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【連載小説】地獄の桜 第三話

 話を戻す。僕はパソコンで、今迄かなりヘビーリスナーをしてきたとある放送でリスナーの話に参加していた。
 常連リスナー達の話は色々な内容に飛ぶ。まず最初に放送主の女子が買い物の時に持っていくという手提げ袋をリスナーに見せて、その柄がかわいいでしょという話になる。そしてそれをリスナー達は、僕も含め、様々なコメントでもてはやす。
「かわいい」「ネコ柄がデフォルメされた感じがよき」「パステルカラー似合ってる!」
 実際、そんなコメントに飾り気なく喜び、染めた頬の色は、彼女の若々しい顔を一層にもてはやしていたし、そんな内容のない話題を、本当に僕は嫌でなく言っているのだった。
 というのも、今の時代は意味を求め過ぎると感じるからだ。会社に行けば利益拡大のための数字ばかり追わなければならないし、合コンに行けばどんな話題を話せば盛り上がるかを考えなければならないし、さらに僕自身のことといえば最近体重の増加が目立つので、ダイエットの目標体重を設定し、それを達成するために食事制限や運動などを心がける有様で、目的と過程のカップリングがてんこ盛りの人生でしんどい。結果として趣味の時間では何も考えないでいたい訳だ。なので推理小説好きの人間とは未だに相互理解が成立しそうにないし、もしもナゾ解き系のコンセプトカフェで開催されている合コンなどをネットで見つけたとしたら、僕は全力で避ける。
 それはともかく、僕が見ている放送ではそんな暇つぶしらしいやり取りが続き、みんなは買い物どこ行くの、とか、物価高くて卵使えないよねー、とか、私? 彼氏と別れちゃったよー、と放送主が言うと、そこは案外フォローが入ってこなかったりして無言になったりして、逆にその隙を突くようにして、いっちゃん(放送主の呼び名)に会いたいなー、とややノンデリっぽく茶々を入れる者がいつも通り同じ人で、相変わらず平和な放送をやっているんだな、と思ったところで、僕は「じゃあ落ちますノシ」とページを閉じた。
 わざわざ途中で抜けたからといって、別に何か大したことをするということもない。要するにオナニーがしたかったのだ。それにしても最近の文学小説を見ていると、主人公がよくオナニーをしているシーンが出てくるのは何故だ。でもまあ確かにあれだけ文学の中で登場人物がオナニーしてくれているのを見ていると、僕がオナニーばかりしているのも恥ずかしいことではないんだなという気がして安心する。あれはそういう意図か。まあそういうことにしておこう。

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