LINE公式アカウントによるデータの利活用
皆様こんにちは。THICK PLANTSの萩原と申します。山梨県でITと塊根植物販売のWワークを行っています。
今回はIT × 塊根植物をテーマに、LINE公式アカウントを活用した、塊根植物業界が抱える課題を解決するための取り組みをご紹介したいと思います。
塊根植物界の現状もお話しながら書いていますので、最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
1.塊根植物とコロナウイルス、塊根植物とSDGs
2020年初頭から猛威を奮い続けている新型コロナウイルス感染症。皆様本当に大変な思いをされていますよね。
そんな中でも、コロナの影響によるステイホームが起爆剤となり、もはやバブルと化しているのが、2018年くらいからブームに火がついている塊根植物です。
<塊根植物とは?>
塊根植物にも色々種類がありますが、ブームの火付け役とも言われているのが、マダガスカル原産のパキポディウムです。
下の写真はパキポディウムグラキリス。ぽってりしたフォルムがたまらない…。このフォルムなのに綺麗な花を咲かせるのもハマってしまうポイントです。
<パキポディウムグラキリス>
ここから少しだけ原産国とSDGsのお話をさせてください。
塊根植物の主な原産国となっているのは、東アフリカにあるマダガスカル共和国(島)です。マダガスカルは産業、経済の成長が遅く、世界的にも貧しい国に分類される島国です。
貧困国のマダガスカルにとっては、パキポディウムの輸出は貴重な収入源になっており、日本での塊根植物ブームはSDGsに貢献していると言っても過言ではないと言えます。
<塊根植物とSDGs(推進要因)>
ただ、良いことばかりではありません。マダガスカルでは無秩序な開発等により、環境破壊が大きな問題となっています。
日本への塊根植物の輸出がマダカスカルの貴重な収入源となっていることも確かですが、自然保護の観点では、否定的な意見が多く、SDGsへの阻害要因となっているという考え方もできます。
<塊根植物とSDGs(阻害要因)>
そういった背景のなかで、輸入を行っている日本側には、適切な管理を行なって、環境破壊を助長しないような取り組みが必要だと思ってます。
また塊根植物のマダカスカルからの輸入には、大きな課題があります。パキポディウムの輸入はワシントン条約により制限されていて、輸出入する際には、根が全て切り落とされてやってきます。
日本に輸入された時は、根がない状態(ベアルート)でやってくるので、再度根を出してあげなければ、そのまま枯れてしまうことになります。
<輸入されたベアルート株>
発根させるためには、温度、湿度、風、光、水やり等、現地と同じ環境を意識して管理する必要があり、素人には難しい作業です。
たとえ発根できたとしても、日常的な管理のなかで枯らしてしまうこともあり、ブームによって大量の株が日本にやってくるのと同時に、多くの株が日本で枯れてしまっている現状があります。
発根管理をSDGsとこじつけるのは飛躍しすぎかもしれませんが、自分の活動が良くも悪くもSDGsに関係していると考えると、課題に直面したときにどうしても解決したいと思うようになりませんか?(私はなります)
私は、発根管理や日々の管理のなかでも顕著に個人差が出る部分が「水やり」だと考えています。
「水やり3年」という言葉もあるように、ある意味匠の技術といっても過言ではないのです。
前置きが長くなってしまいましたが、「水やり」という課題に対して解決する手段はないかと考えたのが、きっかけです。
2.感覚的な水やりから論理的な水やりへ
ここからが本題。私も水やりに苦労したうちの1人です。
パキポディウムに関わらず、植物を枯らしてしまう原因の過半数が水やりに関係するものになっていっていることをご存知でしょうか。
特にパキポディウムを代表とした塊根植物は非常に根腐れを起こしやすい植物で、特に水やりが難しい植物です。皆様も水やりが原因で植物を枯らしてしまったことがあるのではないでしょうか。
水やりについて解説しているWebサイトや本は多々ありますが、よく書かれているのが「よく乾いてから水を与える」「水やり後の鉢の重さを感じる」等の感覚的なものによる記載が多いです。「よく乾いたら」の定義は管理環境等により異なるため、厳密に定義できないことは納得できます。
既存の製品で水分量を色の変化で確認できるスティック状のものもありますが、都度確認するのは少し手間に感じてしまいます。
だったら、データ化して論理的に管理できるようにする。かつ、もはや生活必需品となっているスマホで確認できるような「仕組み」を作ろうと考えました。
ここから少し小難しい技術的なお話になっていきます。横文字がたくさん出てきて分かりにくいかもしれませんが、なんとなくわかれば大丈夫です。
前述した「仕組み」を実現するために、使ったものはRaspberry Pi(通称ラズパイ )と、土壌水分センサーの組み合わせです。
<ラズパイとは?>
<土壌センサーを装着したラズパイ >
上の写真が実際に「仕組み」を装着した写真。
仕組みとしては、ラズパイ に土壌水分センサーを接続し、土中に差し込み、そこから数値を取得して、Google スプレッドシートに飛ばすというものです。
使用しているラズパイ はWifiも備えているため、インターネットに接続が可能であり、IoT(モノのインターネット)が実現できるもの採用したポイント。インターネットがあれば、どこでも情報を取得できるし、確認することもできます。
<概要図>
具体的な方法を説明していくとITオタクみたいになってしまうので、今回は割愛しますが、これで数値をGoogle スプレッドシート上で確認することができるようになりました。
<スプレッドシートの画面>
今回の検証で注視すべき値は上の図の「VALUE」という数値。土壌水分センサーは乾湿の程度により,電気抵抗値(VALUE)を返してくる仕組みです。ざっくり言うと土が乾いていれば数値が高く、濡れていれば数値が低くなるということです。
恐らく使う土や管理状況によって抵抗値の推移が変わってくるので、一定期間検証を行うことで、この土の「よく乾いた」の定義を以下のように定めることができました。
<土壌水分の定義>
これでデータに基づく論理的な水やりが可能になりました。たとえひろゆきさんに「データあるんすか?」と言われてもドヤ顔でデータを示すことができます。
ただ、このままだとわざわざスプレッドシートを確認しにいかなければなりません。データがあっても、確認するのが手間になってしまうと確認しなくなりますよね。
なにか手間をかけずにデータを確認することができないか、既に巷にリリースされているような個別のアプリケーションでも作ろうかと色々考えましたが、どれもしっくりとくるものがありませんでした。すでに生活に慣れ親しんだ画期的なインターフェースはないのか。そんなことをLINEで友達に相談していた時、思い浮かびました。
そうだ、LINEを使おうと。
3.日本のデファクトスタンダードの活用
皆様お待たせしました。ついにLINEの登場です。LINEは下部の折れ線グラフの通り、日本史上最も浸透したSNSでありユーザーインターフェースです。私はLINEが日本のデファクトスタンダード(事実上の標準)の代表例だと思っています。
数年前までは、老人が携帯電話を扱うこともできなかった時代でした。なのに昨今では80歳のおじいちゃんが、5歳の孫とLINEでメッセージをやりとりしたり、電話をする時代です。老人でも子供でも直感的に使うことできるインターフェースがLINEなのではないでしょうか。
<SNSのアクティブユーザーの推移>
引用:主要SNSユーザー数データ【2021年6月版】(株式会社ガイアックス)
これまではアプリケーションとユーザーインターフェースを併せて作成することが一般的でしたが、ここまで浸透したものがある以上、これを活用しない手はないですよね。
ここからはLINE公式アカウントを使った最高の仕組みを作っていきます。
前項で作成したスプレッドシートをデータベースにして、ユーザーインターフェースをLINE(公式アカウント)にします。
仕組みとしてはシンプルで、スプレッドシートの情報をGoogle Apps ScriptとLINEのMessaging APIを使って、botメッセージを送る仕組みにしました。
こういったAPI(連携する仕組み)が標準で用意されているのがLINEを利用する利点の1つですね。
下の図が今回の仕組みの全容です。
<概要>
今回の仕組みには若干のコーディングが必要でしたが、その辺りもLINEは簡単にする仕組みが準備されています。
LINEが提供しているLINE Bot Designerを使うことで、プログラム知識が全くなくてもbotの設計ができます。
下の画面の通り、作成したいメッセージの種類を選択し、テキストを入力をするだけでコードが生成されます。あとは生成されたコードをコピーして少し加工すれば、botを作ることができます。本当に簡単です。
<LINE Bot Designerの画面>
細かい説明はここまでにして、以降で実際の画面を踏まえながら、作成した仕組みを紹介していきます。
今回は大きく分けて2つの仕組みを作りました。
<プッシュ取得とプル取得>
1つ目のプッシュ取得の仕組みはLINEのbotの機能を使って、毎朝土壌水分の状況をプッシュ通知させる仕組みです。
LINEのMesseging APIでは、テキスト意外にも画像や動画等も扱うことができるため、この時にデータをグラフ化して一緒に送信する仕組みにしてみました。文字だけよりグラフもあったほうがわかりやすいですよね。
この仕組みがあることで、わざわざ確認する必要もなくLINEが水やりのタイミングを教えてくれます。いつ登録したのかわからない不必要なメールマガジンとは違って、欲しい情報を毎日届けてくれます。
<プッシュ取得のLINE画面>
もう1つはプル取得で、リッチメニューから随時で情報を取得できる仕組みです。リッチメニューに設定したメニュー(ボタン)を押下することで、「現在の土壌水分」というメッセージを送信する設定にしています。そのテキストメッセージがキックとなり、その時点の最新の情報を取得することができるのです。
<プル取得のLINEの画面>
LINEの良いところは、プッシュ型だけではなく、プル型にも対応できる点。そして、慣れ親しんだインターフェースなため、やっていることは新しいことなのにも関わらず、操作性に迷うことなく使うことができます。
これで感覚的な水やりから脱却し、データに基づく論理的な水やりを手間なく行うことができるようになりました。
4.まとめ
今回は土壌センサーから取得した情報を分析して、LINEで確認できる仕組みを構築してみました。私は一番大きな課題は水やりと定義しましたが、水やり意外にも課題はまだあります。
今後は写真センサーや光量センサー等を組み合わせてさらにデータを取得したり、ポンプと組み合わせて、水やりを自動で行えるような仕組みを作っていきたいと思っています。
その時のインターフェースにも間違いなくLINEを使います。
ここまで利用者が多く、使い慣れたインターフェースは他にはありませんし、LINEには豊富なAPIが用意されているので、データの利活用意外にも、アイデア次第で活用の幅は無限大だと思っているからです。
きっかけは趣味でもビジネスでもなんでも良いのではないでしょうか。趣味からビジネスに繋がることもあるからです。
これからも少しつづですが、LINEの活用方法を考えていきたいと思います。
<今回LINEを活用してみて思ったことの総括>
こんなことを書いている間にも植物からのLINEが届きました。水を欲しがっているみたいなので、水やりしてきますね。
長くなりましたが最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
もしよろしければInstagramにも遊びにきてください。