職務放棄先生
抜き打ちテストの後も、英語は自習が続いた。
ほぼ休み時間と言っても過言では無いほど、英語の授業中は賑やかだ。
むしろ先生が1番賑やかかもしれない。
「ええ?!それ本気で言ってるのか?俺ってそんな性格なの?!」
先生は女子生徒と雑誌の占いで楽しんでいるようだ。
「ほんとですってば!この占い、当たるって有名なんですよ?信じてくださいよ!」
ここまで生徒達と仲良くなれる先生はいるのだろうか。
いや、ここまで女子と仲良くなれる男子はいるのだろうか。
半ば嫉妬混じりにその様子を遠目に見ながら俺は、仲の良い奴らとトランプをしていた。百円ショップで10セットも買ったトランプ540枚で、大富豪。これがなかなか面白い。なんせジョーカーだけで20枚。革命が起こり過ぎて流れを理解するのに苦労するほどだ。
すると先生が仲間に入ってきた。
「お?面白そうなことをやってるな。何セットあるんだ?トランプ。」
「10セットです。革命が起こり過ぎないように、でも普通にやるより起こりやすいように、革命の枚数は10セット分の内の半分で設定してます。他はなんでもありです。」
俺は答えた。
7渡し、8切り、縛り、複雑に絡み合うほどに面白くなるこの10セット大富豪を考えたのは俺だ。
「面白いじゃん。これ、どれくらいの確率で革命起こるんだ?普通にやるよりは起こるんだよな?」
「え?考えたことないです、、、倍くらいかな?」
「ええ?もっと多いんじゃね?分かんねえけど、、、先生、どれくらいですか?」
友人も俺も分からないまま、なんとなく多そうと言う程度の認識でやっている。
すると先生が言った。
「よし、じゃあ来週の英語の授業でこれをみんなに説明してくれ。英語でな。」
「はいいいい?!」
「そっそんな無理ですよ!!」
無茶振りにも程がある。This is a penくらいしか分からない俺達に、どうやって説明しろと言うのだ。
「お?なんだ?英語出来るんじゃなかったのか?こないだの抜き打ちテスト、この辺のグループは満点ばっかりだっただろ?てっきり英語話せるもんだと思ってたけど、違うのか?」
先生はあたかも純粋に疑問に感じているかのような、心から驚いているかのような、無垢な不思議顔で俺達にそう言った。
どうやら本気で俺達が英語を話せると思っていたらしい。
ならばなぜ、授業をしないのだろう。
友人が先生に尋ねた。
「先生、あの抜き打ちテストの満点、本当だと思ってるんですか?」
「あぁ、もちろんだ。だって、じゃなかったらトランプやお喋りや昼寝なんかしないだろう?」
教室が静まり返る。
初めて先生を先生だと感じた瞬間だった。
どうやら勉強は、自分でするものらしい。
そう、誰もが悟った瞬間だった。