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『モリー先生との火曜日』

脳転移放射線治療


乳がんからの脳転移が見つかって、その治療のためにお盆から入院しています。
放射線全脳照射10回の残すところあと3回。

照射が積もってくるに従い、ぼんやりした頭痛、ふらつき、発熱、胸焼け、食欲低下などの小さな不調はあるものの、まだダメージは小さいうちかも・・・な入院の日々。

持て余す時間

氷枕をあてがってもらって、ひたすら眠っています。大きな窓から見える景色をぼんやり見ている時間もあります。雷鳴轟く夕立や満月、積乱雲浮かぶ空、朝焼けの雲・・・。時間を持て余して、普段は手にしないような本を、病棟の本棚から個室に持ち帰って、つらつらと読んでいたりもします。

そういえば、最近、家では本が読めなかったな・・・何をしていたのかな、私・・・。なんとなく寝たり起きたりしながら何もしない日々が過ぎていったような気がします。
7月に愛犬ハルを突然亡くしてから、張り合いがなくなってしまったのか。この「脳転移」というインパクトのある単語に意欲を押し流されてしまったのか。

再読



今日、読み終えたのは、『モリー先生との火曜日』。再読でした。
同名の演劇を下北沢の本多劇場へ観にいくことになり、図書館から原作本を借りて読んだのは、もう11年前。2013年の記録にそれが残っていたので載せてみます。

[2013年の回想より] 森先生との金曜日


昨日、私は『モリー先生との火曜日』という舞台のチケットを予約しました。仕事の受注量が減り、休日をとれるあてができた去年あたりから、私のカレンダーには月に一度ほどの頻度で、早いものだと3ヶ月先の観劇やコンサート観賞の予定が、色のついたポールペンで浮き立つ筆致で書かれるようになっています。

『モリー先生との火曜日』はこの同名の小説が原作の演劇です。大学の老教授で難病のため死に瀕しているモリー役には加藤健一、16年ぶりに恩師と再会し火曜日毎の、どう死ぬかを学ぶ最後の講義を受けることになったミッチ役には加藤義宗という、父息子共演による二人芝居。

早速、図書館で原作を借りて、いっきに読み終えたところです。

原作を読んで、気づきました。なぜ、数ある舞台のなかから、どうしてもこれを、とおもったのか・・・。答えは、題名にありました。私は知らず知らずのうちに『(モリー先生→)森先生との(火曜日→)金曜日』と読み替えて、イメージを重ねていたのです。

かつて森先生は木曜と金曜日の講義のために、毎週金沢から大学のある上田まで、特急白山で往復しておられました。私は単位に関係なく出席し、研究室を訪ね続けました。金沢のご自宅を訪ねる旅も重ねました。

私が力不足なために「対話」に至らず「講義」も未消化でしたけれど、いきいきとして魅力にあふれたことばや表情は、慈雨となって沁み込み、こだましています。「森先生との金曜日」は続いています。そして終わらない宿題があります。ミッチ・アルボムがモリー先生から手渡された、人生の問いかけのような宿題が。

11年前と今の違い


病室のベッドで再読して思い出していたのは、加藤健一さんのすごい演技。だんだん体が動かなくなるALSという役柄なので、ほとんど体を動かすことなく、セリフを語り、咳き込み、笑顔を見せるその静なる激情に、私は圧倒されました。

それと、以前は、先生よりもミッチ・アルボムに感情移入した気がするのですが、今は、どちらかというと先生の心情に親しみを覚えて読んでいました。それはじぶんごととして、昨年、乳がんが再発して以来、死をリアルに思う日々が続いてきたからではないかと想像できます。死を、というか、死に向かって進んでいく過程を、日に何度も思い描いているから?

それともう一つ。かつて森先生がご病気で療養されていた頃に、金沢までお見舞いに行きたかった。もう一度、先生と呼びかけてみたかった。そして先生がどんな言葉で応えてくださるのか心に焼き付けたかった。という、思いがけないほどの激しい後悔が湧き上がってくるのでした。

もう決して叶わない望みです。

その頃の我が家は、3人目の子供が生まれたばかりで、夫が脱サラして始めた家業が日に日に忙しくなっていました。

金沢へ行きたい、森先生に会いに行かなきゃ、という望みを口にすることができなかったのです・・・。夫を納得させるための熱意と信頼がそのころの私には足りなかったのです。話す前から諦めてしまったのです。

やり遂げたのがミッチ。
やらなかったのが私です。

この『モリー先生との火曜日』と再会できたことが、今回の入院の一番の価値だったような気がしますが。
この苦さときたら、胃がしくしく痛むじゃないか。30年も前の後悔なのに。



退院後の楽しみは「イケコの音楽笑劇場」

そんな私の退院後の楽しみは、9月10日に予定しているホームコンサートです。「イケコの音楽笑劇場」はイケコさんのパフォーマンスに、ピアノとフルートが加わって、昨年のソロライブとは違うおもしろさを見せてくれるはず。

そのライブでは、私も一編の詩を朗読することになっています。
人前で表現することは不得手な私だけれど、勇気を出します。
どうしたらお客様に喜んでもらえるか・・・
思いを言葉にのせることができるか・・・。

やらなかった自分を後悔するのは、もうやめる。


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