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『ブックカバーに包まれた世界』

『ブックカバーに包まれた世界』 No.058

梅雨の晴れ間、私は孫を連れて近所の公園へ
孫は大好きな砂場へ一目散
木の陰が揺れる青いベンチに腰掛ける
私は数年前に夫を失い、息子は妻を…
孫との時間が私にとってかけがえのない喜び
公園には私たち以外ハンチングを被った初老の男性が一人
少し離れたベンチで読書をしている
時間を持て余した年金暮らしという雰囲気はない
凛とした佇まいに自然と引き付けられた
男性は視線を受け入れるかのように微笑みを返す
見惚れていたことを悟られないよう会釈で切り抜ける
より一層暑さを感じて、持ってきた冷凍みかんで火照りを鎮めた
すると孫が肘のあたりを抑えながら口を尖らせて歩いてくる
何処かで擦りむいたのか、少し血が出ていた
急いで鞄を探したが、今日に限ってタオルやティッシュも入っていない
気付くと一つの陰から白いハンカチが差し出される
咄嗟に断るも、その男性は孫の肘を見て傷を拭った
孫は小さな鞄から取り出した飴を受け取り、お礼を言う
もらった飴をパクっと口に入れ、トランポリンのように跳ねながら砂場へと戻っていく
私も続いてお礼を言おうとした時、携帯電話が鳴った
男性は苦笑いを浮かべながら電話を受ける
話しながら公園の外へゆっくりと歩いていき、そのまま車に乗って去っていった…

家に帰り、いつもの様に日本茶を入れた
さっきの男性がベンチに置き忘れた本をぼんやりと眺める
ブックカバーに包まれた世界に心が揺らめく…
ふと湯呑を見ると茶柱が2本立っている
年甲斐もなく、アレの兆し…?
じっくりと私の顔を覗き込み、不思議そうな顔で孫がポツリ
“おばあちゃん、なんだか楽しそうね~”
ニッコリと笑いかけ、あなたにももう直ぐわかるわよ、そう心で呟いた…


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