デザイン思考ブーム終焉の先にあるもの: クロスチームとチャレンジド・デザイナー®︎の可能性
デザイン思考ブーム終焉の先にあるもの:
クロスチームとチャレンジド・デザイナー®︎の可能性
はじめに
ここ数年、日本のビジネスシーンをにぎわせてきた「デザイン思考」が、いよいよ「ブーム」としては終わりを告げつつあります。IDEOやスタンフォード大学d.schoolなど海外の事例を紹介しながら、私たちはまるで“ユニバーサルキー”でも手に入れたかのように「デザイン思考」を扱ってきました。しかしその一方で、数多くの企業が導入したにもかかわらず、その成果は当初の期待ほどには実を結んでいないという現実も見えてきます。
たしかに、ブームが去ることは往々にしてネガティブに捉えられがちです。ですが、私は、ブームの終焉はむしろ本質に立ち戻る絶好のチャンス だと考えています。言い換えれば、「消費される言葉」としてのデザイン思考が一通りの役目を終え、いまこそ “次なる段階” に進む機運が生まれています。
「デザイン思考の本質」とは何だったのか
そもそもデザイン思考とは、誰がどこで必要としてきたアプローチなのでしょう。ビジネスにおける新たな価値創造、あるいは顧客体験の革新にとって「デザインの力」を使いこなすことの重要性は、決して消えるものではありません。むしろ、予測困難な時代にあってこそ人間の非合理的な部分を理解し、新たな意味やストーリーを作る力 が求められています。
にもかかわらず「デザイン思考」が"うまく働かなかった”とされる原因は、往々にして組織文化やマネジメントの問題に行き当たります。たとえば、企業内で催されるワークショップが一過性のイベントで終わり、社内の業務プロセスや評価軸に何ひとつ影響を与えない。これでは、どんなに優れた発想法も根付かないでしょう。
言い換えれば、方法論やテンプレートを導入しても、そこにある「思想」や「哲学」を十分に消化できなければ、デザイン思考はブームの産物として消費されるだけ ということです。
「デザイン経営」と非合理性の受け入れ
また「デザイン経営」という言葉も広く流通しています。ここで語られているのは、デザインを“意匠”として捉えるのではなく、“人間の感性や情緒性を活かす経営手法”として取り込む という発想です。
現代のビジネスは、論理やデータだけで最適化を追求することが価値創造のすべてではありません。市場を動かす大きな力は、人間が非合理的であるがゆえに持ち合わせる 欲望、共感、美意識、ストーリー といったものです。そして、それらを戦略的に扱える組織こそが「デザイン経営」の恩恵を受ける でしょう。
*経済産業庁のデザイン経営宣言のPDF版はこちらから。
*デザイン経営については特許庁も推奨しています。詳しくはこちらから。
しかし、たとえば「デザイナーを経営トップに迎える」というだけでは足りません。むしろ重要なのは、ビジネスを成長させるために以下に多様な視点を組織全体に組み込み続けるか という点です。実はここに、ブームを超えて“デザインの力”を活かし続けるカギがあります。
多様性とは可能性の追求でありデザインの源泉:クロスチームとチャレンジド・デザイナー®︎
この「成長のために多様な視点を活かす」という観点で注目していただきたいのが、クロスチームとチャレンジド・デザイナー®︎の取り組みです。たとえば「障がい者雇用」や「社会貢献」という枠組みで語られがちな領域を、あえてビジネス価値の創造へつなげてしまう。さらにデザインのプロセスへ深く入り込み、企業と一緒に新しい商材やサービス開発を行っている -それは、かつてIDEOが“外部の専門性”を企業に持ち込むことで世界的なイノベーションを生んだ構図にも重なります。
クロスチームとチャレンジド・デザイナー®︎の実例で言えば、ANAの機内ノベルティを地域の障がい者の方とのワークショップから誕生させ、それに対して適切な対価を支払う仕組みを確立しています。ここで重要なのは、単に「社会貢献で作っていただきました」ではなく、それを“実際のビジネスプロセスと統合している” ということ。ワークショップという場から生まれるアートやアイデアが「意味のある製品」として落とし込まれ、企業価値やブランド体験を拡張する役割を果たしています。
*事例はこちらのANA Future Promisのサイトからどうぞ。
「意味をつくる」から「価値を生む仕組みをつくる」へ
私は、デザインの本質を「意味を作ること」にあると捉えています。そして、この「意味」を顧客が使える形にして市場に届ける ことが、イノベーションとしてのデザインの役割です。
しかし、同時に、「意味」それ自体は往々にして曖昧で直感的な領域にあります。つまり、論理的な分析や既存のデータからは発見しにくい。だからこそ、多様な視点を持つ人たちが集まる 意味の再解釈の場が必要になります。
クロスチームとチャレンジド・デザイナー®︎の事例が示唆しているのは、「ビジネスの成長を考えた時に見落としていた視点こそが、新しい価値創造の原動力になりうる」 ということです。彼らが生み出すアートやデザインは、その背景に「私たちが普段見落としている感性」や「違う角度から捉える社会観」が凝縮されている。そこに企業が顧客創造の観点で意味を見出すことで、従来のアイデアや発想法からは生まれなかったような斬新なプロダクトやサービスが形作られます。
ブームの先にある「本当に必要なこと」
デザイン思考のブームが静まった今、私たちは “やりやすいところだけ切り取る” やり方に、ある種の限界を感じ始めています。実際、企業内部でのワークショップだけで新たな市場を切り拓くのは、ほとんどの場合そう簡単ではない。なぜならイノベーションの種は「企業外部」や「周辺領域」にこそ転がっているからです。
そこで、クロスチームとチャレンジド・デザイナー®︎の活動が非常に示唆的に思えます。彼らは、ビジネスと社会福祉・文化支援のあいだに横たわる溝を越えて、実際に価値を生み出す“仕組み”を構築しつつある。これはまさにデザイン思考が目指していた「人間中心の価値創造」を、より広い範囲で体現していると言えるでしょう。
終わりに:再び「デザイン」を問い直すとき
「デザイン思考ブームの終焉」は、残念なことかもしれまえん。しかし、広く議論が尽くされることは大いなるチャンスです。私たちは今、「方法論」から「哲学」へ 、そして 「自社内のワークショップ」から「社会全体を巻き込む共創」へ と視野を広げるタイミングに来ています。
デザインとは「かたちの工夫」ではなく、「意味を創造し、それを使える形に翻訳する」行為です。そしてその“意味”は、私たちが無意識に排除していた領域、たとえば障がい者やシニア、子ども、あるいはまったく異なる文化を持つ人々の視点にこそ潜んでいる場合が多い。クロスチームとチャレンジド・デザイナー®︎が手がけるプロジェクトは、そのことを端的に証明しています。
デザインの本質が問われる次のフェーズでは、こうした多様性の力を活かし、「どのように意味を生み、価値へ変換していくのか?」を再度真剣に考えなければなりません。
デザイン思考が一つの“ブーム”として形骸化してしまうのではなく、多様な人々と共に新たな価値を育てていく“社会の営み”として定着させる。それこそが、これからの時代における「デザイン」の重要な仕事であり、ブームの終焉を超えた先に私たちが目指すべき一つの姿だと私は考えています。
クロスチームとチャレンジド・デザイナーの挑戦に引き続き注目をお願いします。
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