坂上暁仁氏著『神田ごくら町職人ばなし』は極上なものづくりのバイブルだ!
はろーえぶりわん。上島です。
本との出逢いはまさに一期一会。
そしてかつてそれは本屋だったり店舗での邂逅がほとんどだった。
あるいは知人を介してとかもあっただろうが。
ただ多くの本好きがそうであるように、
私もまた本屋の店先でのその邂逅を楽しんだ。
時に表紙に惹かれ、
時にはタイトルに惹かれ、
あるいは帯の文句に惹かれ、
はたまた後書きに惹かれ、
かと思えば書店員さんの書いたポップに導かれ……
私たちは本に出逢い、
本を手にして、
その重さを手の中に感じながら家路を急いだ。
いつの頃からか。
インターネットの普及、特にスマートフォンという小型のパーソナルコンピューターを持つようになってから、その邂逅の悦楽がなくなったように思われ……。
否───。
なくなったわけではない。
未だ存在し得るのだが、わざわざ書店に脚を運ばなくてもその邂逅を得られるようになってしまった。
時に椅子に座ったまま、
時になにかを待つ時間でも、
電車に乗っている合間にも、
はたまたベッドの上に寝っ転がったままですら、
そのとても貴重だった、
大切で、尊くて、大好きだったあの邂逅の瞬間が、
自分の掌で行えるようになってしまったのだ。
これは便利になったと喜ぶべきなのか、
あるいは怠惰の果てと哀しむべきなのか、
その判断は人類がまた次のステージに辿り着いた段階で答えを出すのだろう。
いや、出さないかも知れない。
いずれにしても今の私たちでは到底わかり得るものではない。
そう、この文化は未だ発展途上なのだから。
話が逸れた。
そんなネット上で、私はある邂逅を果たした。
それがこちら。
Webで、1話、2話と読める。
1話は桶職人の話。
2話は刀鍛冶の話。
どれも味があって、深く、それでいて職人の「心」と「心意気」と「意地」ががっつり描かれているのが印象的。
江戸時代の作品というのは私の大好物であり、こんな職人の心意気の話なら、1冊買ってみようと、発売日に某ネットで注文したのだが、生憎の品切れで、1ヶ月待たされた。
そしてようやく届いたのがこちらというわけだ。
全話読み終えた時、私はただただ呆然とした。
なんだこれは?
なんだこの作品は?
ただ江戸職人のはなしでは済まされない。
無論、基本骨子は職人たちがどんな気持ちで仕事に挑むかがつぶさに描かれている。
そのどれもが「人」の心に深く深く沁みてくる。
特に一度でも物作りに関わった人間なら、物作りに真剣に向き合った人間ならば、この話に心を揺さぶられないはずがないだろう。
とにかく、一コマ一コマ職人の作業を描写されていくのだけども、いや、このマンガを描くのもまたとんでもない職人技ではないかっ!
一体どれほどの資料を読み込んだのか?
どれだけの取材を重ねたのか?
その絵から受ける膨大な情報量を思えばその辛労が忍ばれる。
いや、ご本人は楽しく情報収集をしていたかもなので、それを「辛労」などと表すのも失礼かもしれないが。
とにかく私はこの作品に見事なまでに感銘を受けた。
受けてしまった。
特に好きなのは畳職人の話。
これを説明するのは野暮なので、是非読んでいただければ。
基本的には読み切りなんだけども3話構成で描かれた「左官屋」の話。
これはまた秀逸!
職人にあらずとも、一度物作りに関わったものならば、自分の手懸けた仕事が100年先まで残るとすれば、それは一生涯に一度あるかないかの大仕事であることは間違いないだろう。
それを完成させる為に「いろいろ」あるのだ。
まさに「いろいろ」だ。
だが100年後、その姿を人々は讃えても、その裏になにがあったか、どんな想いでそれを作ったかはわからない。
そういうもんだ。
それは儚く、だが、とても尊い。
いや、仮にもライターを名乗るのにこのような拙い言葉でしか紡げないのが歯痒くて仕方ないのだが、とにかくこの職人たちの魂がどこかにしっかりと、いや、たとえわずかでもいい。
誰かの心に残って、受け継がれていて欲しいと、私は願わずにはいられないのだ。
ただし、これは「江戸時代風」の「神田ごくら町」という架空のファンタジーであることはきちんと理解していた方がいいだろう。
この時代、女性の職人がいなかったわけではなかろうが、それが在り続けること、そして職人頭になるというのが如何に難しいかを考えればとても現実味のある話とは思えない。
だが、それでいいのだ。
これは『江戸職人づくし』ではないのだから。
そう、コレは職人が如何にカッコイイかを、そしてそれを為すということがどれだけ難しいかを描ききった作品だ。
それだけで十分なのだ。
重ねて言うが、この先の、いつの時代でも、この心意気が受け継がれ、そして通じてくれればいいなぁと、私は切に願うのである。
さて、もう一度読もうかな。
少しでもいいな、と思っていただければ投げ銭などしていただけると、またイイモノを書こうというモチベーションが上がります。
何卒よろしくお願いいたします。
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