見出し画像

今年の邦画ナンバー1は「碁盤斬り」だよねって話。




はじめに


日本初の本格的な劇映画は、1908年にマキノ省三監督によって作られた「本能寺合戦」とされる。タイトルの通り、本能寺の変をテーマにした時代劇だ。日本の本格的な映画の歴史は、時代劇と共に始まったと言っても過言ではないだろう。

それから百年以上経った。映画における時代劇はいまや風前の灯火である。2023年に公開された日本映画676本のうち、時代劇はわずか8作品しかなかった。時代劇はテレビでは大河ドラマや、大奥などがまだ作られているが、相対的に考えると新規で作られる作品は減っていると言わざるを得ない。もはや、時代劇は過去の産物なのだろうか─。

しかし、2024年。そんな危機的状況にある時代劇を救うかもしれない傑作映画が公開された。それが、5月17日より全国映画館で公開中の「碁盤斬り」である。すでに作品を見てきた自分が、「碁盤斬り」の魅力を出来る限りここに書き記すので、これを読んだあなたは今すぐ映画館で「碁盤斬り」を見てください。

監督:白石和彌×主演:草彅剛による強力タッグが実現!

映画「碁盤斬り」は落語「柳田格之進」のベースに、とある冤罪事件で親娘が引き裂かれた浪人、格之進が復讐のため立ち上がるという内容である。
この「碁盤斬り」の監督を務めたのが、白石和彌。「孤狼の血」で日本アカデミー賞優秀監督賞を受賞するなど、今の邦画界を担う監督の一人である。今作は白石にとって「死刑にいたる病」以来となる新作映画だ。
そして主演を務めるのが、国民的スターの草彅剛。若い頃から「僕の生きる道」を始めとする「僕」シリーズや、「任侠ヘルパー」などで存在感を放っていたが、2020年に公開された映画「ミッドナイトスワン」で、ブルーリボン賞主演男優賞・日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞。ジャニーズ事務所を退所して逆境の中、まさに実力で勝ち取った賞となった。
近年は主演だけでなく助演として、大河ドラマ「青天を衝け」(2021)の徳川慶喜、映画「SABAKAN」(2022)の主人公の少年の大人時代、朝ドラ「ブギウギ」(2023~2024)で主人公福来スズ子を支える作曲家羽鳥善一役を好演。「青天を衝け」の徳川慶喜役は、これまでの慶喜像をひっくり返す名演技としてギャラクシー賞を受賞しており、まさに役者として脂が乗りまくっていると言って過言ではない。

そんな草彅の「ミッドナイトスワン」以来4年ぶりとなる主演映画「碁盤斬り」。白石監督とのタッグとあれば注目しない理由がない。しかし、先ほども述べたように映画としての時代劇は昔に比べ作られなくなってきている。Filmarksを見ても、同日公開の「ミッシング」と比べてもクリップ数が少ない。時代劇を見る人口が減ってきていることの表れか。

しかし今作は「時代劇だから」という理由でスルーするにはあまりにも勿体無さすぎる。というわけで、「碁盤斬り」の魅力をネタバレ無しで語っていくことにする。

魅力1:まさに必見!本格時代劇

今作は京都の松竹・東映の撮影所で撮影が行われており、スタッフも京都のプロフェッショナルたちが集まったという。そのおかげもあって、頭から終わりまで、まさに江戸時代の江戸の空気というものを味わうことが出来る。人々が行きかう江戸の町、吉原、宿場町……。すべての場所が現代から離れた江戸の世であり、映画館で座って見ていれば現実から離れてまるでタイムスリップしたかのような気分になる。
映画のセットもこだわったようで、吉原の大橋のセットは70年代に公開された時代劇映画「緋牡丹博徒 お竜参上」で実際に使われたセットの図面をもとに作ったとのこと。監督の時代劇に対する熱意が伝わってくる。

そして「光量」にも注目して頂きたい。今みたいに電灯が無かった時代。夜になれば辺り一面真っ暗になった。格之進と因縁の相手柴田兵庫との囲碁のシーンでも、夜の場面では行燈がともされるが、その光量は少なく感じる。しかしそれが江戸時代の「夜」を表しており、今作が時代劇映画として丁寧に作られていることの現れであるのだ。

魅力2:豪華俳優陣による名演の数々

主人公の格之進を演じた草彅をはじめ、共演者たちの演技が素晴らしい。まず、格之進の一人娘お絹を演じた清原果耶。武家の娘でありながら格之進を支える凛とした女性、それでいて晴れの着物を着た時の麗しさはスクリーンにとても映えるまさに銀幕の女優である。
萬屋の弥吉を演じたのは中川大志。ある意味今作のキーパーソンであり、一歩間違えればうっかり八兵衛ポジションにも成りかねない役どころだが、上手い塩梅に演じているため見ていても決してヘイトを集めることを避けている。どういうことかよく分からない方は、今すぐ映画館へ走って確認しよう。
格之進の碁敵となる萬屋の源兵衛には國村準。最初は好かん奴で登場した源兵衛が、格之進と交流することで徐々にその心境に変化が出始める。この心の移り変わりの様子はまさにベテラン俳優の為せる業である。
吉原の女ボスお庚は小泉今日子。格之進と旧知の仲でお絹にも優しく接する一方、吉原のことに関しては容赦しない裏の顔を持ち合わせる二面性を持つ。吉原で酸いも甘いも経験したであろう女を好演している。
出番は少なめなものの、格之進の忠臣である左門を演じた奥野瑛太と、碁会所のドンである長兵衛役の市村正親。わずかなシーンでもその確かな演技力とその存在感は特筆すべきである。
そして格之進の因縁の相手である柴田兵庫を演じたのが斎藤工。兵庫はただの悪役かと思いきや、実は一筋縄にはいかない人物。格之進との殺陣シーンをはじめ、二人の対峙はここでは書くのも野暮に思われるので是非とも映画館で味わってほしい。

魅力3:ノー知識でも問題なしの囲碁シーン

タイトル「碁盤斬り」でもあるように、今作の一つのテーマでもあるのが囲碁。自分もそうだが、そこまで囲碁の知識は持っていない人が多いのではないか。今はネットで調べれば少しはルールをかじることも出来るが、それでも盤面の情報までは読み取れないだろう。
しかし、そんな囲碁の知識ゼロでも今作は楽しめるのである。序盤にとある囲碁の手が解説されるのだが、序盤でわざわざその手を解説するということは、後半でその手が重要なカギとなってくることは想像が出来るし、囲碁の局面に関してもモブキャラが逐一解説してくれるので、今どういう状況かは把握することが出来る。そして、碁石の置き方ひとつでそのキャラクターの性格というものが分かってくる。例えば格之進は一手一手丁寧に碁石を置いていくが、柴田兵庫は荒々しく大きな音を立てて碁石を置いていく。こういった置き方ひとつで、そのキャラクターがどういう人物かを見てる側にも伝えているのだ。もちろん、ルールを知っているに越したことはないので、最低限の知識は入れておいても良いかもしれない。

まとめ

つらつらと「碁盤斬り」の魅力についてネタバレ無しで描けるところを書きなぐってきたが、こんな駄文を読んでいるよりも映画館に行ってスクリーンで鑑賞したほうが良い。今作は白石和彌監督作の中で悪人らしい悪役が一人も出てこない(敵役の柴田兵庫でさえ)作品であり、G指定の全年齢対象作品であるため、グロ要素も他作品と比べると少ないため、初めての白石作品として見るのにも良いかもしれない。

そして、今作は間違いなく賞レースを席巻するだろう。これでどの映画賞にもノミネートされませんでした、なんてことになったら日本の映画賞は終わりである。草彅は間違いなくもう一度主演男優賞を狙えるだろうし、映画も最優秀作品賞を十分狙える。自分はそれどころか、本家アカデミー賞でもノミネートに値すると本気で考えている。ドラマ『SHOGUN』の影響もあって日本の時代劇が世界から熱い視線を浴びている今だからこそ、時代劇の復権を高らかに宣言できる「碁盤斬り」を是非とも劇場で見てほしい。
これが、令和の時代劇の名作だ!

碁盤斬りスポット
https://youtu.be/6jCAZuCAyfs?si=DMe1MItR81rMscec


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?