『ほどけた才覚』
『ほどけた才覚』No.067
私は、崩れかけのブロック塀の裏に身を潜めた
一呼吸置き、五感をフルに働かせる
耳を澄ませ、注意深く視線を運ぶ
工事現場の看板、不法投棄の車、ドラム缶の裏に一人ずつ隠れていた
まだ誰も捕まってないわね…
私には何故か、人より物事を察知する能力が在った
状況を常に分析し、最善の行動をとる
でもその力を発揮し過ぎると、みんな私を怖がり離れてゆく
今回も、そうはなりたくない…
そんな思いの中、メールの着信音が鳴り響く
慌てて音を止め、全ての身体の動きを一瞬で封じた
心臓の鼓動が緩やかになるまで、暫く呼吸を整える
再び感覚を研ぎ澄ませ、辺りを見渡し、警戒する
大丈夫、こっちの居場所はバレていないわ…
念のため近くの塀へと素早く移動した
周りの安全を確かめ、メールを開く
“明日の夜、急遽PTA会議が入っ…”
大人っていっつもそうよね…
そんな言葉が頭の中を駆け巡る
陽射しを浴びてもなんだか肌寒い
出来ない約束だったら最初からしないで欲しい
聞こえる音は、さっきとは違う心臓の鼓動
期待させて裏切るって、そんな簡単に出来ること?
徐々に苛立ちを覚え、感情が込み上げる
返信画面を開くが、浮かぶ言葉がなかなか文字に変換してくれない
うつむきながら画面を見ていると、視線の先にぼんやり解けた靴ひもが見える
溜息をつきながらしゃがみ込んだ
その時、大型の影が地面に映る
ひもを持つ手と身体が動かない…
その影は瞬く間に消え去った
得意な感覚は全く働かず、私は、最初に捕まった…
皆さまからのお心遣い、ありがたく頂戴します。 そんなあなたは、今日もひときわ素敵です☆