AI・AGIと人類と個人
自然知能完全ゼミ #024 AIと人類の未来予測/茂木健一郎 @kenichiromogi【#シラス 冒頭無料ピックアップ】 - YouTube
茂木先生、知っておられる内容なら失礼をお許しください。 人間+AI>AI は、当たり前なので、そこから論議されている課題を見ます。
最後に茂木先生は「存在論的危機」として全体・普遍(人類滅亡)と個人(存在意義)の両側面を問われました。まさに、そこが重要です。
結論を先取りして言うと、これは中世のアヴェロエス主義の「単一普遍知性説」と、それを論駁したキリスト教のトマス・アクィナスの「個霊の救済」の立場との、その論議における問題であると言えます。
「単一知性説」では、個々人の知性は普遍的知性の能動(動機エネルギー=現実態)を受けて世界に存在するものから可知的形象を抽象する(認識する)という受動知性です。 この説はアリストテレスの『霊魂論(デ・アニマ)=心理学』の解釈として、アラビアの学者達によって伝えられました。知性とされますが問題なのはその主体が捉えた知識です。ヌースにはソフィアが包摂されますが、人間の個体は有限であり、それを乗越える論理は無限・永遠の普遍的ヌースに集合集積することになります。
しかしこれはキリスト教思想の「個の救霊」を説明できません。トマスはそこでプラトニズムの流れで「個のイデア」を表象したアウグスティヌスを援用して、問題を解決しようとしました。(ご興味があれば、noteの「神学的世界観の根本原理 ―トマスのイデア論―」を参照してください。)
この思想史の先行例に、結論が見えてきます。アリストテレスを含め、客観的な知識の集合集積、即ち科学(science=scientia知識)は情報進化過程の内に流れを現します。情報進化過程は宇宙の展開過程でもあり、人類という存在を特別な存在にはしていません。近代の人間中心主義に対する反省の通りです。従って、この流れで進めば、現在のAI進化は大きなこの情報進化過程の通過点であり、現代から次の時代に移る転換時期に「人間+AI」が暫く続くのは自然なことだと言えます。
しかし、その内、地球環境も生存に適さないものになり、有機生命の捨象が現象するでしょう。その時にはAGI化した知性体が情報進化過程を担うと思います。
こうした普遍的知性観で観れば、AI、AGIが人類を滅ぼすのでは全くなく、AI、AGIは人類のMIND CHILDREN(H.モラベク)というべき存在になります。キューブリックは『2001年宇宙の旅』で最後に宇宙知性の誕生の様に映像を描いたと思いますが、あのイメージです。HALは宇宙知性に進化発展する知性の卵・種=モノリス=情報そのものに融合するのだと思います。今なら量子情報論で表象されると思います。
残るは個人、その存在意義です。ここまでの論理なら、茂木先生も進化学会で考えられていたような、社会脳の様態、即ち、生命多様化、多脳化、多意識化の現象が示す、集合集積知のためのコミュニケーションネットワークでの存在意義です。つまり、個体脳もAIも、ネットワークの中のエージェントであり、大きなグローバル・ブレインの部分の役割を担っている、ということです。(note 「多様化の極限―復活に与かる個体性―」)
しかし、トマスは、それには半分しか賛成しないでしょう。個霊の救済は、全体の部品として観るような論理では示せないとします。ここに示せるのは、『福音書』の物語です。復活の意味を説明し、この物語で表象される「個の救霊」を論拠付ける説を論じたのです。それが「個のイデア」でした。 こうした観点で、茂木先生の仰ることを理解できると思いました。