嫁いだ娘を亡くすということ(手を合わせる場所がない)
2019年11月の話
今どき、「嫁ぐ」とか「嫁にやった」とは言わないのは承知している。
たいてい奥さんの方が実権を握っていて、奥さんが何かと実家頼みになるので、嫁側の親の方が裏で主導権を握っていることが多い。
世間の風潮と同じく、ウチもそうだった。
婿側と比べて、影響力はウチの方が比率が高かった。
孫の世話も主になってしたし、行き来も頻繁だった。
が、娘が亡くなってしまうと事情が変わる。
現実は表向きのセオリーで動き出す。
まず、告別式の段取り。
喪主は当然ながら婿。
婿は若くて頼りないので、あちらの両親に任せることになる。
自分の娘でありながら、ウチが口出しする訳にはいかないのだ。
通夜の間、
回らない頭で
これから何が起こるのか考えた。
そして、愕然とした。
普通の流れで行けば、娘は婚家に祀ってもらうことになる。
仏壇や位牌もあちら、法事もあちら。
そしてお墓もあちらに入れてもらうことになるだろう。
「嫁にやった娘」だから…
あちらの苗字になっているから…
出来れば、持って帰って手元で祀りたい。
婚家が仏教でないとか、
無宗教でよう見ませんと言うなら、
それも可能かもしれないが、
そうではないのに奪い取るわけにもいかない。
私は何もかも取られてしまうことになるのだ。
婚家に祀られたら、
よその家にそう頻繁にお参りすることもできないだろう。
婿と孫は実家に帰ることになるので、
時が経つに連れて疎遠になっていくだろう。
私は全てを失うのだ。
娘を失い、
孫を失い、
そして、手を合わせる場所すらない。
三重の苦しみ。
そのことが一番辛かった。
これが「嫁いだ娘を亡くす」という現実だと分かった。
葬儀の朝、
思い立って、夫と仏壇屋へ骨壷を買いに行った。
収骨の時に、そこへ詰めて家に持って帰ろう。
この機を逃すとそれができないという事は分かっていた。
告別式の後、遺骨と遺影を持ち帰った。
しかし、これをどう扱っていいのだろうか?
仏壇や位牌を2つ作って実家で祀っても良いという話も聞いたが、
2つあれば迷って成仏できないのではないか?
と思うと気がすすまなかった。
本物はあちらにあり、これは仮のものだという思いが私を苦しめた。
取り戻しに行こうかとも本気で思った。
だが、彼女の夫と娘はあちらに居る。
それを引き離すことになる。
どうしたらいいか分からず、思いがぐるぐる回る中、遺骨と遺影は部屋の片隅の机に放置されたまま日が過ぎて行った。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?