ごみ山

世界中のプラスチックごみを本当に減らすには。

昨今、プラスチックごみへの注目は日増しに高まっています。

毎年、海に流入するプラスチックごみは800万トン、900万トン、いや1000万トン以上とも言われ、その環境への影響、海洋生物への影響が懸念されています。

こうした状況を踏まえて、いろんな企業や政府などが対応を打ち出していますが、世界中で発生し、海へ流入する(あるいは地上でも環境に影響する)
プラスチックごみを本当に減らすにはどんな活動が必要なのでしょうか、
考えてみました。

(なお、筆者は産業廃棄業界に携わったり、あるいはプラスチックに関する研究室に所属したりしているわけではないので、すごく専門的なことは書いてありません。
書籍・新聞・ネットなどで見聞きした情報に基づいて、個人の意見として妄想しているものです。)

ストローとレジ袋

プラスチックごみ対策としての企業の取組みとして、よく取り上げられるのがプラスチック製ストローの廃止とレジ袋の有料化です。

できることから始める、ということは悪くないですし、これらによっても少し(ほんの少し)はプラスチックごみが減るであろうことからすれば、これらの対策を実施すること自体は良いことだと思います。

しかし、プラスチックごみ全体の中で、ストローとレジ袋が占める比率を考えると、これらによって「対応したぞ、対策とったぞ!」という感じになることには少し違和感があります。

ストローについては、ウミガメにストローが刺さったショッキングな映像が広く流れたことが一つの理由になっているのでしょう。

あんなことになるストローを使っている企業はどこだ?環境への意識が足りないのではないか?と非難されることを回避するため、あるいは環境意識の高さを(少なくとも意識があることを)ブランドイメージとして主張するため、に多くのカフェ・コンビニなどが対応に走ったことは理解できるところでもあります。

しかし、例えばカフェ業態においてプラスチックを減らすなら、アイス飲料のプラスチック容器はどうなのか、フォーク・スプーン・ナイフはどうなのか、そのほうがストローよりも量が多くないか、とも思います。


マイバッグをもっと活用することで、レジ袋を減らそう、というのも悪くはないでしょう。

しかし、プラスチックごみ全体のなかでの比率はあまり高くないのではないでしょうか。(Web上の情報では、日本のプラスチックごみのうち2%程度とか。それでも2%減らすことの意義はありますが。)

また、海洋流出すると、クラゲと間違えた魚やイルカなどが食べてしまう、ということがある一方で、レジ袋は、ごみ袋として活用されていたり、あるいはゴミ収集車が回収するごみに入っていたりして、焼却される比率が高い、ということはないのでしょうか。
(海洋流出はどの程度の比率なのでしょうか。データ見つかりませんでした、国によっても違うかもしれませんね。)

繰り返しですが、できることから始める、少しでも減らす、ということは大事なことだし、そういう行動を起こしていくことも必要なので、ストローやレジ袋の削減もいいと思います。

企業としてのイメージ戦略や、国としても他国から見られたときに「これくらいもやっていないのか」と言われないための対応、という面もあるかもしれませんが、それはそれで必ずしも否定するものでもないし、いずれにせよ少しでもプラスチックごみが減るのであれば、実態としての効果もあるわけです。

が、それだけでは限界がある、というか、極々小規模、ほんの少しの削減に止まってしまうのではないか、と思われるのです。

ではどうすればいいのか、必要だと思う対応を妄想してみました。

プラスチックごみの環境への影響を把握

まずは、プラスチックのライフサイクル、なかでも自然界への影響がどうなっているか、といった調査をしっかり実施することが必要でしょう。

もちろん、調査に時間をかけた結果その間に実際に減らす対応が遅れる、長期間何もしない、ということではなくて、できることから始めながら、並行してしっかり調査する、ということですが、環境影響の実態、全体像を把握しなくては、全体として有効な対策になってこないと考えられます。

海への流入
一つは海洋への流入の状況です。

既に大量のプラスチックごみが流れ込んでいて、マイクロプラスチック化している、ということであり、このストックされているプラスチックごみへの対応も必要でしょうが、まずは流入を止めることです。

そのためには、どんなルートで、どんな種類のプラスチックごみが、どのように流れ込んでいるか、把握することが必要です。


国際自然保護連合が大陸別の流入量を調べたり、研究者が「どの川からの流入が多いか」調べたりしていますが、なんらかの実測というよりは、その地域での生産や利用状況などからの推定が多いようです。
(ちなみに、人口の多さもあり、多くはアジアおよびアフリカの川からの流入、と推定されているようです。)

一方で、
海洋におけるプラスチックごみの半分は漁網や釣り糸など漁業由来、という指摘、さらには、
地中海では夏場の観光客の影響で、プラスチックごみが4割増える、
という指摘もあります。

当然のことながら、それぞれのケース、何がどのように流れ込んでいるのか、によって対策が大きく異なることからすれば、有効な対策をうっていくためには、海洋流出の全体像、中身、仕組みを把握することが欠かせません。

【最近の報道:日本政府の取組み】
そういう中で、日本政府が資金面・技術面で河川からの流入の調査分析を支援する、という報道が今年8月にありました。
流出量の上位に含まれる、ガンジス川とメコン川について、流れるゴミの種類や量を分析し、含まれるプラごみの発生源や地点ごとの発生量などを把握すべく、現地の大学や研究機関と組んで、ドローンで空撮する手法や衛星画像の分析などの様々な調査手法を試して適切な監視方法を確立する。
確立したら東南アジア諸国連合(ASEAN)各国に提供するして、他の河川への展開を目指すようです。
実現すれば、素晴らしい取組みですね。


海以外での影響
海への河川からの流入の一つの経路は、川の近くに野積みにされたプラスチックごみが、大雨や洪水などによって河川へ、さらには海へ流入する、ということのようです。

とすると、
野積みになったり、あるいは埋め立てたりされたプラスチックごみの、地上における自然界への影響はどうなのでしょうか、気になるところです。

海流や波などでマイクロプラスチック化して、魚類・哺乳類などの体内に取り込まれると言われる海洋とは異なり、分解されないだけで大きな影響はないのか、それとも影響があるのか、あるとすればどんな影響か、あまり報道でも見かけません。

影響なければいいのですが、そうでなければ、対策の視野に入れていく必要があるでしょう。

プラスチックの焼却処理
プラスチックごみを燃やすのはどうなのでしょうか。

プラスチックごみを焼却することで処分するとともに、その熱エネルギーを利用する、熱回収・サーマルリカバリー(日本的にはサーマルリサイクル)は日本を含む各国で行われています。

焼却すれば、海洋に流出することはないし、埋め立てや野積みにもならないので、ちゃんと処理されている、という気もします。また、その熱エネルギーを活用することは、石油の節約にも(少しは)なるでしょう。

ということで、いいことのように思えますが、
一点気になるとすれば、プラスチックを燃やすことによる環境影響です。

少し前から、私の住む自治体では、大きなモノを除き、ビニールやポリの袋などは「燃やすゴミ」として回収されています。昔は「燃えないゴミ」にしていたものの、焼却炉の性能があがり、燃やせるようになった(燃やしても問題ないようになった)ということだと理解していますが(だから大丈夫と思っていますが)ちょっと気になるところではあります。

本格的な対策・技術的な改善

調査と並行して、できることから始めつつ、本格的な対策を進めていくことが必要です。

置き換え
まずは、現在プラスチックを使っているモノを、自然界で分解できる「生分解プラスチック」や生物由来の「バイオマス・プラスチック」、あるいは紙・金属・ガラスに置き換えられないか、そもそも使わないようにできないか、ということですね。

レジ袋やストローに止まらず、
日清食品がカップ麺の容器を、セブンイレブンがおにぎりの包装を、ファミリーマートがサラダ容器を、植物由来プラスチックにしていく、ということのようです。
サントリーは、再生プラスチックと植物由来樹脂によるペットにする方向、キリンなどは金属・ガラスの回収・再利用などなど、本質的な対策を考えている企業も増えてきています。

ただし、プラスチックを使っているのは、これらのみではなく、車や電化製品・パソコン関連製品、家具や水回りなどの生活用品、コンビニやスーパーにおける弁当や食品トレー、飲料の入れ物などなど、数限りなくあります。

確実な回収・再利用(または処分)のルートを確立する、ということもあるかもしれませんが、そうした対応が難しい製品については、どんどん置き換えを進めるべきでしょう。

ただし、プラスチックを減らした結果、他の資源に影響しないか、考えておく必要があります。

例えば、「紙」については、木材・森林資源への影響が考えられます。
いっとき「割り箸」が木材を消費しすぎる、と問題になり、一部では「竹」を原材料とする割り箸に置き換えていますね。(竹は成長が早いので、森林資源への影響が少ない、ということで。)

また、植物由来でもサトウキビなどがよく候補になりますが、食糧需給への影響や、その他の環境への影響(例えば、森林を焼き払ってサトウキビ畑にしてしまう、とか)にも目配りすることが必要ですね。

技術開発
技術開発面では、この「置き換え」のベースとなる自然界で分解される「生分解プラスチック」と、もう一つの大きな方向性であるプラスチック分解技術がポイントでしょう。

生分解プラスチックは既に様々なタイプが開発されてきていて、一部、シャンプーボトルや食品包装、コンポスト用袋、レジ袋などに使われていますが、まだまだ限界的です。

製品の固さ・丈夫さ、耐熱性・耐燃焼性、加工・成形のし易さ、使っているときには分解しないが使用後には分解しやすい性質、また最終的に微小粒子も残さず分解する性質、さらには安価な提供など、更なる改善・開発が望まれます。


プラスチックを分解する方向についても、土壌に住むバクテリアのプラスチック分解を参考にして、化学的に分解して、新たな素材として提供できる技術が開発されています。

今後これを、商業化・ビジネス化できるように、コスト面などを含めて実用化していくことが必要です。

また、プラスチックにはポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニールペットなど多くの種類があり、それぞれ違う性質があるので、これらに対応する分解技術を開発していくことが望まれます。

ところで、
これらを実現していくためには、こうした技術・研究者への投資が不可欠なわけですが、環境への多大な影響、(我々人間のエゴではありますが)ひいては食べ物や水、空気を通じた人体への影響、暮らしの安全を考えれば、全体としては極めて投資対効果の高い活動ではないか、と思われます。

一方で、個別ビジネスとしてはボラティリティがとても高いことになる可能性があるでしょう。

宇宙ビジネスは素晴らしい夢を与えてくれて、無限の可能性があることから、多くの成功したアントレプレナーがこぞって投資していますが、そうした人々のなかから、このプラスチックごみという社会課題に大きく投資してくる人が出てこないものか、と妄想したりしてしまいます。

人々の意識・生活習慣・社会の仕組み

河川から海への流出状況、また野積み・埋め立ての状況の把握分析を踏まえて、ということになるかもしれませんが、今この瞬間も使われて捨てられるプラスチックが、ちゃんと回収されて焼却処分、あるいはその他の適切な方法で処理されるサイクル・仕組みをつくることも重要です。

分解技術が十分に開発・発展しても、プラスチックごみがしっかり回収されて、処理施設まで来ないと意味がありませんね。

また、分解技術の開発・実用化の前でも、こうしたサイクルが確立されることで、無用の環境影響がストップできる面もあります。

とは言え、プラスチックを使う人々の意識・生活習慣を変えることは一筋縄では行かず、それなりの時間がかかるでしょう。ゴミの分別や回収の仕組み自体を、インフラ・運搬機械も含めて構築し、それを人々がちゃんと使うようにすることが必要です。

海洋ストック、マイクロプラスチックをどうするか

最も難しいのが、既に数億トンも存在すると言われる海洋に存在するプラスチックごみのストック、マイクロプラスチック化してしまっているストックへの対応かもしれません。

広い海洋から、姿を留めているプラスチックごみを回収するだけでも膨大なエネルギー・コストがかかるでしょう。
というか、可能だとしても相当難しい作業になると考えられます。

さらには、微小なマイクロプラスチックになってしまっているストックは回収することは困難にも思えます。
マイクロプラスチックを吸着・回収する素材を開発するなど、微小粒子を集める方法、なんらか少しでも集める効率を上げる手だてを講じていかないと、魚が食べて食卓にあがることでしか回収できない、なんてことにもなりかねません。

目指す姿

本稿は、プラスチックごみへの対応を主題として記述していますが、
将来的には、化石燃料や森林・植生・植物利用、再生可能エネルギー活用、プラスチックや紙その他の資材のリサイクルなどをバランスよくミックスしたサイクルを構築し、地球へのインパクトを最低限に留める「循環型社会」にしていきたいものです。

それを構築すること、少なくとも構築し始めることは、我々の世代の責務かもしれません。


最後までお読みいただきありがとうございました。
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