FANG+に名を連ねる企業ServiceNow──AIと自動化で企業を変革する
日本でサービスナウという企業はあまり知られていないかもしれない。しかし、同社は現在、米国の主要ハイテク企業を中心に構成された注目の株価指数であるFANG+の構成銘柄にも採用されている注目の成長企業だ。
こんにちは、TTTである。
私は長年、さまざまな投資や企業研究に携わってきたが、これまで多種多様な企業を見てきた経験から言って、ServiceNowほど現代のIT事情にフィットし、かつ将来に向けて拡張性を持つ企業はなかなかないと感じている。 エンタープライズソフトウェアと聞くと、どうしても華やかなB2C企業に比べると知名度が低く地味だと思われるかもしれない。だが、実はこのServiceNowこそが世界中の大企業のIT基盤や業務オペレーションを支え、企業内部におけるあらゆる手続き・作業の効率化を可能にしている。
FANG+という株価指数には、もともと米国のITやインターネット、ハイテクの強力企業が揃っている。そこに新たに名を連ねるServiceNowは、「一部の大手ITサービス管理ベンダー」に留まらず、企業変革を進める一大クラウドプラットフォームに進化を遂げているのだ。
■ServiceNowが歩んできた道
ServiceNowの創業は2003年、フレッド・ラディ氏によってGlidesoft社としてスタートした。彼はPeregrine SystemsのCTOを務めた後、同社の破綻を受けて、自身が思い描くIT管理の理想像をクラウド上で実現しようと起業した。 創業当初は、ほぼ一人で事業を走らせ、資金繰りやプロダクト開発のあらゆる面を担っていたと聞く。2005年頃、投資家からの資金調達が成功すると、一気に人材を増やし、少数精鋭ながら本格的な拡大路線に乗り出した。 2007年の時点で年商1,300万ドルを記録し、サンノゼでのオフィス展開や黒字化まで果たしている。この早期に黒字化したという点こそ、ServiceNowが「収益を伴う成長」を重視してきた証といえる。
2012年にはニューヨーク証券取引所でIPOを実施し、2億1,000万ドルを調達した。そこから世界的な拠点拡大が加速し、各国に支社やデータセンターを設け、大手企業へのアプローチを強める流れが確立された。経営陣もフランク・スロートマン氏、ジョン・ドナホ氏、そして現在のビル・マクダーモット氏へと交代していく過程で、会社は年商100億ドルを超える規模へと進化している。 フォーブスが選ぶ「世界で最も革新的な企業」ランキングの1位にも選ばれたことがあるのは有名だが、その根底には、創業期から貫いてきた「クラウド上でITサービスを一元管理する」という先進的なビジョンがあったのだ。
今やServiceNowは世界各地で2万6,000人を超える従業員を抱え、シリコンバレーだけでなくヨーロッパやアジアにも拠点を広げている。そのグローバル展開によって、多種多様な企業が同社のプラットフォームを利用し、大量のIT関連ワークフローを動かしている。
■急成長を支える強固な財務体質
ServiceNowの財務指標を眺めると、成長率が年間20%を超えるにもかかわらず、営業利益と純利益のいずれも堅調に黒字を維持しているという点が際立つ。SaaS企業における投資家目線で言えば、「Rule of 40」を超えるどころか、さらに上回る勢いでビジネスを伸ばしている。
時価総額が2024年時点で2,000億ドルを突破したという事実は、投資家から見てもServiceNowが「ビジネスモデルが安定している上に、まだ拡大の余地が大きい」と判断されていることを示している。FANG+銘柄としての採用も、そうした市場の高評価の裏付けだ。
私が個人的に注目しているのは、M&Aによる規模拡大に頼り切っていない点である。もちろん、小規模なAIスタートアップやRPA関連企業の買収は行っているが、それはあくまで先端技術を取り込む目的が主であり、売上を大幅に水増しするような大型買収はほとんど行っていない。コアビジネスであるIT管理プラットフォームの拡販とクロスセルによって、有機的に顧客単価を高める戦略をしっかり実行しているのだ。
競合他社が買収後の統合で組織力や開発効率を落とすケースは珍しくないが、ServiceNowはそうした混乱を最小限にとどめ、自社開発とパートナーエコシステムの活用によって顧客価値を拡張している。こうした動きが、連年の高成長と安定した利益率を同時に可能にしているのだ。
■ITSMでの圧倒的シェアとプラットフォーム戦略
ServiceNowを象徴するのは、何と言ってもITサービス管理(ITSM)での存在感だ。企業のIT部門は、ユーザーから寄せられる膨大な問い合わせやトラブル報告を処理する必要があるが、そこにServiceNowのチケット管理システムを導入すれば、問い合わせの受付から解決、エスカレーションまでを一元管理できる。さらにナレッジベースや自動ルーティング機能が充実しているため、問題解決のスピードや正確性が飛躍的に高まる。
実際、世界のITSM市場規模の半分近くをServiceNowが占めているとの統計もあり、こうした導入実績の多さが「まずはServiceNowを検討しよう」という企業心理を生んでいる。私の知人の投資家筋では、「ITサービス管理ならServiceNowがデファクト」という声が当たり前に上がっているほどだ。
しかし、同社の強みはITSMに留まらない。ITOM(IT運用管理)やCSM(カスタマーサービス管理)、HR(人事管理)、SecOps(セキュリティ運用)など、多彩な機能をNow Platform上で統合して提供している点こそが、ServiceNowのさらなる魅力である。
たとえば、ITインシデント管理をServiceNowに集約した企業が、次のステップとしてサーバーやクラウドインフラの監視・自動化(ITOM)を導入し、さらに人事部門の入退社手続きや問い合わせ対応(HR)までも同一プラットフォームに載せるという形だ。一旦導入すれば、単なるシステム運用にとどまらず、企業全体のワークフローを横断的につなげることができ、部門間のサイロを解体しつつ効率化とデータ活用を加速させるという効果を生む。
大手顧客ほど、ITSM導入後に追加モジュールを導入する傾向が強く、1社あたりの平均契約額は年々上昇している。実際、上位顧客のうちITSM、ITOM、CSM、HR、Creator Workflowsなど複数のモジュールを併用するケースが増えており、いわば「ServiceNowを使えば企業内部のほぼすべてのプロセスを統合管理できる」状態が作られている。
■競合大手との比較
FANG+指数に名を連ねる企業には、Meta(Facebook)やAmazon、Netflix、Google(Alphabet)、Tesla、NVIDIAなど、時代の先端を走るテック企業ばかりだ。その中で、ServiceNowはエンタープライズ向けのクラウドソフトウェアという立ち位置から、「企業内部のDXを支える根幹インフラ」の提供者として注目を集めている。
よく比較対象になるのは、SalesforceやMicrosoftだ。SalesforceはCRM(顧客関係管理)で世界的にトップクラスのシェアを持ち、最近ではマーケティングやコマース、分析ツールなどを次々と手がけている。一方ServiceNowは、IT部門やバックオフィスを強力にサポートし、企業内ワークフローを可視化・自動化していくアプローチだ。両社ともローコード開発プラットフォームを用意しており、一部の領域では競合するものの、ServiceNowはIT基盤に強みを持つという差別化が大きい。
Microsoftについては、Office 365やAzure、そしてPower Platformによる一気通貫のクラウド生態系を築いている。「ExcelやTeamsなど、すでに企業が使っているツールに統合しやすい」という優位性がMicrosoftにはあるが、ServiceNowは企業内の複雑なIT運用プロセスを一元化するノウハウが卓越している。まさに「汎用性のMicrosoft」と「専門性のServiceNow」という色分けだ。
近年はAIの台頭で、どの大手ベンダーも自社プラットフォームに高度な自動化と知能を融合しようと躍起になっている。そうした競争環境の中でも、ServiceNowはITSMで築いた頑丈な地盤を基に、他領域へ着実に進出しているのが強みといえるだろう。
■AIと自動化へのアグレッシブな投資
企業のDXを進めるうえで、近年特に注目を集めるのがAI(人工知能)と自動化の組み合わせだ。ServiceNowは2017年頃から、機械学習や自然言語処理のスタートアップを買収し、製品ラインナップにAI機能を着実に組み込んできた。
たとえば、インシデント発生時に自動でチケットを振り分けたり、解決に必要なナレッジを提示したりする「Now Intelligence」は、ITSMの世界をさらに効率化する要となっている。企業内に蓄積された膨大な問題事例や問い合わせ内容を機械学習の素材にできるため、サービス提供の質とスピードが明らかに向上するのだ。
そして2023年には、NVIDIAとの協業によって生成AIに本格参入する発表があり、さらに注目が集まった。OpenAIや一般的な大規模言語モデルに対して、ServiceNowは「企業ごとに最適化された大規模言語モデル」を志向しており、自社プラットフォーム上で活用することで、IT部門の問い合わせだけでなく、人事・財務・顧客対応などあらゆる部門のプロセス自動化に活かそうとしている。
具体的には、ユーザーが希望するワークフローを自然言語で入力すれば、システムが必要なステップを推定して自動生成するというシナリオが想定されている。煩雑だった承認プロセスやデータ入力も、AIが最適化して組み立てる世界がすぐそこまで来ているのだ。
■採用動向と企業文化
ServiceNowがビジネス面で脚光を浴びる一方で、私は人材戦略や企業文化にも注目している。2023年以降、多くのテック企業が大幅な人員削減に踏み切ったが、ServiceNowは「レイオフしない」と明言し、実際に新規採用も継続している。
こうした背景には、パンデミックの間に過度に膨張しなかった慎重な採用方針があると言われている。経営陣は「成長路線を描く一方で、社員との長期的な関係を大切にする」姿勢を掲げ、これが社員のロイヤリティや満足度を高める要因になっている。
Glassdoorのレビューを見ると、ServiceNow社員の多くが「やりがい」「未来志向の仕事」「成長できる環境」を評価しており、たとえハードワークであっても得られるリターンやキャリアアップの幅に魅力を感じているという。企業文化としても「Purpose-driven(目的指向)」を重んじており、IT管理やオートメーションによって顧客企業に大きな価値を提供するという使命感を共有しているのだ。
■FANG+採用の裏付け
FANG+には、AI時代を先導する企業が選定されている。Metaのメタバース構想や、NVIDIAのGPU・AI技術、TeslaのEVや自動運転開発などがそうだ。そこにServiceNowが含まれているのは、「企業の内部オペレーションやワークフローの在り方を劇的に変え、さらにはAIによる自動化でも先導的役割を果たす」と市場が期待しているからに他ならない。
実際、株価の推移を見ても2023年から2024年にかけて大幅な上昇を記録しており、これはAIブームに乗っただけでなく、ServiceNow自身のサブスクリプション収益が拡大し続ける堅実さも投資家に評価された結果だ。創業以来、主要顧客を大切にしつつ、追加モジュールの拡販と国際展開で安定収益基盤を築いている点が、この株価評価を支えている。
■日本市場とServiceNow
日本では、SalesforceやMicrosoftと比べるとServiceNowの知名度はまだそこまで高くない。だが、金融機関や大手製造業のIT部門など、IT運用に巨額を投じている領域では徐々に導入事例が増えている。
たとえば、人材が多く動く大規模組織では、社員の入退社や異動時に発生するIT設定やアカウント管理を手作業で処理していたケースがある。これをServiceNowのプラットフォームで自動化すれば、申請から承認、アカウント発行、デバイス管理、さらには回収まで一貫して可視化できる。セキュリティリスクを低減しながら、業務効率を大幅に向上できるメリットは計り知れない。
また、日本特有の書類文化やハンコ文化が残っている企業においても、ServiceNowのローコードワークフロー構築機能を使えば比較的スムーズに電子化・自動化へ移行できる。紙とExcelベースの混沌を抱える日本企業ほど、ワークフロー自動化の恩恵は大きく、今後ますます導入が進む可能性が高い。
■まとめ:21世紀の主役級クラウド企業
ここまで述べたように、ServiceNowはFANG+に選ばれるだけの高成長と技術力、そして企業文化を兼ね備えた存在だ。にもかかわらず、日本ではまだ知名度が限定的であると言わざるを得ない。しかし、世界的視点に立てば、**IT運用管理からスタートし、全社的なDXを進める“ワークフローOS”**として、既に広く支持されているのが実情だ。
以下に要点を整理する:
FANG+指数の一員:MetaやAmazon、Tesla、NVIDIAなどと肩を並べる成長銘柄として市場から高い評価を受けている。
ITSMを基盤とした拡張性:ITOM、CSM、HR、SecOpsなど多彩なモジュールを一元提供し、企業内のあらゆるワークフローを統合できる。
AI・自動化への積極投資:NVIDIAとの提携や独自の生成AI戦略により、企業固有のデータを活かしてワークフローを再構築するアプローチを目指す。
レイオフをせずに人材を拡充:グローバルな不況下でも社員を大切にし、企業文化としてPurpose-drivenを実践。社員のロイヤリティが高い。
有機的成長で高い利益率と時価総額:大型買収に依存せず、クロスセルで安定収益を拡大。結果として時価総額2,000億ドル超を実現し、さらに伸び代が期待される。
私TTTとしては、これらの特長が示す通り、ServiceNowが持つポテンシャルは計り知れないと感じる。ITサービス管理という“企業の屋台骨”の部分で揺るぎないシェアを確立しつつ、AIや自動化で新たな価値創出を狙う戦略は、まさに今の時代が求める方向性でもあるのだ。
日本企業にとっても、労働力不足やデジタル化の遅れ、セキュリティリスクの増大といった課題を解決するうえで、ServiceNowのプラットフォーム活用は大きな武器になるだろう。一度導入すれば、組織横断的な業務改善が可能になり、企業全体の生産性と柔軟性が飛躍的に高まる。
最後に私が強調したいのは、こうした大型クラウド企業が歩んできた道を振り返るとき、成功の秘訣は「市場ニーズを正確に捉えた継続的なイノベーション」にあるということだ。ServiceNowはITSMの枠を超え、プラットフォーム全体でDXを牽引する姿勢を崩していない。だからこそFANG+に選ばれ、今後もその存在感を増していくに違いない。
日本の投資家やビジネスリーダーにも、ぜひこのServiceNowという企業が持つ可能性を再確認してほしい。私に言わせれば、次なるIT巨頭の一角として注目に値する企業であり、その成長物語はまだまだこれから多くの章を残していると感じる。