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【映画評】『さらば友よ』:男の友情は約束と共に
みんなはチャールズ・ブロンソンを知っているだろうか。
1960〜70年代の、主にアクション映画で人気を博したアメリカの映画スターだ。
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このぶてっときた猫みたいな顔のおじさんが人気なの?と思うかもだが、なかなかどうして、どの映画を見てもこの方めちゃくちゃ良い顔してるんですな。
緊迫感のあるシーンでは鋭い目つきなのに、笑うとめっちゃニコニコするし、根が良い人なんだろうなというのが見ていて伝わってくる。体つきも、脱いだらドスっと立派な体が出てきて強そうな雰囲気にも説得力がある。
この人の吹き替えは、『ブラック・ジャック』の声優さんとして知られる大塚明夫さんのお父さん・大塚周夫さんが担当されていることが多かったようで、声を聞けばその配役もかなりイメージが掴みやすい気がする。
そして、もう一人紹介するのは、フランスを代表する名優、アラン・ドロンだ。
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今の時代で見てもイケメンである。ある年代の人、特に女性には熱烈に支持されていて、僕も『太陽がいっぱい』や『若者のすべて』などを見て、ものすごく好きになった。
甘い外見で優しそうなのにどこか危ない雰囲気を漂わせている。映画の役でも、犯罪者だったり、危険なことに巻き込まれていく印象がある。
この二人が共演したのが、ジャン・エルマン監督のサスペンス映画『さらば友よ』(1968年公開)だ。
お話は、アルジェリアでの戦争が終わり、フランスに帰ってきたプロップ(チャールズ・ブロンソン)と軍医のバラン(アラン・ドロン)は、それぞれ怪しい稼業に手を染めるが、ひょんなことから、二人がある犯罪の計画に巻き込まれてしまうというもの。
映画の冒頭、プロップがバランを仕事に誘うが無下に断られてしまい、しばらく二人とも別々に話が進む。
プロップの方は飄々としていて如何にも自由人といった感じだ。その一方で、バランは寡黙で自分のことは何も話さず、誰にも本心を打ち明けない。プロップに色々な話を持ち掛けられても全く相手にしていない。
その後、プロップはプロップで強盗をしたり、バランはバランで訳ありの女に持ち掛けられた会社の金庫を開ける計画を進めていたりと、まるで接点がない。
「これ、どういう話になるんだ?」と思い始めていると、バランの金庫を開けるための番号の一部が判明し、バランの話がぐっと進行していく。
会社がほぼ無人となるクリスマス休暇の間に金庫を破るため、バランは会社の地下室に潜伏するが、そこに「なんか面白そうなことやってるな」とばかりにプロップがやってきてしまうのだ。
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結局、全くウマの合わない二人なのに、そこでいがみ合いながら金庫破りをすることになる。
このシーンの二人の掛け合いが、場面の設定も相まって面白い。
12時間毎に見回りが巡回してくるため、毎度毎度、金庫室を出てセキュリティを搔い潜って他の部屋に隠れなければいけない。なのに、お互いに子供のような妨害をして、先に金庫を開けようとする。
ところで、地下室の扉は機械制御で自動的に閉まる仕掛けになっているのだが、この場面は絶対にクリストファー・ノーラン監督の『TENET テネット』に影響を与えていると思う。
「あー、こういう話ね」と納得して緊張感も増してきたのも束の間、そこからさらに二転三転と「そんなことある??」ということが起こり始める。
閉所恐怖症の気がある僕は「ヒェー」と言ってしまいそうになった。
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全く性格の違う二人の友情というのはわりと王道な話だけれど、この映画はその二人が仲良くなる過程の作り方がとても上手い。
対立している間は終始喧嘩ばかりしているし、なんなら殴ったり殴られたりしているシーンも多い。しかし、極限状態に陥って自分自身をさらけ出してしまうと、二人はもう一心同体のようなもので、お互いに一番の理解者となる。
飄々としているプロップにも重い過去があることが分かり、バランもやっと自分の心の内を見せることができる相手と出会う。
これを感動のシーンとして演出するのでなく、見ている側もクタクタになっている中盤で見せてくれたのが良い。それ以降は、そこで築いた友情を如何にして守っていくかという話になってくるからだ。
「この話、一体どうなっちゃうんだ?」とまた思い始めてくる。
友情の話ではあるけれども、友情があるからと言ってベタベタイチャイチャするわけではなく、お互いに口は悪いしツンケンしているのも相変わらずだ。
この映画で描かれるのは、言わなくても分かること、損得を超えた感情によって支えられた友情だ。その根幹にはたぶん“約束”がある。信頼する人と交わした約束は決して裏切らない。劇中でも、何度も台詞に「約束」という言葉が出てくるのがとても印象的だ。
そして、屈指のラストシーン。これなんてまさに「言わなくても分かる」友情そのものだろう。このシーンの美しさに全ての良さが集約されている。
素晴らしい! イェー!
[引用]
Jean Herman (Director). Adieu l'ami [Film].
GREENWICH FILM PRODUCTION (1968)