【ミステリ感想】『京都なぞとき四季報 町を歩いて不思議なバーへ 』著:円居 挽 ~京と恋と日常の謎~
Hello world,はーぼです。
本作は、奈良県生まれで京都大学推理小説研究会出身の円居 挽さんによる、殺人事件の起らない日常系(でいいかな?)ミステリー連作短編集です。尚、この作品は『クローバー・リーフをもう一杯 今宵、謎解きバー「三号館」へ』を修正・改題したものです。
主人公は一浪して京都大学に入学した法学部1回生の遠近 倫人。
その彼がほのかに思いを寄せる相手は、同じ京都観光散策サークル「賀茂川乱歩」に所属する、理学部1回生で、謎が大好きな青河 幸。
男子高出身のためか、自分の想いをなかなか青河 幸に伝えられない遠近 倫人が遭遇する謎とその解決の推理の糸口を与えてくれる、京大キャンパス内に場所を転々として出没する謎のバー「三号館」の女性バーテンダー兼マスターの蒼馬美稀。
殺人が起きないため、謎自体はライトですが、張り巡らせた伏線や犯人限定のロジックなどで楽しませてくれる好短編集です。
(もっとも、遠近 倫人と青河 幸の恋の行方に関しては、ものすごく不完全燃焼ですが。あとタイトルは四季報となっていますが、本編で描かれる季節は春と夏です)
作品は5つの連作短編からなり、謎ときのきっかけとなる場所がバー「三号館」であることから、タイトルにカクテルの名前が織り込まれています。
(アルコールは基本ダメなので、どんなものかわかりませんが^^;)
第一話:「クローバー・リーフをもう一杯」
カクテルの名前「クローバー・リーフ」ともうひとつ、京都サヤカタクシーの表示灯にあるクローバーにかけています。
京都サヤカタクシーの表示灯に描かれているクローバーは基本、三つ葉なのですが、1200台中4台だけは四つ葉のクロバーなんだそうです。
4月。サークルの新歓イベントで京都の観光スポットを巡るサークルの面々。遠近 倫人と青河 幸が遭遇したのは、同じナンバープレートの四つ葉のクロバーのタクシーからどうみても消失したとしか思えないサークル仲間の勝ち気で美人な女性の謎。
翌日、謎が解けずに(青河 幸にかっこいい所をみせつけられずに)、たまたま夜の大学キャンパス内を歩いていた遠近 倫人は、これまた、たまたま明かりのついていた部屋に気が付き、中に入ってみます。
そこは、蒼馬美稀という二十代後半の謎の女性バーテンダーがいる「三号館」という、神出鬼没のバーでした。
カクテルのお代はお金ではなく、「謎」という一風というかかなり変わった料金システムのバーで、バーテンダー蒼馬美稀が遠近 倫人に示唆する謎解きのヒントとその結末はー。
さりげなく、しかも大胆に張られていた伏線というか謎解きのヒント、これにボクは気づきませんでしたねー。でもちょっと、日常系ミステリにしては、やや複雑な謎解きかなーという感じです。負け惜しみですが^^;。
第二話:「ジュリエットには早すぎる」
謎はすごくシンプルです。
5月。鴨川をどりの見物に出かけたサークルメンバー4人。遠近 倫人は青河 幸の席が、自分の右斜め前であることを確認するが、トイレで席を立ったあと、戻ってくると、なぜか自分の席が青河 幸の隣になっていた。
大学の吉田キャンパスをうろつきながら、バー「三号館」を探し出し、蒼馬美稀から解決のヒントをもらい真相にたどりついた遠近 倫人が犯人にしたお返しとはー。
これぞ、「日常の謎」作品のお手本という短編ではないかと思います。
謎のタネ自体はなぁんだといわれるくらいシンプル。
しかし「日常の謎」の魅力はHOW(どのような方法で)の謎よりも、WHO(誰が)・Why(なぜそんなことをしたのか)の謎を重視することで生まれる、後味のよい読後感だと思います。
第三話:「ブルー・ラグーンに溺れそう」
6月。京都水族館を訪れた散策サークル。そこで偶然、遠近 倫人と青河 幸が出会った女性、藤ミーナ。
一緒に水族館を回り、最後のイルカのショーを見てる最中に、藤ミーナが突然席を立ち行方をくらまします。しかし、出口から出て行ったものは誰もいなかったのです。
消失事件の手がかりを求めて、遠近 倫人と二十歳になったばかりの青河 幸はバー「三号館」へと赴くのでした。
これまた、上手く張られた伏線に気づけませんでした。謎解きを読んで、ああなるほど、と消失事件の理由に合点がいきます。
でも物語としては、ホッとするラストで、後味がよいものでした。
第四話:「ペイル・ライダーに魅入られて」
7月。祇園祭の宵山でおきた事件。
あえてあらすじは書きませんが、モンティ・ホール問題という確率論をテーマにしたパズル小説の趣がある作品です。
珍しく悪意と行き過ぎた想いが招く苦さと痛々しさを残す内容となっています。
第五話:「名無しのガフにうってつけの夜」
7月。キャンパス内に神出鬼没のバー「三号館」を襲う最大の危機、放火事件。
「三号館」の消失、そしてバーテンダー蒼馬美稀の行方はー。
泡坂妻夫さんが短編で使いそうな大掛かりなトリック、そして蒼馬美稀の助けがなくても、立派にブラフとエラリー・クィーンばりの犯人限定ロジックで真相を推理する遠近 倫人。
成長したわねー、あんた。と、まるでおかんになったような気持ちになってしまいます^^;。
最終短編である本編ラストの1行は、さながら名探偵の帰還といったところでしょうか。おもわずニヤリとしてしまう、いい終わり方でした。
四季といいながら春と夏で本編は終わっていますが、秋と冬は続編の『京都なぞとき四季報 古書と誤解と銀河鉄道』で描かれるのでしょうか。そして本編ではあまり進展しなかった遠近 倫人と青河 幸の恋の行方がどう着地するのか、こうご期待といったところでしょうか。
ではでは。最後までお読みいただきありがとうございます。
See you next time,はーぼでした。