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糖尿病と闘う国、シンガポール

日本人がシンガポールに移住して面食らうのが、飲み物の甘さ、という話はよく聞く。缶入りの緑茶やジャスミン茶を買って飲んだらあまりの甘さに吹き出したーということもしばしばで、とにかくやたらと甘味過剰である。シンガポール人のソウルフードもといソウルドリンクの1つに、コピ(Kopi)がある。練乳と砂糖をこれでもかと投入したコーヒーだ。千葉県民にはお馴染みのマックスコーヒーをイメージして頂けると、近いものがある。以下の記事内の動画によれば、成人の砂糖の標準摂取量が1日11杯tbs(Table Spoon)に対して、Kopi一杯100ccちょっとで4.5杯なのだから、いかに甘いか窺い知れる。

前段が長くなったが、シンガポールは平均寿命が80歳を超える長寿国でありながら、糖尿病罹患率が非常に高いことが問題になっている。そこでNational Day Rallyと呼ばれる、8月の建国記念日(正確には建国ではないが)の前後に行われる政治集会での首相演説において、「健康的な生活のススメ」が異例とも言える、かなり踏み込んだ形で言及された。

Lee Hsien Loong首相はスピーチの中で非常に具体的に、(これは大衆を意識してか)どのような生活を送るべきか例を挙げて説明した。例えば、「白パンでなく、全粒粉のパンを。お茶は砂糖なしで」といったようにだ。

どのパンを食べるか、お茶に砂糖を入れるか、などは個人の嗜好の範疇であって、他人にとかく言われる筋合いでは無いような気もするが、60歳以上の人口のうち、1/3が糖尿病患者である惨状を見れば、首相が親のように生活習慣にまで口出しせざるを得ない状況なのかもしれない。

そして槍玉に挙げられたのが、清涼飲料水。今回新たに、2020年より、砂糖の含有量を12%未満に制限するという規制の導入を発表。ーといっても、主要な市販の清涼飲料水はこの規制をクリアしているので、飲料メーカーへの影響は限定的と考えられる。有名どころで引っかかるのはA&Wルートビアくらい。コカコーラ(クラシック)はギリギリセーフ。しかし、前述のコピのようなレストランやカフェで提供されるドリンクは規制の対象外であるのと、そもそも12%という基準が緩すぎる、砂糖含有率を規制しても、代わりに飲む量が多かったら何も意味が無い、というように、その実効性は余り高く無さそうだ。

肥満・生活習慣病抑止のために、メキシコやブルネイでは砂糖税が導入されていることも関連記事内で言及されているが、ソフトドリンクの売り上げは落ちれど、健康増進には寄与していないのが実態のようだ。デンマークでは「ソフトドリンク税」という、より直截的なアプローチだが、こちらも税収は上がれど、逆に外国で購入した闇ソフトドリンクの消費が増えるなど本来の狙いは果たせていない。(そもそも100円そこそこの飲み物が、110円、120円になっても、飲みたい人は飲むだろう)

こうしたコントロールの難しさは、シンガポール政府自身も自覚しているようであり、そこで打ち出されたのは、糖尿病予防の解決策を一般人から公募するというのだ("Crowdsource")

これに一般紙最大手のStraits Timesも乗じて、読者の「戦略」をシェアするためのコラムを紙面に新設するとか。

シェアリングエコノミーが勃興する中で、今度は政策もシェアする時代かと思うと感慨深いが、エリート集団のシンガポール政府が民間の知恵を公に請うというあたり、その柔軟性には感心する。

生活習慣の結果として健康を損なうのは自己責任と言えなくもないが、それが原因で社会保障負担を増やされることを良しとしないのがシンガポールという国。公共の福祉に対する考え方の違いを強く感じさせる。

最後にLee Hsien Loong首相は、スピーチの中で、「もしチェンドルがデザートに出されてしまったら、お手上げだ。私もちょっとは食べるだろう」と述べた。チェンドルとは冷たいココナッツミルクの中に緑色のもちもちしたゼリーが入ったローカルスイーツで、これもまたシンガポール人は好んでよく食べる。そしてめちゃくちゃ甘い。厳しいことを伝えつつも、国民に対して一個人としての親しみを感じさせることも忘れない、巧いトークだなと膝を打った。


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