【ミステリ感想】届かない1%『彼女の色に届くまで』(似鳥 鶏:著)
Hello world,はーぼです。
『天才とは1%のひらめきと99%の努力である』と言ったのはエジソンで、その真意は何であるかはわかりませんが、どうも天才と呼ばれる人たちを見た際に、どうしても1%のひらめきの部分に目が行って、99%の努力の部分には、なかなか陽が当たらない傾向があるように思えます。
本日、読んだのは似鳥 鶏さんの、「絵画+青春ミステリ」というべきでしょうか。『彼女の色に届くまで』という作品です。
主人公は画商を父に持ち、画家を目指している少年、「緑川礼」。
彼が高校の美術部時代に遭遇した事件が2つ、芸大大学生時代に遭遇する事件がひとつ、父が経営する画廊の従業員として遭遇した事件がひとつ、の合計4つの、すべて絵画が絡む事件が第1章から第4章まで語られます。
ひとつひとつの事件はそれぞれの章で、犯人と犯行方法とその動機は明らかにされます。
この作品の特徴は、以下の2点ではないかと思います。
1.事件の解明の糸口として絵画が使われる。
2.事件の謎を最初に解くのは、寡黙で、天才的画力の美少女「千坂桜」。
だけどあまりに千坂桜の説明が端的すぎるため、千坂桜の言葉で真相に気づいた「緑川礼」が、丁寧に真相を説明する。
緑川礼君はワトソン役というよりも、天才にわずかに一歩届かない(だけどちゃんときっかけがあれば真相にたどり着ける)秀才といったところでしょうか。
絵画が事件解決の糸口になると書きましたが、実際に各章のタイトルとそこで使われている絵画を紹介したいと思います。
第一章 雨の日、光の帝国で 絵画:ルネ・マグリッド『光の帝国』
第二章 極彩色を越えて 絵画:ジャクソン・ボロック『カット・アウト』
第三章 持たざる密室 絵画:エドゥアール・ヴェュイヤール『室内にて』
第四章 嘘の真実と真実の嘘 絵画:作者不詳『ガブリエル・デストレとその妹』
絵画について全く知識を持ち合わせていないので、これらの作品の知名度がどの程度か全くわからないのですが^^;。
糸口になっているとは言え、決して絵画の専門知識がないと解けない謎ではないので、その点では読む人を選ぶ作品ではないと言えます。
各章で起きる不可能犯罪的事件はそれぞれ各章のなかで解決を見ます。
しかし、終章 いつか彼女を描くまで で、それまでの各章で隠されていた謎が回収され、奥深くにある真相が明らかにされます。
それはあたかも絵の下にもう一枚の絵が隠されていたかのようなものでした。
画家を目指しながらも、自分では太刀打ちできない画才を「千坂桜」から見い出した「緑川礼」が、少女に対して抱く複雑な気持ち。しかし、それは決して、持たざる者の嫉妬ではありませんでした。
僕だって隣に千坂がいる。だから毎日、自分に言い聞かせて我慢している。
隣に勝者がいるのはチャンス。何かの拍子に自分も見つけてもらえるかもしれないし、そうでなくても隣から盗める。そういうふうに考えられる人間が。きっと最後には勝つ。
終章で明らかにされた真相について、「千坂桜」と「緑川礼」がどう向き合うか、その過程を読みながらハラハラしましたが、後味よく幕が引かれたと思います。
秋の日、絵画+青春ミステリーを味わせていただきました。
ではでは。最後までお読みいただきありがとうございます。
See you next time,はーぼでした。
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