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新しい小説の書き方

小説を書く、というのは僕にとってなかなか厄介な作業だ。
ずっと昔は小説らしきものをずいぶんと書いたりしていたものだが、今となってはあの時どうやってあんな作品を書いたりできたのか、ほとんど思い出すことができない。
当時は、書くこと以上に読むことにも夢中になっていて、特に小説は膨大な量を読み込んでいたので、インプットされた文の波が勝手に溢れ出て作品を作り出していた可能性はあるかもしれない。

今となっては、あの頃と全く同じ感覚を取り戻す、というわけにはいかない。そのため、今の自分に合った新しい書き方を見つける必要があるだろう。
そこで、最近の自分が小説を書こうとして思ったことや気がついたこと、難しいと感じたことやその対処を、今後の創作活動のために記しておくこととする。

まず、資料集め。
資料はいくらあっても多すぎるということはない。むしろ、作品の奥行きや細かいディティールを描き出すためにはしっかりと取材しておくのは大事だ。
リアルな広告代理店の話を描こうとした時、代理店の仕組みや事情のことを全く知らずに描く、というのは難しいだろう。これがリアルでなく空想の商売の話であれば、ある程度はぼやかしたり勝手に設定することでも対応はできるが、そこは何を描きたいのかという塩梅で変わってくる。
空想の食堂の話でも、現実の食堂と同じく食器を使っているのなら、食器の取り扱い方を取材しておいて損はない。いざ細かい描写をしようとした時にはその取材がきっと活きてくるはずだ。

次に、テーマ(主題)の選び方。
何かしらの作品というのは、スタートと同じようにゴール(目標)があるものがほとんどだ。だから、物語を作る時は最初に大まかなスタートとゴールを考えておく方が取り組みやすいだろう。
例えば、「内気な男の子が勇気を出して女の子に告白し、恋人同士になる」とか「家族を殺されて復讐に燃える主人公が、困難な旅を乗り越えて宿敵を見つけ出し倒す」とか、一言で表せるストーリーラインのようなものと思ってもいい。
重要なことは、これはストーリーに限らないということだ。
ある物語を通じて仲間の大切さを訴えることを目標としたいと思うのなら、「一匹狼の男がスポーツの試合に負け続け、一人で勝つのは困難と思い仲間を見つけて特訓するが、それでもまた敗北してしまう」という筋立てにしてもいい。
これでは、最初から最後まで負け続けに見えるかもだが、この物語を通じて主人公が「仲間がいてくれてよかった」と最後まで思えるような作品になれば、それはテーマに相応しい物語ということになる。そこは書き手の腕次第であろう。

そして、登場人物。
僕は、物語の魅力とは登場人物の魅力が多くの割合を占めていると思っている。そうであれば、人物を魅力的に描ければそれだけ物語も面白くなるはずだ。何より、書いている側もその方がずっと楽しいだろう。
無論、細かいところまで設定しすぎてガチガチになると、単純作業の積み重ねになったり、想像する楽しみが減ってつまらなくなってしまう可能性もある。なので、そこは資料集めと同様、リアリティをどこまで作品に与えたいのかという趣向による部分もある。
主人公とただすれ違うだけの通行人Aについて、生年月日から家族構成まで考え始めたら、時間がいくらあっても足りない。そこは必要最低限というか、自分が設定しておいて楽しいと思える程度のラインに収めておくのがいいだろう。

最後に、書き始め。
久々に一文を書いてみた時に思ったが、いきなり完璧な文章を書くのは本当に難しい。特に小説などは正解がないし、随筆やエッセイなどのように自分の言葉で伝えればいいというものでもない。状況の“説明”よりも“描写”や“リズム”の方が大切だったりすることも多い。

そこで、僕が今やっている書き方は、場面と人物の行動と考えを分けてざっくり書き始める、というものだ。
例えば、

・マイケルという男が食堂にやってくる
(食堂はどんな外観? マイケルは何者? どんな格好? 何故ここにやってきた?)
・マイケルが店に入る
(店の中はどんな様子? 誰がいる? どこかの席に座る? それとも別の用事?)
・店の奥にいたマスターが怯えた様子でマイケルに歩み寄ってくる。
(マスターはどんな外見の人? 二人はどういう関係?)
・マイケルがマスターに日付と金額を伝える、マスターはさらに怯えた様子になる。
「約束を守れよ……お前の娘のためなんだからな」とマイケルが言う。
(マスターが約束を守るわけがないことは初めからわかっている。だが、ここはまだ信用しているふりをしなくてはならない、とマイケルは考える)
・店の奥から、マスターの娘がやってきて笑顔で挨拶をする。マイケルも同じようににこやかに挨拶を返す。
(マスターの娘はどんな外見? マイケルと娘は仲が良く、娘はマイケルのことを悪人とは知らない)
・マイケルはその明るい調子のまま、「それでは日曜日に」と言って、店を出ていく。マスターは複雑な顔をしている。
(マイケルには裏表がある マスターは娘に知られたくないことがあって、それはマイケルと関係している事柄)

ざっと、思いついた場面を書いてみた。
こうして書き記した筋書きを基にして、さらに細かい描写を書き込んでいくことができるだろう。
()の中は、まだ設定ができていない部分だったり、読者が読んだ時に当然気にするだろう事柄を書いた。これは、必ずしもその場所で答えを出す必要はなく、敢えて疑問を残しておいてもいい。それが後々の伏線として機能してくることもあるだろう。

何はともあれ、とにかく書いてみることだ。
上のような書き方で余白だらけになるのが嫌、という気持ちになることもあるかもしれない。しかし、むしろその余白を楽しめるくらいの方が執筆という作業にはちょうどいいだろう。
書き始めた時は特に意味はなくとも、書いているうちに意味を持ってくることも大いにある。何も気にすることはない。
そこに意味を持たせるのも自分の創作性の成せる業なのだから。

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