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「新しい資本主義」の変質を危惧する。

10月3日、岸田総理大臣は所信表明演説を行いました。その中で、岸田政権の目玉政策のひとつとされてきた「新しい資本主義」のコンセプトが、変質していく流れが一層明確になっている気がします。

「分配」がなくなる。

「新しい資本主義」は当初、「成長」と「分配」の適切なバランスを追求するというのが、基本的なコンセプトにあったはずです。岸田総理は、総裁選において「成長と分配の好循環」「分配機能の強化」を強調しました。ところが就任後、時間が経つにつれて、「分配」の要素が弱くなり、そこの部分がGX(グリーン・トランスフォーメーション)やDX(デジタル・トランスフォーメーション)に置き換わってきています。

「市場だけに任せておいてはうまくいかないこと」という意味では、「分配」もGXもDXも共通なのですが、「分配」を進めることについて経済界の抵抗が強いために、そこの部分が、言葉は悪いですが「腰砕け」になっているような気がします。

コロナの教訓はどうなった?

GXとかDXという言葉はともかく、それらを含む構造改革はアベノミクスの時点で盛り込まれていました。その成果が十分でなかったという指摘はありますが、岸田政権が成立した時に提唱した「新しい資本主義」は、ここに新しい要素として弱者支援を進める「分配」を強調するものであったはずです。これは、コロナによって社会的弱者の問題が一層浮き彫りになったこと、それをしっかり受け止めて、これまでの「成長」偏重を軌道修正するということであったはずです。

そこの部分は労働者の「賃上げ」の主張に反映されているという言い方がなされますが、これとて安倍政権の時から取り組まれていたことです。「賃上げ」自体は非常に重要だと思います。安倍政権以降、政権がかなりあからさまに経済界に圧力を加えるさまには、時代が変わったことを感じましたし、非常に頼もしく思いました。

しかし、それだけではないはずです。これまで取り組んできたことを続けるだけで、「新しい資本主義」というつもりではなかったはずです。安倍政権、菅政権においては、どちらかと言えば、「トリクル・ダウン」によって底上げする考えが強かったわけです。これはつまり、「成長」が進めば、富が下にもこぼれ落ちてくる、という考え方です。これは、資本家や大企業にとって、とても都合のよい理論です。この考え方を明確に修正するのが「新しいい資本主義」だったはずです。

資本収益への課税の問題

特に私が落胆しているのは、金融資本課税の強化の課題があいまいになり、実質的に頓挫してしまっていることです。

この問題は日本だけではなく、多くの国が抱えている問題なのですが、株式の売却益や利子収入などの資本収益については、その人がいかに多くの収入があろうと、定率の課税がなされています。つまり、日本の場合、資本収益には約20%の定率で課税がなされます。

そのため、収入が少なく、所得税率が10%の人や、税金がかかっていない人も、わずかな定期預金の利子から約20%が引かれます。逆に、そもそも20%を超える所得税を納めなければならない高額所得者も、資本収益からは約20%しか引かれません。また、高額所得者のほとんどの収入は資本収益が大部分を占めるため、所得が大きくなればなるほど、収入に占める税負担の割合が小さくなるという現実があります。

実際、日本では、年収1億円の人でも所得税負担率は28%程度で、それ以上の所得の人は、かえってこれより負担率は下がっていき、年収100億円超の超高額所得者は20%以下の負担率になっています。日本では累進課税による所得税の最高税率は45%とされていますが、実態は全く違うのです。

「正義」に反する。

高額所得者ほど高い税率によって税金を負担し、それを低所得者に分配するという「所得再分配」が、「勝ち組」と「負け組」を分断する資本主義を修正していくための基本的な考え方です。資本収益に対する課税の欠陥は、この資本主義修正の考え方を根こそぎひっくり返す問題です。

こんな超高額所得者がウハウハしている一方で、毎日の食べ物にも困っている子供たちがいる。そんな社会が正しい社会なのでしょうか。そもそも、1年に何千万円、何億円ものお金が、どうして必要なんですか?

社会的弱者を支援するためには予算が必要です。そのためには、他の財政支出を切り詰めたり、増税したりしなければなりません。年金財政もどうにかしなければなりません。法人税を増税すれば、国際的競争力が落ちてしまい、法人税が低い国に企業が出て行ってしまいます(その状況を防ぐために、法人税の最低税率を国際的に定める取組がOECDを中心に行われていますが)。

それを考えれば、この資本収益に対する課税強化は、真っ先に進めるべきことでしょう。もしかしたら、金額的にはこれではまだまだ足りないのかもしれません。しかし、税制において、このような「不正義」がまかり通っているうちは、これ以上消費税を引き上げられることに、誰も納得がいかないのではないでしょうか?

(資本主義の修正の問題については、よろしければ、こちらの記事もご覧ください。)


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