群馬の生物多様性：地域戦略・保全利用を考える

2020年4月27日 07:55

三国山脈や利根川や関東平野がなす地形の複雑さと、それらに関係した気候の地域性が、生き物の生息環境の多様性を生み出し、群馬の生物多様性を特徴づけています。

はじめに

生物多様性の保全や利用を考える場合、どのような生き物が、どこに分布しているのかを把握することが、第一ステップになります。地域の住民の皆さんも、自分たちの周辺に、どのような生き物が暮らしているのかを知ることができれば、生物多様性への親しみや、理解も深まると思いました。このような意図から、日本の地方自治体（47都道府県）の生物多様性の特徴を可視化して、保全利用に関わる科学情報を普及させていくことにしました。

この記事では、群馬の生物多様性の保全利用計画に関する分析結果をお知らせしていきます。新たな分析結果が出力でき次第、随時その内容も加えて、この記事自体を更新していくつもりです。また、この解説は、日本の生物多様性地図化ウエブサイト（保全カードシステム）と連動させて情報提供していきます。以下サイトもご覧ください。

群馬県の生物多様性を特徴づける環境条件

群馬は関東の北部に位置している内陸の県です。

群馬県北部の新潟県境には、谷川岳（1977m）などの谷川連峰（万太郎山・仙ノ倉山・茂倉山）を含む三国山脈が連なっています。三国山脈は、本州の日本海側と太平洋側を分ける中央分水嶺です。

そして、三国山脈の大水上山（大利根山）（1840m）からは利根川が発して、県北東部から流れてくる片品川や、谷川連峰の万太郎山などから発する赤谷川などを合流して、群馬県の中央を流れくだり、関東山地からの神流川も合流し、その流域は関東平野の北端をなしています。

県の中央の利根川の東には、火山の赤城山の峰々（黒檜山1828mなど）が連らなり、大沼や小沼のようなカルデラ湖が分布しています。

三国山脈の西部には草津白根山（2160m）、長野県境には浅間山（2568m）がそびえています。長野県境の鳥居峠からは吾妻川が発して、浅間山や草津白根山の山麓の間を東に流れて、利根川に合流します。

県の中央の利根川の西（吾妻川の南）には、榛名山（1449m）の峰々があり、カルデラ湖の榛名湖が分布しています。

県北東部の福島県境には至仏山（2228m）がそびえ、その高原には尾瀬、栃木県境には日光白根山（2578m）や足尾山地が連なり、渡良瀬川が栃木に流れています。

群馬県の南西部の長野や山梨の県境には、関東山地が連なり、高天原山（1979m）や妙義山（1104m）などがそびえます。山々から流れ出る河川（烏川、碓氷川、鏑川、神流川）が、関東平野の北端で利根川に合流しています。

以上のように、群馬県は本州の中央分水嶺をなす山々があり、利根川の上流域で関東平野の北端に位置しており、日本海側気候と太平洋側気候の両方に影響され、気温や降水量の地域差が顕著です。

山や河川や平野などの地形の複雑さと、それらに関係した気候の多様性が、生き物の生息環境の多様性を生み出し、群馬の生物多様性を特徴づけています。

それでは、群馬の生物多様性（植物・動物の種数）の地図を見てみましょう。

生物多様性の可視化：種数地図

維管束植物（木本・草本・シダ）の種ごとの分布予測を元にして、植物種数を１kmスケールのメッシュごとに数え上げて、地図化したのが下の図です。赤い色のメッシュは植物種数が多い地域です。

維管束植物（木本・草本・シダ）の種数が豊かな地域は、群馬県北東部の尾瀬や日光白根山の周辺から足尾山地の山腹にかけて、赤城山や榛名山の周辺、吾妻川上流域における三国山脈の草津白根山山麓や浅間山山麓、関東山地の山腹、利根川の上流域（片品川・赤谷川）や神流川流域や渡良瀬川流域などです。

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土地利用の変化が日本の生物多様性に与えた影響については以下の記事をご覧ください。分析方法と日本全体の傾向がわかります。

哺乳類の種数が豊かな地域は、群馬県東部の足尾山地、群馬県北東部の尾瀬や日光白根山の周辺、三国山脈の山嶺から山麓にかけての一部、吾妻川上流域の草津白根山の周辺や浅間山山麓、関東山地の山嶺の一部などです。

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鳥類の種数が豊かな地域は、利根川や吾妻川の流域、利根川の支流の烏川、碓氷川、鏑川などの流域、渡良瀬川流域、およびそれらの河川が形成する関東平野の北端部です。

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爬虫類の種数が豊かな地域は、足尾山地南部の山腹から渡良瀬川流域にかけて、関東山地の山麓、烏川や碓氷川や鏑川などの流域、三国山脈の山腹および利根川の上流域（片品川）の一部などです。

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両生類の種数が豊かな地域は、足尾山地南部の山腹から渡良瀬川流域にかけて、三国山脈の山腹から山麓にかけての一部、および利根川の上流域（片品川・赤谷川）の一部、関東山地山麓の烏川や碓氷川や鏑川などの上流域の一部などです。

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淡水魚類の種数が豊かな地域は、県南部の関東平野北部の水系で、利根川（片品川・赤谷川）や吾妻川の流域、利根川の支流（烏川、碓氷川、鏑川など）流域、渡良瀬川流域などです。

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生物多様性の保全重要地域を特定する方法

生物多様性の保全重要地域はどこですか？と聞かれたら、多くの人は「生物の種類数が豊かな地域」と答えるかもしれません。その解答は、ある意味正しいのですが、他にも考える要素があります。

生き物のレア度：希少性

例えば、生物の種数は少なくても、他の場所には存在しない、そこだけに分布する生き物（固有な生物種）がいたら、そこは、生物多様性を保全する上で、かけがえのない場所と言えます。

つまり、保全重要地域を特定する場合、生物の分布情報を基にして、レアな＝希少な生き物が、どれくらい分布しているのかを定量する必要があります。

保全政策上の重要生物：絶滅危惧種

また、生き物の種類によっては、絶滅が危惧されている種もいます。そのような生物はレッドリスト種に指定されて、重点的な保全施策が図られています。したがって、絶滅危惧種が分布しているかどうかも、かけがえのない場所を特定する上で考慮する必要があります。群馬県は2001年にレッドデータブックを発刊して、その後も調査検討を行ってリストの改訂を行って、「群馬県レッドデータブック2012」を発表しています。

生物の機能：人間社会にとっての生物の価値（生態系サービス）

生き物は様々な機能を持っていて、私たちは生物を資源として利用し、生物多様性や生態系サービスの恩恵に浴しています。したがって、それぞれの生き物が持っている価値も、かけがえのない場所を特定する上で重要な情報になります。

ここで、もう一つ問題があります。それは私たち人間社会の都合です。

地域社会の経済活動

例えば、市街地や農地のように経済活動が活発な土地区画は、群馬県の地域社会の持続的発展のために重要なエリアです。つまり、私たち人間にとって重要な土地区画を維持しつつ、生物多様性を保全して、両者のバランスをうまく調整する必要があります。

そこで、群馬県内の１km x １km土地区画メッシュ全ての、人口・道路密度・市街地・農地など社会経済に関するデータも整備します。

これによって、地域社会の経済活動が活発なエリア（特に人口密度の高い土地区画）を考慮した上で、生物多様性を保全する上で、かけがえのない場所はどこか？を探索することができます。

具体的には、群馬県を１km x １kmの土地区画メッシュに分割して、それぞれのメッシュに、どれくらいレアな生き物がいるのか、どれくらい絶滅危惧種がいるのか、どれくらい価値ある生物がいるのかを定量して、場合によっては、利害関係者の要望を元に、例えば地域社会の経済活動が活発なエリア（特に人口密度の高い土地区画）を考慮しつつ、生物多様性を保全・利用する上で、どのメッシュがどれくらい重要なのかを順位付けします。これは、生物多様性の空間的保全優先地域の順位付け分析と呼ばれます。

群馬県の生物多様性の保全重要地域

維管束植物（木本・草本・シダ植物）と脊椎動物（哺乳類・鳥類・爬虫類・両生類・淡水魚類）を統合して、生き物の種ごとの希少性・レッドリストランク・有用性などを考慮して、群馬県の生物多様性保全の重要地域を順位づけした結果が以下の地図です。

注）土地区画の社会経済的価値も組み込んだ分析結果は今後公開予定です。

群馬県の生物多様性の保全重要地域は、尾瀬周辺から日光白根山のかけての山嶺部、三国山脈の山嶺部（草津白根山など）、浅間山の周辺、利根川や渡良瀬川の流域など関東平野北部の一部などです。

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以上は植物と脊椎動物の地図情報を統合して、全生物分類群を包括して保全優先地域をスコアリングした結果でした。次に、それぞれの生物毎に保全重要地域を分析してみました。

次に、それぞれの生物毎に保全重要地域を分析してみました。

維管束植物（木本・草本・シダ）の種多様性を保全し、種の絶滅率を最小化する上での保全重要地域は、尾瀬周辺から日光白根山のかけての山嶺部、三国山脈の山嶺部（草津白根山など）、浅間山や妙義山の周辺、赤城山や榛名山、利根川（片品川・赤谷川）や吾妻川上や渡良瀬川の上流域などです。

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哺乳類の種多様性を保全し、種の絶滅率を最小化する上での保全重要地域は、三国山脈の山嶺から山腹にかけて、尾瀬周辺から日光白根山のかけての山嶺部、浅間山周辺、利根川（片品川・赤谷川）や吾妻川上や渡良瀬川の上流域などです。

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鳥類の種多様性を保全し、種の絶滅率を最小化する上での保全重要地域は、県南部の関東平野の北端部で、利根川および支流の烏川、碓氷川、鏑川、神流川の流域、渡良瀬川流域、三国山脈（草津白根山）の山腹などです。

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爬虫類の種多様性を保全し、種の絶滅率を最小化する上での保全重要地域は、足尾山地南部の山腹から渡良瀬川流域にかけて、三国山脈の山腹および利根川の上流域（吾妻川・片品川・赤谷川）の一部、関東山地の山麓の河川流域（烏川・碓氷川・鏑川・神流川）の一部などです。

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両生類の種多様性を保全し、種の絶滅率を最小化する上での保全重要地域は、足尾山地南部の山腹から渡良瀬川流域および赤城山にかけて、利根川の上流域（片品川・赤谷川）、関東山地の高天原山山麓の烏川や碓氷川や鏑川などの上流域の一部などです。

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淡水魚類の種多様性を保全し、種の絶滅率を最小化する上での保全重要地域は、県南部の関東平野北部の水系で、利根川上流（片品川・赤谷川）や吾妻川の流域、利根川の支流（烏川、碓氷川、鏑川、神流川）流域、および渡良瀬川流域などです。

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群馬県レッドデータブック（RDB）事業の検証

生物分布データを用いて、群馬県RDBにリストされている種の希少性を分析しました。分析の意図と手法については以下の記事を参照してください。

生物分類群ごとにRDBにリストされている種の分布メッシュ数（面積）を定量しました。分布面積の小ささが希少性の度合いになります。

維管束植物と脊椎動物（哺乳類・鳥類・爬虫類・両生類・淡水魚類）を見ると、RDBランクが高いほど、縦軸の該当種の分布メッシュ数が少ない傾向があります。種の希少性を比較的よく反映したランク付けになっています。ただし、現RDB「指定なし」にも（横軸の右端のランクに）希少種が含まれており、またRDBランク間の希少性の違いが必ずしも明確でなく、希少性評価に歪みがあることも推察されます。

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