【三寸の舌の有らん限り】[11]-児玉源太郎04-(1311文字)
ロシアと戦争をして、勝つ見込みがあるのかどうかー。金子堅太郎の問いに、児玉源太郎はこう答えたと、後に金子堅太郎は講演で語っている。
「そのために僕は着の身・着のままで、カーキ色の服を着て、兵卒の寝る寝台に赤毛布をひっかぶって寝て、この参謀本部で三十日も作戦計画をしているのだ」
「ああそうか。そうして見込みはどうか。三十日の結果はどうか」
「さあ、まあ、どうも何とも言えぬが五分五分と思う」
率直に児玉源太郎は答え、そして言葉を続ける。
「しかし、五分五分ではとうてい始末がつかぬ。解決がつかぬから、四部六部にしようと思って、この両三日、非常に頭を痛めている。四部六部にして、六ぺん勝って四へん負けるとなれば、そのうちに誰か調停者が出て来るであろう。それにはまず第一番目の戦争が肝要だ。第一の戦に負けたら士気が沮喪してしまう[=気力がくじけるてしまう]。だから、第一に鴨緑江あたりの戦でロシアが1万でくればこちらは2万、3万でくればこちらは6万というように倍数をもって戦うつもりで、いまちゃんと兵数を計算し、兵器・爆弾を集めてその用意をしている。いったん倍数をもって初度の戦に勝てば日本の士気がふるって来る」
だから、その計画を今しているのだー、と児玉源太郎は言う。
「そうか。それでは僕がアメリカに行ってニューヨークの大講堂において、日本に同情を寄せよ、ロシアは実にけしからぬ国である、日本は国を賭して戦っている、という大雄弁をふるっている最中に、日本は負け戦という電報は四度くるね」
「それは仕方ない。しかし、その代わり僕が六度勝戦の電報をやるようにするから、そのつもりでいたまえ」
児玉源太郎がロシア軍との本格的な戦闘における初戦の勝利に、いかに重点を置いているかが、その言葉からわかる。
敵の倍の兵力・火力を投入し、敵の士気を打ち砕き味方の士気を高め、対ロシア戦の主導権を握るという戦術的なことにとどまらず、外債募集が円滑に行うことができるであろうという効果も考えていた。
しかし渡米し、アメリカ世論を日本に寄せるという使命を背負った金子堅太郎にとって、6度勝って4度負ける見込みは、いささか心細いものであったことだろう。
陸軍の対ロシア戦の見込みを得た金子堅太郎は、その足で海軍省に向った。
海軍大臣の山本権兵衛に会い、海軍の勝つ見込みを聞くためであった。
(続く)
■引用・参考資料■
●「金子堅太郎: 槍を立てて登城する人物になる」 著:松村 正義
●「日露戦争と金子堅太郎 広報外交の研究」 著:松村 正義
●「日露戦争・日米外交秘録」 著:金子 堅太郎
●「日露戦争 起源と開戦 下」 著:和田 春樹
●「世界史の中の日露戦争」 著:山田 朗
●「新史料による日露戦争陸戦史 覆される通説」 著:長南 政義
●「児玉源太郎」 著:長南 政義
●「小村寿太郎とその時代」 著:岡崎 久彦
●「明石工作: 謀略の日露戦争」 著:稲葉 千晴
●「ベルツの日記」 編:トク・ベルツ