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【司馬遼太郎さんがゆく】~秋葉権現と司馬さん~

この世には、人のことわりを超越した不可思議な出来事、というものが確かにある。

司馬遼太郎氏が、東京の「秋葉原」について書いていた時のことであった。

かって「秋葉原」は火除ひよけ地のひとつで、広大な空き地であったというー。

秋葉原という地名は、火伏ひぶせの神(秋葉権現)がまつられていたことから出たらしい。(略)江戸が火災の難に悩まされるにつれ秋葉信仰がひろまった。

司馬氏がそう原稿用紙に書いていた、ちょうどその時のことであった。

司馬氏の机の上は、資料や原稿用紙が幾重にも積み重なり小山のようにうず高くなっていた。

それは突然、とそう言ってもいいであろう。ぼうっ、と原稿用紙から火が出たのである。

慌てて火を消した司馬氏は、居間で資料整理を担当していた産経新聞のカメラマンと話をしている夫人のもとに行き、『いま不思議なことがあった』と真剣な顔で言うのであった。
『秋葉権現のことを書いていたら、原稿用紙の間からボッと火が出たんだ』とー。

いかにも、不思議なことであった。

しかし、お手伝いの女性の一人の発見が、この不可思議な出来事を、現実のありふれたものへと引き戻してしまう。

「秋葉権現じゃなくて、これです」とお手伝いの女性は断言する。

司馬氏が使用していた、卓上の小型ライターが資料の山の中に埋もれていた。
資料の重みで、ライターが点火したのが、発火の原因であった

この世には、人のことわりを超越した不可思議な出来事、というものが確かにある。

しかし、中には、単に人のそそっかしさが原因で起きる出来事も、同様に確かにある。

司馬氏のそれは後者であったー。

火の用心ですねー^^;。

(引用:週刊朝日MOOK「没後20年 司馬遼太郎の言葉」より)


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