富山の生物多様性：地域戦略・保全利用を考える

2020年4月28日 13:38

飛騨の山々と数多くの河川が多様な地形をなし、生物にとって様々な生育場所をもたらし、富山の生物多様性を特徴づけています。

はじめに

生物多様性の保全や利用を考える場合、どのような生き物が、どこに分布しているのかを把握することが、第一ステップになります。地域の住民の皆さんも、自分たちの周辺に、どのような生き物が暮らしているのかを知ることができれば、生物多様性への親しみや、理解も深まると思いました。このような意図から、日本の地方自治体（47都道府県）の生物多様性の特徴を可視化して、保全利用に関わる科学情報を普及させていくことにしました。

この記事では、富山の生物多様性の保全利用計画に関する分析結果をお知らせしていきます。新たな分析結果が出力でき次第、随時その内容も加えて、この記事自体を更新していくつもりです。また、この解説は、日本の生物多様性地図化ウエブサイト（保全カードシステム）と連動させて情報提供していきます。

生物多様性の様々な地図情報（レイヤー）を、チャンネルを切り替えて閲覧できますので、以下サイトもご覧ください。

富山県の生物多様性を特徴づける環境条件

富山県は、日本海に面しており、内陸には飛騨山脈（北アルプス）や両白山地や飛騨高地（飛騨山地）が連なり、周囲の県（新潟・長野・岐阜・石川県など）との境界をなしています。このため、富山県の全域は、豪雪地帯です。

飛騨山脈（北アルプス）には、日本海沿いの親不知が北端の後立山連峰、その西に並んで連なる立山連峰、黒部川源流部の山々、そして穂高連峰（奥穂高岳3190m）や乗鞍岳（3026m）などが主稜線をなし、その東に常念山脈が連なっています。

富山県南部の飛騨高地（飛騨山地）には、白木峰（1596m）や猿ヶ馬場山（さるがばんばやま）（1875m）など標高1500mから1700mの山々が連なっています。

飛騨高地（飛騨山地）の西には両白山地があり、白山（2702m）からなる加越山地と、能郷白山（1617m）からなる越美山地が連なっています。

両白山地の北端からは、能登半島のつけ根にかけて、宝達丘陵がのびています。

これらの山地からは多数の河川が源を発して、富山平野（東部の新川平野、西部の射水平野および砺波平野を含む）や、黒部川扇状地を形成しています。

なお、富山平野と射水平野あるいは砺波平野は、呉羽丘陵で隔てられています。

飛騨高地（飛騨山地）から流れる神通川や常願寺川は、富山平野をぬけて富山湾に注いでいます。また、庄川や小矢部川は、砺波平野と射水平野をぬけて富山湾に注いでます。小矢部川下流の北西には、二上丘陵がのび、射水平野の高岡と氷見を隔てています。

飛騨山脈から流れる、黒部川や片貝川や早月川は、黒部川扇状地や新川平野をぬけて富山湾に注いでいます。

以上のような、飛騨の山々と数多くの河川が多様な地形をなし、生物にとって様々な生育場所をもたらし、富山の生物多様性を特徴づけています。

それでは、富山の生物多様性（植物・動物の種数）の地図を見てみましょう。

生物多様性の可視化：種数地図

生物種の分布予測を元にして、種数を１kmスケールのメッシュごとに数え上げて、地図化した結果を以下に紹介します。赤色のメッシュは種数が多い地域です。

維管束植物（木本・草本・シダ）の種数が豊かな地域は、黒部川や片貝川や早月川の下流域の黒部川扇状地や新川平野、神通川の中上流域、およびそれらの河川流域から飛騨山脈の山腹にかけての一部、庄川や小矢部川の流域の一部などです。

名称未設定

土地利用の変化が日本の生物多様性に与えた影響については以下の記事をご覧ください。分析方法と日本全体の傾向がわかります。

哺乳類の種数が豊かな地域は、飛騨山脈や飛騨山地の山麓から山腹にかけて、立山連峰の山腹、黒部川源流部、神通川や常願寺川の上流域、庄川・小矢部川の上流域の一部などです。

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鳥類の種数が豊かな地域は、富山湾沿岸の富山平野東部の新川平野、黒部川下流域、庄川・小矢部川の流域および砺波平野や射水平野などです。

名称未設定

爬虫類の種数が豊かな地域は、黒部川下流域や新川平野、神通川や常願寺川の上流域、呉羽丘陵や庄川・小矢部川の流域、砺波平野の西部などです。

名称未設定

両生類の種数が豊かな地域は、両白山地の北端から宝達丘陵にかけて、砺波平野の西部の山麓、黒部川中流域や新川平野、飛騨山脈や飛騨山地の山麓と富山平野の上端地域や呉羽丘陵などです。

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淡水魚類の種数が豊かな地域は、神通川や常願寺川の流域、黒部川や片貝川や早月川の流域、庄川や小矢部川の流域、氷見平野の水系などです。

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生物多様性の保全重要地域を特定する方法

生物多様性の保全重要地域はどこですか？と聞かれたら、多くの人は「生物の種類数が豊かな地域」と答えるかもしれません。その解答は、ある意味正しいのですが、他にも考えるポイントがあります。

生き物のレア度：希少性

例えば、生物の種数は少なくても、他の場所には存在しない、そこだけに分布する生き物（固有な生物種）がいたら、そこは、生物多様性を保全する上で、かけがえのない場所と言えます。

つまり、保全重要地域を特定する場合、生物の分布情報を基にして、レアな＝希少な生き物が、どれくらい分布しているのかを定量する必要があります。

保全政策上の重要生物：絶滅危惧種

また、生き物の種類によっては、絶滅が危惧されている種もいます。そのような生物はレッドリスト種に指定されて、重点的な保全施策が図られています。したがって、絶滅危惧種が分布しているかどうかも、かけがえのない場所を特定する上で考慮する必要があります。富山県は2002年に県版レッドデータブックを編纂して、その後改訂をして「レッドデータブックとやま2012」を発表しています。

生物の機能：人間社会にとっての生物の価値（生態系サービス）

生き物は様々な機能を持っていて、私たちは生物を資源として利用し、生物多様性や生態系サービスの恩恵に浴しています。したがって、それぞれの生き物が持っている価値も、かけがえのない場所を特定する上で重要な情報になります。

ここでもう一つ問題があります。それは私たち人間社会の都合です。

地域社会の経済活動

例えば、市街地や農地のように経済活動が活発な土地区画は、富山県の地域社会の持続的発展のために重要なエリアです。つまり、私たち人間にとって重要な土地区画を維持しつつ、生物多様性を保全して、両者のバランスをうまく調整する必要があります。

そこで、富山県内の１km x １km土地区画メッシュ全ての、人口・道路密度・市街地・農地など社会経済に関するデータも整備します。

これによって、地域社会の経済活動が活発なエリア（特に人口密度の高い土地区画）を避けつつ、生物多様性を保全する上で、かけがえのない場所はどこか？を探索することができます。

具体的には、富山県を１km x １kmの土地区画メッシュに分割して、それぞれのメッシュに、どれくらいレアな生き物がいるのか、どれくらい絶滅危惧種がいるのか、どれくらい価値ある生物がいるのかを定量して、場合によっては、利害関係者の要望を元に、例えば地域社会の経済活動が活発なエリア（特に人口密度の高い土地区画）を考慮しつつ、生物多様性を保全・利用する上で、どのメッシュがどれくらい重要なのかを順位付けします。これは、生物多様性の空間的保全優先地域の順位付け分析と呼ばれます。

富山県の生物多様性の保全重要地域

維管束植物（木本・草本・シダ植物）と脊椎動物（哺乳類・鳥類・爬虫類・両生類・淡水魚類）を統合して、生き物の種ごとの希少性・レッドリストランク・有用性などを考慮して、富山県の生物多様性保全の重要地域を順位づけした結果が以下の地図です。

注）土地区画の社会経済的価値も組み込んだ分析結果は今後公開予定です。

富山県の生物多様性の保全重要地域は、黒部川や片貝川や早月川の下流域の黒部川扇状地や新川平野、庄川や小矢部川の下流域や氷見、神通川の下流域、呉羽丘陵、飛騨山脈の山嶺部、常願寺川源流の山腹、黒部渓谷周辺、飛騨高地の白木峰周辺などです。

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以上は植物と脊椎動物の地図情報を統合して、全生物分類群を包括して保全優先地域をスコアリングした結果でした。

次に、それぞれの生物毎に保全重要地域を見てみましょう。

維管束植物（木本・草本・シダ）の種多様性を保全し、種の絶滅率を最小化する上での保全重要地域は、飛騨山脈の山嶺部（立山連峰）や黒部川源流部、穂高連峰などの主稜線や常念山脈、黒部川や片貝川や早月川の中下流域の一部、神通川の中上流域などです。富山県レベルで見ると、庄川や小矢部川の流域なども保全重要地域です。

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哺乳類の種多様性を保全し、種の絶滅率を最小化する上での保全重要地域は、飛騨山脈や飛騨山地の山麓から山腹にかけて、立山連峰の山腹、黒部川源流部、神通川や常願寺川の上流域などです。富山県レベルで見ると、神通川や庄川や小矢部川の下流域や呉羽丘陵も保全重要地域です。

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鳥類の種多様性を保全し、種の絶滅率を最小化する上での保全重要地域は、富山湾沿岸の富山平野（東部の新川平野、西部の射水平野および砺波平野を含む）、黒部川下流域、庄川・小矢部川の下流域の砺波平野や射水平野などです。全国レベルで見ると、飛騨山脈の山嶺部（立山連峰や穂高連峰などの主稜）一部の保全重要度が高くなります。

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