【連載小説】地獄の桜 第二話
というのも、『バタンッ』と書いたときはまだ部屋の時計は午後七時を回ったばかりで、実際寝るには早すぎたからだ。それにまだメインディッシュにもありつけていない。
仕方ないなあ、と思いながら、僕は物憂げな体を動かして、その支度を少しずつ始めた。食事の支度を。といっても僕の作る食事というのは夕食なのかツマミなのか区別がつかない類のものだ。
一人暮らしで、しかも一人になると酒ばかり飲んだくれて過ごしている人間が、酒のツマミになるものを自給自足したいという魂胆から、様々な料理ができるようになったというだけのことだ。
でも僕の場合、何でも極めないと済まない質だから、酒の銘柄だけで終われずにグラスやカクテルの作り方、さらには料理に至るまでこだわってしまう。
さっき飲んだ一杯目はサワー系の缶ではなく、実はジントニックだった。二杯目はラフロイグで作ったハイボールにしたいので、それに合わせたフィッシュ&チップスを作った。
本当は照明も妖しげな間接照明にしてカーテンの色は深紅に、内装ももっと華麗に……とこだわってみたいのだが、残念ながらそこまでの金は持ってないので諦めている。料理の方は慣れたもので、シーザーサラダも併せても、ものの三十分とかからないうちにできた。
そして晩酌は続いた。昔の人間なら、ここでテレビでも見るところなのだろうが、それが僕の場合は部屋にテレビすらない有様で、その代わりパソコンで某リアルタイム動画配信サイトのネットアイドルを次から次へと渡り歩くようにして閲覧したり、コメをしたり、といったことが大分前からの日課となっている、と書いてみたところでそれが何のことを言っているかよく分からないという人には、たぶんこの小説など面白くも何ともないだろうから読むのを止めてしまえ、と言ってしまえるのも作者の醍醐味ともいえる訳ではあるが、その程度のことで読む人が減るというのも何だかシャクなので、そういう人に説明すると、要するに普通の女子がネットでリアルタイム動画の配信をしているのを見ていると、ただそれだけのことで、そんなことをくどくど説明したくもないから早く話を進める。
そんなものもリスナー数から考えて底辺に近い放送主になると、他人の生活を覗き見するという以外にメリットらしいメリットが見つからないようなものもある。だが却って大手だとコメが流れてしまって、まともな会話にならない。だからリスナーが数十人からよくて百人位の規模の丁度いい感じの放送を探し、いくつかをフォローしたのだが、訳あって最近の僕はそんな生活にも不満を感じるようになった。何故か、ということについては説明も不要と言えば不要だが、まあそれについては十段落後位になれば分かるんではないだろうか。
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