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DXを超えて「BX(ビジネストランスフォーメーション)」時代へ
〜 ただデジタル化するだけでは不十分。ビジネス全体を改革するBXの概要と成功の鍵を整理 〜
●自己紹介
・私はデジタルマーケティングを中心に企業のマーケティング部門に15年在籍し、広告プロモーションの全体企画・ディレクションを行なってきました。
・転職も何回かしておりまして、在籍した企業の規模は10名程度のベンチャーから100名規模、1000名規模、今は社員数2万人以上いる、いわゆるナショナルクライアントの宣伝部門で部門長を務めています。
・その意味でいろんなサイズでのプロモーションを経験しておりますので多くの方に共感いただける記事を共有できると思います。
はじめに:DXとBXの違いとは?
近年「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉があらゆる業界で飛び交っています。企業が競争力を維持・向上するにはデジタル技術を取り入れることはもはや不可欠です。しかし、単にデジタルツールを導入するだけのDXでは、根本的な課題解決や企業価値の飛躍は難しいと指摘され始めています。
そこで注目されるのが「BX(ビジネストランスフォーメーション)」。BXは、技術的な導入に留まらず、企業文化・組織構造・ビジネスモデル全体にまで及ぶ包括的な変革を指します。すなわち、企業としての在り方やビジョンを再定義し、新たな価値創造に向けて舵を切ることがBXの本質です。
本記事では、DXとBXの違いやBXが求められる背景、そしてBXを成功させるための具体的なポイントを、いくつかの事例を交えながらご紹介します。
1. なぜ今「BX」が求められるのか?
1-1. DXが定着しても成果が出ない企業が増えている
コロナ禍や急速なデジタル化により、オンライン会議システム・チャットツール・ECサイトなど、多くの企業が各種デジタルツールを導入しました。しかし「導入はしたものの、実際の業務プロセスはほとんど変わっていない」「既存のビジネスモデルに縛られ、新しい収益源を確保できていない」という声が少なくありません。
これは、デジタルツールが**「既存業務の効率化」や「部分的な改革」にとどまり、本質的にビジネスモデルや企業文化を変えることができていないからです。
1-2. 競合環境の激化と顧客ニーズの多様化
あらゆる業界で競争が激しくなり、顧客ニーズも多様化・高度化しています。単に「デジタル化して便利になった」だけでは差別化が難しく、顧客にとっての価値を再構築する必要があるのです。
ビジネスモデルそのものを転換し、新たな収益源を作る
組織構造や企業文化を変えて、従業員の生産性と顧客志向を高める
こういった包括的な変革こそ、BXがめざすゴールです。
2. BXを成功させるための3つの視点
2-1. ビジネスモデルの再構築
ただ既存ビジネスを効率化するだけでは、真のビジネス変革に至りません。顧客体験の向上や新しいマーケット開拓につながるイノベーションが必要です。
実例:Netflixのサブスクリプションモデルへの転換
転換前:DVDレンタル事業を中心としたビジネス
転換後:オンライン配信のサブスクリプションモデルへ
単にメディア配信をデジタル化したのではなく、**「顧客がいつでもどこでも好きなコンテンツを楽しめる」**という新たな価値創造へとシフトしました。DXとしての技術導入は一部分に過ぎず、サービスの本質と収益モデルを根本から変えたという点がBXの好例です。
2-2. 組織文化・マインドセットの変革
新しい仕組みを導入しても、既存の組織体制や人材のマインドセットが変わらなければ成果は出ません。現場レベルで自主的に行動し、失敗から学びながら改善を続ける組織文化の醸成が欠かせません。
実例:Domino’s Pizzaの「デジタル×顧客志向」
課題:デリバリーの遅延や顧客体験の品質が低い
変革:オンライン注文システムやアプリの導入などDXを強化すると同時に、顧客の声をスピーディーに収集し改善する仕組みを社内に根付かせた。
この結果、同社は単なるデリバリーピザから“テクノロジー企業”としての評価を得るまでに変化しました。「おいしいピザを早く届ける」というコア価値を中心に、従業員の意識を変え、組織全体で継続的な改善に取り組んだことが成功の要因です。
2-3. トップマネジメントの強いリーダーシップと全社体制
BXには時間もコストもかかるため、部分的なプロジェクトや特定部署の取り組みだけでは、組織全体を変えることは困難です。トップマネジメントが変革の旗振り役となり、部署の垣根を超えた全社的な協力体制が必要です。
実例:TOYOTAの「モビリティカンパニー」への変容
背景:自動車メーカーとしてのブランドは確立していたが、EV・自動運転などの新技術で競合が激化
変革宣言:「自動車製造会社」から「モビリティカンパニー」へ
社長自らが「クルマを作る会社ではなく、移動の価値を提供する会社に変わる」と宣言し、新たなサービス領域やパートナーシップを積極的に進めています。DXはもちろんのこと、組織文化の変化、新規事業開発への投資、オープンイノベーションなど、多角的なアプローチが融合した事例です。
3. BXの推進プロセス:具体的ステップ
BXを実践するには、どのようなプロセスで進めるべきなのでしょうか。以下の4ステップはあくまで一例ですが、組織として「何を変えたいのか」を明確化し、一貫したビジョンに向かって進むための道筋を示します。
ビジョン策定・目標設定
企業として何を目指すのか、そのために必要な変革領域はどこなのかを明確化する。
「顧客にどんな価値を提供し続けたいか」を起点にビジネスモデルを再考する。
組織体制・文化の見直し
変革を実現するためのチーム編成、ガバナンスの設計、評価制度のアップデートなどを行う。
部署間のサイロを取り払い、アジャイルに動ける仕組みづくりが重要。
テクノロジー導入・業務プロセス改革
ここでようやくDXとしてのツール導入や業務フロー改善が登場。
ただ導入するだけでなく、どのようなデータをどのプロセスで活かすのかを明確にすること。
定期的な振り返りと再構築
BXは一度変革すれば終わりではなく、継続的に改善し続ける姿勢が求められる。
KPIのモニタリングやフィードバックループを整備し、都度アップデートしていく。
4. BXを成功に導くためのキーポイント
全社的な合意形成
トップマネジメントだけでなく、中間管理職や現場スタッフも含めた合意形成が不可欠。
変革の目的やメリットを共有し、心理的安全性を担保する仕組みが重要。
人材育成・リスキリング
新しいビジネスを創出できる人材、デジタル技術に強い人材を育成・確保する。
既存社員へのリスキリング(新たなスキル習得)はもちろん、外部の専門人材との連携も視野に入れる。
アジャイルな組織運営
市場環境や顧客のニーズが劇的に変わる時代は、従来のトップダウン・長期計画だけでは対応しにくい。
小規模で実験し、顧客からのフィードバックを素早く取り入れ、改善していく「リーン・スタートアップ」の考え方が有効。
失敗を許容する文化づくり
新たなビジネスモデルを模索する段階では、必ずといっていいほど失敗が伴う。
失敗の責任追及ではなく、そこから学びを得る姿勢をチーム全体で共有することで、挑戦が生まれやすい組織が育つ。
5. まとめ:DXの先にある真の変革「BX」へ
ビジネスのデジタル化は、企業の競争力を高めるための大きな一歩です。しかし、デジタルツールの導入だけでは顧客価値や業績を抜本的に向上させることは難しくなっています。ビジネスモデルの再構築や組織文化そのものの改革を含むBX(ビジネストランスフォーメーション)が、今まさに求められているのです。
ビジネスモデルの再構築:新しい収益源の創出と顧客体験の向上
組織文化・マインドセットの変革:全社員が顧客視点で考え、イノベーションを生む土壌づくり
トップマネジメントのリーダーシップ:全社的な取り組みとして推進し、継続的に支援・評価する体制
BXは一朝一夕に達成できるものではありません。しかし、明確なビジョンを掲げ、組織全体が一丸となって「新しい企業価値の創出」を目指すことで、真の変革がはじまります。デジタルの力を最大限に活かしながら、企業そのものを再定義する“攻めの改革”へ—。これこそが、これからの激動の時代を生き抜く企業の必須戦略といえるでしょう。