エドワード・ケアリー著 『飢渇の人』

『飢渇(きかつ)の人』はイギリス生まれで現在はアメリカで活躍する作家による短編集である。翻訳者の古屋美登里さんのご尽力により日の目を見た、世界初の短編集とのこと。16の作品のなかには、出版が決まったのちに書き下ろされたものもあるそうで、数珠の名作から新作まで読めるとはお得である。

どんな世界へ連れていってくれるのか。少しだけ紹介すると、村に突然現れた緑色の地底人の話(『おれらの怪物』)や、人の髪の毛などから生まれた生き物の話(『毛物』)、見世物を生業とする巨体の男がサイに心底憧れ、渇望する話(『飢渇の人』)など、こうして字面にして眺めるだけでもワクワクする、不思議で奇妙で、ときに不気味な物語ばかりなのである。でもひょっとすると毎日のちょっと端っこには、これと似た出来事があるのかも知れないと思わずにいられない。

静かな海辺の田舎町で豪華客船が建造された事件を少年が振り返る『かつて、ぼくたちの町で』は巨大な造形に心を奪われてしまった人々と、客船がなくなってしまったあとの、お祭りのあとのような土地の景色が重ねて描かれている。自分たちの存在意義を忘れてしまった老夫婦の物語『おが屑』はシュールだが互いへの思いやりが優しく、ラストは特にお気に入りだ。いずれも時代や舞台はさまざま。神話などから材を取ったものもある。

お話ひとつひとつに、ひと目で心を掴まれるような線描画が載っていて、たちまち世界に引き込む。これも作者の手によるものというから、いったい頭の中はどんな風になっているのだろう。当然ながら一話ずつの読み切りで長さはいろいろだから、秋の夜長にちょこちょこっと読むのにも良いかもしれない。ほんの数分の読書体験であってもどっぷりハマり、しばらく引きずられること間違いなし。初短編集ということだが、長編は日本語訳で数冊刊行されている。今度はこちらへと手を伸ばしたい。

エドワード・ケアリー『飢渇の人』 古屋美登里訳/東京創元社


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