夜のウエスタンウォール

夜のウエスタンウォールを眺める。少し高くなっている道の上から全景を覗く。あたりは暗く、その中でライトアップされ浮き立つ壁、ほのかに月明かりを浴びている。その壁の前には立つ人、グループでいる人たち、観光客と思しき人たち。昼間と比べ人も少なく気温もぐっと下がり気持ちも心なしか凛とする。昼間とは違うしっとりとした思い、女々しいというしっとり感ではなくその水分でじっと固められた思いだ。

近づいてみよう。昼間と変わらないセキュリティチェックを受け、壁の前の広場に降り立つ。人の数はやはり目に見えて少ない。壁を遮る衝立から壁の方を見ると団体で来ている人たちは何やら踊っている。通りかかりの全身黒ずくめのオーソドックスなユダヤ人に聞いてみる。

あの人たちは何をしているの?踊っているの?

あー、あれはね喜びを表しているんだよ。僕も子供のころやったよ。

と目を細めながら優しい表情で踊っている若者の団体を見ている。子供のころ踊っていたことを思い出し、その頃の国や民族の状況、そして受け継いで受け継いで自分の代になりそして子供の代になり、今それを見ている自分、約束の地であるイスラエルの発展、そんなことを考えているのかもしれない。

知ってるかい?この壁はね、お城の一部だったんだ。

そうやってユダヤ人の歴史やこの壁、この地への思いを吐露する。

僕の祖父はヨーロッパに住んで居たんだよ。戦後の辛い状況で約束の地に戻ろうってこの地に戻ってきて結婚して今、僕はここにいるんだよ。それにしても懐かしいよ。喜びを踊りで表現するのがユダヤ人なんだよ。それじゃあね。楽しんで。

ありがとう。

彼は優しく微笑んで去っていった。

壁に近づいてみよう。喜びの踊りを近くで見てみよう。

彼らは歌い踊っていた。手拍子とともにジャンプし踊り歌う。かと思えば、肩を組み円陣を組み左右に揺れ歌う。ヘブライ語の歌なので歌詞の意味はわからなかったが、耳に心地良く、そのリズム、喜びの踊りは見るものを魅了していた。喜びのエネルギーは頬を撫でる風をより心地よくしていた。

わたしは演劇でも観ているかのように集中し眺めていた。気がつくと30分も経過していた。

壁に向かう。手をそっと触れると昼間とは違いひんやりとしている。目をつぶりこの地のことを思う。みんなが愛しているこの地は未だ血が流れている。わたしには理解し難い事情があるのもわかるのだが、これだけの愛が溢れるこの地にこれ以上血が流れないように、ともう一度祈ることにする。

あなたがサポートしてくれた分を同じだけ上乗せしてパレスチナのジェニン難民キャンプで使います!!もしジェニンをサポートしたいと思ってくださった方はこちらへ< https://thefreedomtheatre.org/donate/ >