【三寸の舌の有らん限り】[18]-高橋是清02-(1614文字)

 金本位制(通貨と金を交換できる仕組み)を、最初に採用したのは英国であった。
 ヨーロッパ各国も英国に追随し、金本位制の導入を行なった。

 通貨が金と交換できることは、通貨の信用を確かなものとする。

 しかし同時にデメリットもあった。国家は、自らが保有する金の総保有量までしか通貨を持つことができない。

 日本が金本位制を採用したのは、明治30年(1897年)であった。
 尚、ロシアも同年に金本位制を採用している。

 金本位制とは、通貨価値を金で表す事で、通貨は常に金と交換(兌換)できる必要があった。
 
 日本は日清戦争における清国からのない賞金を原資に金本位制を採用したが、これは何も日本銀行の金庫に物理的に保有するゴールドがうなっているわけではなかった。
 
 清国からの賠償金は、在外正貨として英ポンドでロンドンの銀行に預けられ、その貯金残高をベースに、日本は兌換紙幣を発行したのである。
[略]
 通貨が金との兌換を維持するためには、発行者は通貨の発行量に応じて金を保有しなければならない。
 これを逆に言えば、世界各国は金の保有量に応じた以上には通貨を発行できないことになる。
[略]
 金を獲得るすには金鉱山を持ち、金の採掘ができれば一番良いのだが、それが無い場合には、輸出によって外貨を稼がねばならない。
 また逆に言えば、物資を海外から輸入すると、金(正貨)が流出することも意味していた。

「日露戦争、資金調達の戦い」 著:板谷敏彦より

 日本の場合は、兵器をはじめ多くの物資を輸入に頼る必要があった。
 ロシアとの戦争は、多額の輸入が発生し、日本が保有する正貨の流出が伴う。
 日本が保有する正貨だけではロシアとの戦争が不可能であれば、海外から正貨を借りなくてはならない。
 また国内での支払いに対して兌換紙幣を発行すれば、その分の正貨を保有しなくてはならない。でなければ、日本は金本位制を維持できなくなる。

 この当時、日本銀行が所有する正貨は1億1700万円であった。

 高橋是清たかはしこれきよらが推測した、日露開戦後から1年間の期間に、海外に流出するであろう正貨の金額は以下の通りとなっている。

 外国銀行が持ち出す正貨      3,500万円
 輸入品の代価支払いで流出する正貨 3,000万円
 --------------------------------------------------------
                                                     合計  6,500万円

日本銀行が所有する正貨1億1700万円から、6,500万円を差し引くと、残りはわずか5,200万円であった。

 このうちには、開戦後 当然海外払いとなるべき軍需品代価は含まれおらぬ。甚だ心細き次第であった。

「高橋是清自伝(下)」 著:高橋 是清より


(続く)


■引用・参考資料■
●「金子堅太郎: 槍を立てて登城する人物になる」 著:松村 正義
●「日露戦争と金子堅太郎 広報外交の研究」    著:松村 正義
●「日露戦争・日米外交秘録」           著:金子 堅太郎
●「日露戦争 起源と開戦 下」          著:和田 春樹
●「日清・日露戦争における政策と戦略」      著:平野龍二
●「世界史の中の日露戦争」            著:山田 朗
●「新史料による日露戦争陸戦史 覆される通説」  著:長南 政義
●「児玉源太郎」                 著:長南 政義
●「小村寿太郎とその時代」            著:岡崎 久彦
●「高橋是清自伝(下)」             著:高橋 是清
●「日露戦争、資金調達の戦い」          著:板谷敏彦
●「明石工作: 謀略の日露戦争」         著:稲葉 千晴
●「ベルツの日記」                編:トク・ベルツ

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