悪貨が良貨を駆逐する

グレシャムの法則

「悪貨が良貨を駆逐する」という言葉は、「悪いお金が良いお金を追い出す(Bad money drives out good)」という意味である。この言葉は、16世紀に英国の金融業者兼事業家だったトーマス・グレシャム(Thomas Gresham)が言った言葉で、「グレシャムの法則(Gresham's law)」と呼ばれることもある。

良貨は消え、不良貨幣だけが残る

16世紀、英国王ヘンリー8世は、親から受け継いだ莫大な遺産を使い果たし、財政難を回避しようと、当時使用されていた貨幣に含まれる金や銀の含有量を減らした不良貨幣、すなわち悪貨を乱発した。すると国民は、より多くの購買力を確保しようと、本物の金・銀貨を溶かし、より多くの「悪貨」に変えた。結局、市中では本物の金・銀貨、つまり良貨は消え、不良貨幣だけが使用される事態が発生してしまった。

すると、王室の財政顧問だったグレシャムは、ヘンリー8世の後継者であるエリザベス1世に手紙を送り、「悪貨が良貨を駆逐する」と言って、悪貨削除を要請した。この言葉を聞いたエリザベス女王は、即位3年目の1561年、ついに悪貨を回収し、新たなお金を作ることを明らかにしたが、100年が過ぎ、名誉革命後に登場した市民政府の時になってはじめて、イングランド銀行の貨幣改革を通じて悪貨を退出させることができた(1696年の大鋳造、Great Recoinage)。

ところで、悪貨が良貨を駆逐するという言葉は、トーマス・グレシャムより地動説を主張していた天文学者「コペルニクス(Nicolaus Copernicus)」が先に言及した。コペルニクスはグレシャムよりもはるかに先立って1517年に発行した「貨幣論」で「低質貨幣が流通すると、金細工業者は良質の古い貨幣から金や銀を溶かし出し、無知な大衆に売るだろう。新しい劣等貨幣が古い良貨を追い出すために導入される」と述べた。それなのに、この言葉が「グレシャムの法則」と呼ばれるようになったのは、ヘンリー・マクラウド(Henry Macleod)という英国の経済学者が1858年に良貨駆逐現象の最初の発見者がグレシャムだと主張したことがそのまま固定したからである。だから東欧では、グレシャムの法則を「コペルニクスの法則」と呼ぶ。

グレシャムの法則の例

実際、今日、グレシャムの法則は、判断の誤りや情報流通の誤りによって質が落ちる政策や製品が、良質のものを圧倒する社会病理現象を説明する際に多く援用されている。たとえば、中古車市場で中古車の購入者が、うわべだけ異常がない中古車(lemon)を騙されて高値で購入し、その後、市場に良質の売り物は消え、低品質の中古車だけが残る場合が、グレシャムの法則が適用される典型的な例だと言える。

より分かりやすい例として、ケチが新しいものがもったいなくて新しいものを使わず、いつも古いものばかり使うこと、古米と新米を簡単に区別することができないという事実を利用して、過去に収穫した古米を新米に偽装して販売すること、人々がぱりっとした新札よりボロボロの旧札を先に使うこと、正規品のソフトウェアよりも複製プログラムがもっと流通する現象、嘱託と身内びいきが盛んに行われている企業ほど、無能で処世術に長けた人ばかり残ることなど、これらすべての現象がグレシャムの法則だと言うことができる。

果たしてグレシャムの法則が正常なのか

では、果たしてグレシャムの法則が正常なのだろうか。決して正常ではない。もしグレシャムの法則が続けば、我々の社会は真実ではなく偽りが幅を利かせる社会、本物よりも偽物があふれる社会、非正常を正常と言い張って不義が正義と美化される社会に転落してしまうだろう。インターネットにはあらゆる誹謗中傷や低質な記事があふれているし、過去、イスラエルのアハブが、異邦の女イゼベルの影響を受けてバアル宗教に帰属し、神様を迫害したように、この時代の真理を見分けられない社会になる可能性もある。

鄭明析牧師は、悪と善が共存すると、結局、善が滅びるとおっしゃった。きれいな水と泥水を混ぜると、きれいな水だけが汚れるものだ。自分の生活の中で善を追い出す悪が何なのか深く考え、個人の生活だけでなく、この社会が悪貨ではなく良貨で満ち溢れる社会になるべきだろう。悪貨が良貨を駆逐するのではなく、良貨が悪貨を駆逐する秘訣は、自分の中の悪と善を裂き、この社会を真理と愛という良貨で満たすことである。そうすることで、聖書で預言された、サタンが千年のあいだ底知れぬ所に閉じ込められる世界になることを祈る。

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