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その一票が未来を決定する~戸田市長選挙を振り返って

私の親しい友人の一人に埼玉県戸田市在住の方がいる。戸田市というのは、東京都と荒川を挟んで隣にある市で、いわゆるベッドタウンとして発展してきた。公営ギャンブルをやる方だったら、ボートレース場でお馴染みだろう。私も何度か友人を訪ねていった際に足を運んだが、普通に生活をしていくには丁度いい場所であると感じた。

地元民でなければ知名度の低い市ではあるが、ここ数日ネットをざわつかせて(?)ある意味話題になった。それがこれだ。

記事を読んでいただければ分かる通り、過日行われた戸田市長選に「スーパークレイジー君」なる人物が突如出馬を表明。選挙が実施されることになったのだ。

見ただけでギョッとするようなネーミングの「スーパークレイジー君」だが、果たして彼は何者なのか。友人からの証言やネット記事を参考に綴っていこうと思う。

これまでの流れ①戸田市議会議員選挙

「スーパークレイジー君」が表舞台に姿を現したのは2021年の1月。戸田市議会議員選挙にて、「スーパークレイジー君」という通称で出馬したことか始まる。その前にもいくつか選挙に出ていたらしいが、名前が周知したのはこの市議会議員選挙だろう。友人曰く、彼は子供たちやその親世代をターゲットにし、子供からの認知度は確かにあったそうだ。その作戦が功を奏したのか、選挙の結果定員26人中25番目で当選を果たしたのだ。このことは全国ニュースでも取り上げられたほど話題を集めた。

これまでの流れ②居住実態疑惑~議員当選無効

こうして議員になったスーパークレイジー君だが、就任してすぐにある疑惑が浮かびあがってきた。それが、『公職選挙法において定められている、選挙区内での3か月以上の居住実態がない』ということだ。この疑惑に対し彼は記者会見にて「昨年9月末から市内のアパートに居住している。居住実態を示す電気代や水道代などの領収書も保管している」(産経ニュース, 2021年2月18日配信, https://www.sankei.com/article/20210218-HZUNSQ2UXRMZVJDKQXWU46XSBA/ より引用)と反論している。
(なお、この件については当時戸田市の選管事務局長だった人物が氏に対し不適切な態度を取ったことで懲戒処分となっている)

しかしその後選管が調査を行った結果、スーパークレイジー君が三ヶ月戸田市に居住していたことを裏付ける証拠は無く、居住の実態は無かったとして当選は無効であるという結論に至った(https://www.city.toda.saitama.jp/uploaded/attachment/45314.pdf)。この結果を不服とした彼は、訴訟を持って決着を付けようとしたが、最高裁まで争った末、当選は無効であるということが正式に確定した。

この一連の騒動を友人はどう思っていたのか、率直な意見を聞いてみた。

友人「自分は彼に投票しなかったが、やはり最初のころは物珍しさもあって注視している部分はあった。だが騒動を通じて、結局都知事選に出馬してくるイロモノたちと何も変わらないことに気づかされた。今年に入っても裁判していたことは知らず、正直彼のことはどうでもよくなっていた」

これまでの流れ③戸田市長選挙に電撃出馬

この流れからの戸田市長選電撃出馬である。これについては、彼が出馬を表明したとニュースに出た日に友人から怒りのLINEが届いていた。

友人「(スーパークレイジー君が立候補しなければ)無投票で選挙に行かなくて済んだのに立候補したせいでわざわざ選挙に行く羽目になるのはマジで腹立つ」(一部注釈 転載許可済)

先の敗訴決定の記事が出たのが3月4日。それからわずか10日も経たずに市長選に出馬するというのは、傍目から見ても彼の「意地」としか見えない。

それから一昨日まで、互いに選挙活動が行われていた。友人曰く、いつもより選挙カーの音がうるさく聞こえたり、候補者が駅に立っていたりと両陣営かなり熱が入っていたそうだ。現市長にしてみれば、知名度はあちらの方が上だから焦る気持ちもわかる。

こうして迎えた投票日。友人に投票時の様子について尋ねると、こんな答えが返ってきた。
(※時間帯によって人の出は違うので、友人の話だけで判断することは出来ないことを頭に入れてほしい)

友人「さっさと済ませたかったから朝の10時頃には投票所に着いたが、来ていたのは年配の方ばかりで、(スーパークレイジー君がターゲットにしている)若年層は少なかった」(一部注釈 転載許可済)

兎にも角にも午後8時。投票が締め切られ、開票作業に移った。そして、午後11時をまたずに選挙の結果が出た。

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結果は現職の圧倒的勝利に終わった(私からしたら、それでも2500人の人間が彼に票を投じていることに驚きだが)。友人曰く、現職の市長は朝早くから駅に立って活動報告をするなど、ずっと草の根で活動してきた方らしい。普通に考えたらそういう人がぽっと出の新人に負けるわけは無いのだが、市民からしたら気が気ではなかっただろう。スーパークレイジー君の得票数は現職の10分の1にも満たず、供託金も没収となった。一夜明けて、友人に今回の選挙について一言感想を貰った。

友人「午後10時半に結果を見て、まずはホッとした。曲がりにも市政を担っていくのであればそれなりの覚悟が必要だが、彼(スーパークレイジー君)の選挙の公約が書かれた記事のところに『4月から大学生になる』と書いてあるのをみて、彼の政治に対する向き合い方の程度が知れた。公約も漠然としていて具体性を感じなかった」

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雑感①:「イロモノ」が政治を担うことの危険性

今回の一連の流れで感じたことは、まず今回の選挙は戸田市民の良識の勝利であるということ、そして二つ目はいわゆる「イロモノ」が政治を担うことの危険性だ。

お堅い政治の世界において、一人異質な存在を放つ人間がいれば否応なしにその人に注目が集まる。興味本位で投票する人もいるだろう。だがよく考えてほしい。本当にその人間が我々のためにより良い政治をしてくれるのだろうか?単なるパフォーマンスで終わっていないだろうか?

今から90年前の1932年、ドイツにおいて大統領選挙が開催された。現職のヒンデンブルクと新人4名との対決だ。その中の候補者の一人が、自身の選挙のスローガンに『ヒンデンブルクに敬意を』という文句を打ち出した。曲がりにも現職を蹴落とそうとする大統領選挙において、その対立候補者をたてる姿勢は現代から見ても中々異質だ。さらにその候補者は当時最先端のメディアだったラジオで国民に猛アピールをした。その結果、ヒンデンブルク(得票率53.1%)に次いで2番目の票を獲得し(得票率36.7%)、自身が所属する政党も第一党に躍り出た。その後、ヒンデンブルク大統領の下で首相となったその男は「全権委任法」を成立させ事実上の実権を把握。大統領死去後は「総統」としてドイツを支配していくこととなる。男はその後、第二次世界大戦、そしてアウシュビッツ強制収容所をはじめとするユダヤ人虐殺に着手していくこととなる。男の名前は、アドルフ・ヒトラーだ。

ヒトラーが現代に蘇るという内容で話題になった「帰ってきたヒトラー」。その中で、収容所の生き残りのお婆さんがヒトラーについてこういうことを言う。

「みんな最初は(ヒトラーのことを)笑っていたんだよ」
「お前は本当に恐ろしいよ」

人々から面白がられ、熱狂的な支持を集めドイツの総統となったヒトラー。「イロモノ」が政治の実権を握ったらどうなるのか。彼は決して過去の人物ではない。

2016年にアメリカ大統領となったドナルド・トランプ。彼もまた過激な発言でメディアの注目を浴び、そして当選した。彼の政治がどんなものであったか。都合の悪いことは全て「フェイクニュース」と言い、支持層と非支持層の対立で国内は分断した。そして、2020年の大統領選挙で「不正があった」と言うトランプの主張を真に受けた信者たちが起こした議事堂襲撃事件は大きな禍根を残した。トランプ政権下で広がった『分断』はバイデン政権となった今も埋まっておらず、コロナによる陰謀論などでさらに溝は深まるばかりである。「イロモノ」であったトランプを当選させたツケは、現在も我々に重くのしかかっている。

雑感②:政治家としての器

市議会議員選挙の際、スーパークレイジー君の過去の経歴もまた注目されることの一つだった。父親は元暴力団員であり、自身も10代の頃は暴走族でこれまでに5回少年院に入っていたというのだ。これについては自身もTwitterのプロフィールで「過去はごめんなさい」「変えられませんがこれからの新しいスーパークレイジー君を宜しくお願い致します」と書いている。

これについてとやかくは言うまい。代わりに、『こち亀』の両津勘吉の金言を貼っておく。私の言いたいことが、このコマに全て詰まっている。

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そして私は、最初から真面目に誠実に過ごしてきた人々に、日本の政治を任せたい。

終わりに

選挙が終わって一夜が経った。スーパークレイジー君は今後も戸田を拠点に活動していき、夏の参院選にも出馬の意欲を示しているという。もはやそこからは、何が何でも議員になりたいという「執念」しか感じない。最後に、この記事を執筆するにあたって協力してくれた友人からの言葉を持って結びにしたいと思う。

「議員になりたいのであれば、戸田ではなくどこか別の市から出馬することを切に願う。たまたま立候補した場所で一旦は議員になれたから、味を占めて戸田に固執しているのかもしれないが、ずっと住んでいる市民からしたら迷惑でしかない。今回の選挙をスポーツ紙などが面白おかしく書き立てていたが、実際に住んでいるのは私たちだ。私たちの暮らしを、自身の承認欲求を満たすための道具にするな」

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