【連載小説】地獄の桜 第六話
そんな、ブルージーで孤独な一人暮らしの朝というものを暫くは味わっていたのだった。
でも、そんな孤独を味わいながらも、僕は未練がましくパソコンを起動させるのだった、小説の続きとやらを投稿するために。
いまさら何を、と心の半分では思っていた。ここまで書いたところで読者なんて馬鹿馬鹿しくなってしまって、一人も振り向いてくれないだろうということは重々承知していたが、それでも僕は自らの性から逃れられずに、こうやってパソコンを起動させるのだ。ブラウザを開くのだ。某小説投稿サイトを開くのだ。更新情報のランプみたいのを消すために、一応はその更新された情報とやらを見るが、何? 『メッセージ』がフォローされました?
はっきり言って、僕はこの類のサイトに文章を載せる身としては、異常とまで言えるほどに、筆が遅い。「筆が遅い」なんて、時代遅れな物言いか、まあ要するに、執筆速度が人気アマチュア作家のそれとは比べ物にならない位、遅い、という訳だ。
それもそのはず、平日の五日間、人がいるのかいないのか分からないような職場の中で、何もかも請負いながら、息つく間もない、みたいな感じで、一日一日を雑務のうちに浪費し、心身をすり減らしてきたのだから、まあそれもいよいよ今日もまた行くことにしている「例のあの場所」に行くための資金を稼ぐためだ、と割り切ってはいるのだが、とはいえ部屋の中にたった二人、ほぼ無言で顔を突き合わせてパソコンを殴打しながら、ありとあらゆる案件の納期を間に合わせようと躍起になっている姿は、きっと、他の人が覗けばイノシシが化けてサラリーマンのふりをしているようにすら見えるに違いなく、またそんな状況では、どれだけ這いつくばってこなしても残業は免れ得ず、有給も溜め込むわ、業者には怒られ急かされるわで、そして家に帰っても布団に倒れこむことしかできないわで、何をする時間もない。
結果として、「物書きが趣味です」なんていくら嘯いてみても、平日の小説投稿の更新はピタリと止まり、「小説を書く予定はありますか」と、ネットをうろつけば言われる始末で、そうしてようやっと土曜日に小説を嫌々書く、こんな毎日に読者の中々つくはずもなく。
そんな中、僕のこの日常と見わけもつかないほどに酷似していながらも、タイトルだけは威勢よく、『メッセージ』だなんていう僕の投稿小説が、また新たな読者によってフォローされたのだという。え? 嘘だろ? ……でもなんか嬉しい。
小説家冥利に尽きるな、なんて内容のないことを思ったりして、僕は急に嬉々としてここ一週間の自分の顛末を思い返したりしながらそれをモデルにしたしょうもない小説の続きを投稿するのだった。
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