事件は会議室じゃない、調理室で起きている
コロナ前は5年程、大量調理施設で働いた経験があります。どの業界も大変だと思いますが、料理の提供・翌日使う食材の仕込み・厨房の清掃・食材発注、書類の記入と時間がいくらあっても足りません。
常に時間に追われている毎日。ぶつかり合う味へのこだわり、徹底した衛生管理、一度に複数の調理をこなすのに必須な手際の良さなど…この閉鎖された空間で、猛烈に感じていました。「事件は会議室じゃない、この調理室で起きている」
もちろん勤務年数が長くなるにつれて出来ることも増えていき、効率よく厨房を回せるような技は身についてくるのですが、やっぱり強烈に覚えているのは慣れてない時や気を抜いた時に起こったトラブルなど…どんなに気を付けていても起きてしまうことはあります。人間だもの(全て個人的なものです)
他の大量調理施設の厨房事情は分かりませんが、こんなこともあったっていうのがあれば教えてください。
①炊けてない米
どんなにパンや麺が好まれようと、日本のランチ業界はまだ圧倒的に米が制している(と思う)
特にうちの施設(保育園)では、米が主役の日はちょっと多めに炊いていた。カレーとか中華丼、親子丼、おかわりも多いしやっぱりみんなお米が大好き。大量なんで(230人分くらい)生米で15kg、16kgくらいある。
ある日の給食、カレーも出来て、サラダもできて、果物も準備できた。あとはご飯が炊けるのを待つだけ。チラっと大釜に目をやると、湯気が出ていない。
嫌な予感がして、蓋を取ってみると…
シーン
炊けてねぇ!!!
その場にいる4人全員の時が一瞬止まった。蓋の中には、加熱も何にもされてない生米が静かに水に浸かっていた。電源コンセントを目で追うと…差さってない!
次の瞬間、全員の頭がフル回転。配膳時間まで後50分…間に合わせるにはどうする!!?調理室内中にある釜や鍋を引っ張り出して、小分けにして炊き上げることで奇跡的に間に合ったのだった。
米炊かれてない問題、マジ生命線。
②1つ足りないおかず
大量調理の場合は、1人分当たりの食材量をきちんと計算して発注し、200個だろうが300個だろうが必死に数えながら作っている(はず)
しかし、あんなに複数人で何回も数えたのに、配膳し始めると何故か1つだけおかずが足りない事件が発生することがある。
その日の給食はみんな大好きコロッケだった。子どもは一人1個ずつ、大人は一人2個ずつ、その日も200個以上せっせと丸めて大きな鍋で揚げていた。
208、209、210…よし!これで足りるだろう!
何かあった時のために少し多く作っておく、これ鉄則。そして園内の食堂で配膳がスタート、最初は順調にコロッケが無くなっていく。
しかし配膳も最後の方になると…雲行きが怪しくなってきた。目の前のコロッケと並んでる人間の数が合わない。
1、2、3、4…1個足りねぇ!!
光の速さで調理室に連絡、急遽不足分を作って間に合わせたのだった。誰が数え間違えたのか、誰かが多く食べちゃったのかそこでは問い詰めたりしない、誰かを責めても無いものは無い。
みんなで数えてるのに…1個足りなくなる魔法をたまに誰かがかけている。
③古い調理施設
大量に食事を限られた時間で作るには、大きな釜や鍋、調理台や流しなどそれなりの設備が必要になる。しかし、これが結構高いのだ。(数万~数百万)
うちの施設では、ずっと少し古いオーブンを使っていた。ボタンを押してすぐ火が付いて、丁度よく火加減も調整できるような、そんな便利なものは揃っていなかった。
重い鉄の扉を開け、着火マンで4ヶ所火を点け、火の温度を自分の勘で調整する…しかし、始めの頃はその感覚をつかむのはかなり難しい。
鶏の照り焼きのメニューのある日、調理室は猛烈にバタバタしていた。大釜で炊いた13㎏の米を保温ジャーに移し、顔が入るくらいのお玉でスープを保温ジャーに移し、デザートのリンゴ30玉も目に見えぬ速さでカットし、さらに鶏肉をオーブンで焼いていかないといけない。
この日、鶏肉を焼く担当は私になっていた。オーブンの火は点いているが、慣れていない私は、ちょっと中身を見ようと扉を開けた。その時…
ブワッ
熱っ!!ものすごい熱風が顔を直撃した。
チリチリッ
何かチリチリ言ってんなとは思ったが、火傷してないか鏡を見ると…まつ毛と眉毛が焦げて全て縮れていた。
うそおおぉぉ!!!!!
ほんの一瞬で面白い顔になってしまった私。しかし、配膳時間が刻々と迫ってきており、その日はショックを受けながらも半泣きで鶏肉を焼き続けた。
その後、数か月でまつ毛も眉毛も元に戻ったが、チリチリになったまつ毛で悩む同士も見付からず、まつ毛レス生活を開き直って過ごしていた。(隙あらば目にゴミが入るようになった)
その後、オーブンも新しくなり一見落着。