いのでプラ板で延長し(F)、甲板上にプラペーパーと真鍮線でリノリウム張り処理(G)を行いました。また、艦中央部の魚雷輸送用の軌条のあった部分もリノリウム張りとしました(H)。宮崎駿は1番魚雷発射管を残して描いていますが、史実では1940年に取り外されているので、魚雷関係の構造物はすべて必要ありません。
 燕雀さんによると、艦が腰高なので艦底板を省略し、さらに0.5mm程度削り込むとありましたが、武装を減らした状態なので吃水はやや浅くなっていると判断し、パーツの艦底板を省略して、艦体パーツの内側に嵌るようにプラ板で作成した艦底板(I)を接着しました。2か所の穴の部分には内側にナットを接着しビス止めできるようにしています。

5.武装と装備

Pic.5 武装と装備

 武装と装備について艦首側から説明していきます。
 第一砲塔の取り付け部分は、キットでは一段低くなって滑り止めのような構造ですが、その部分(A)を埋めています(たまたま同径のワッシャーがあったので嵌めました)。
 第一魚雷発射管は前述したように設置しませんでしたが(B)、物足りないですね。宮崎氏が描いてしまったのも頷けます。
 艦橋TOPの探照燈座(C)はブルワークを一回り大きくしています。
 第二砲塔は、25㎜単装機銃(D)に置き換えました。
 第二魚雷発射管は物語通りとするためスクラッチの8㎝高角砲(E)に置き換えました。
 ピットロード日本海軍艦船装備から爆雷投下装置(F)やパラベーン(G)を取り付けました。
 艦橋、第二・第三砲塔基部のトラス部分(H)はエッチングパーツに置き換え、通風筒類(I)、昇降口(J)やホーサーリール(K)を甲板に設置し、情報量を増しました。

6.完成

Pic.6 第31号哨戒艇

 手すりや梯子類のエッチングパーツ、ボラードやマストを取り付け、ロープ、空中線を張って完成です。
 安松丸と並べてジオラマ化して摸コン2023にエントリーしたかったのですが、(スケモだと安松丸がたぶん規程違反となりそう)金剛型作成の夏場中断が響いて、間に合わせることができませんでした。
 しかし、戦艦作成で得た様々なノウハウを小型艦で活かすことができました。小さな船も好いものです。

7.参考文献

  1. 大日本絵画社『宮崎駿の雑想ノート』 1992

  2. 燕雀洞 ウェブページ https://www.enjaku.jp/

  3. モデルアート 1989年10月号臨時増刊 No.340 艦船模型テクニック講座Vol.6 日本海軍艦艇図面集 1989

  4. グランプリ出版 森 恒英 軍艦メカ図鑑 日本の駆逐艦 1995

  5. 海人社 世界の艦船 2023年8月号増刊 第1000集(増刊第208集)日本軍艦史 2023

  6. グランプリ出版 森 恒英 軍艦メカ図鑑 日本の巡洋艦 1993

  7. モデルアート 2014年3月号臨時増刊 艦艇模型データベース番外編Ⅰ 帝国海軍 駆逐艦 総ざらい 2014

2023年11月11日制作開始 2023年12月2日完成
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